コロナマネーバブルは「偽りの夜明け」か!?
トウシル / 2020年5月14日 16時52分
コロナマネーバブルは「偽りの夜明け」か!?
「FRBはなし崩し的に株価インデックスETFも買うのではないか?」という観測
米国では新型コロナウイルスの感染拡大がいまだに終息の兆しを見せていない。主要な経済指標は落ち込み、さらに雇用情勢は大恐慌以来の水準にまで悪化している。そうした中、株式市場だけがQEインフィニティ(無限大量的緩和)という需給だけで奇妙な上昇を続けている。
連銀のバランスシートの拡大予測
5月12日からNY連銀による社債ETF(上場投資信託)買いが始まったが、株式市場が再度の大幅安に見舞われれば、「なし崩し的に株価インデックスETFも買うのではないか?」という観測が出ている。
米国の失業率が上がっているのは、働くよりも連邦政府と州のコロナ失業給付金をもらった方が、収入が増える米国人が多いからだ。したがって、失業率の増大はロックダウン解除後には落ち着くという見方も多い。しかし、本当の米国の地獄はロックダウン解除後に到来するだろう。
失業したミレニアル世代の人達は、コロナ失業給付金でFAAMG(フェイスブック・アマゾン・アップル・マイクロソフト・グーグル)やビットコインを買っているのだという。
コロナウイルスの感染拡大防止を受けたシャットダウンが続く中、航空業界や小売といった旧来型の企業が多大な影響を受け経営破たんに追い込まれる企業も相次いでいる。一方、ハイテク5社の1-3月期業績は堅調で、アマゾンは26%と大幅な増収、マイクロソフトはビデオ会議の利用が拡大し増収増益となった。またアップルはストリーミングサービスが伸び、売上高、利益ともに市場予想を上回った他、アルファベット(グーグル)とフェイスブックも増収増益での着地となった。
アマゾンの業績は拡大し続けている
米国株は5銘柄の成績
要するに、我々が―冗談めかして―2週間前に書いたように、「市場は今や5銘柄」なのだ。投資家たちはトップの5銘柄以外は投げ売りしており、実際にそれが今起きていることなのだ。そして、FAAMGからなる今までにない大きさの「ヘッジファンド/ミューチュアルファンド/リテイル/モメンタムのホテル」を作ったということだ。そしてここにゴールドマンからのもう一つの驚くべき統計がある:YTD(year-to-date/過去1年間)で5つの株式は10%上昇しているが、残りの495のS&P500企業は全体で13%低くなっている。(5月3日 ゼロヘッジ「FAAMGは2020年に10%上昇、残り495のS&P株は13%下落」)
FAAMG(フェイスブック・アマゾン・アップル・マイクロソフト・グーグル)とS&P495のパフォーマンス
以下はアマゾン、マイクロソフト、アルファベットの2015年1月の株価を起点とした2020年4月末までのS&P500指数とのパフォーマンス比較である。
S&P500とアマゾンの騰落率(2015年1月を基準とした変化率)
S&P500とマイクロソフトの騰落率(2015年1月を基準とした変化率)
S&P500とアルファベット(グーグル)の騰落率(2015年1月を基準とした変化率)
5月8日現在のアマゾン(青)とS&P500(赤)の推移
上のチャートをみれば分かるように、S&P500は2月から3月の急落時に35%下げたが、アマゾンは25%しか下げていない。また3月からのリバウンド局面では、S&P500は5月8日現在で安値から33%の上昇となっているが、アマゾンは46%の上昇となっている。
米国株の上昇は5銘柄の成績なのである。
筆者は米国株が底を打ったという確信が持てない。この相場には2番底、あるいは3番底というさらなる調整が潜んでいるように見える。大恐慌の再来とQEインフィニティ(無限大量的緩和)の中で、売るのも買うのも難しい不確実性の相場環境が到来している。ドラッケンミラーは、「米経済のV字回復見通しを空想だ」と述べている。
伝説的ヘッジファンド運用者のスタン・ドラッケンミラー氏は、米経済のV字回復見通しを「空想」だと述べ、株式のリスク・リターン計算はこれまでの職業人生で見た中で最悪だと語った。
ドラッケンミラー氏は12日にエコノミック・クラブ・オブ・ニューヨークが主催したオンラインイベントで、当局の景気刺激プログラムでは世界経済が見舞われている問題は解決できないと指摘。「市場では『心配ない。米金融当局の支援がある』というのがコンセンサスのようだ」が、「唯一の問題は、われわれの分析ではそれは真実ではないということだ」と述べた。
同氏はさらに、トレーダーは「非常に潤沢な」流動性が提供され、米経済の問題を解決する上で刺激策の規模は十分大きいと考えているようだが、新型コロナウイルスによる影響は長期にわたって続く公算が大きく、経営破綻が相次ぐとの見通しも示した。「自分の見方が間違っていると願うが、V字回復は空想だと考える」と付け加えた。
ドラッケンミラー氏のこうした見方は、米国が直面する暗い見通しに関してウォール街の重鎮がこれまで発した中で最も強いものの1つだ。同国では新型コロナ感染拡大で経済が停滞、信用市場が立ち往生、史上最長の強気相場が終了したにもかかわらず、米S&P500種株価指数は3月の安値から30%近く回復した。米金融当局による緊急プログラムや政府の経済対策などが背景だ。
出所:(5月13日ブルームバーグ「ドラッケンミラー氏、株のリスク・リターンは職業人生の中で最悪」)
大統領選挙まではトランプ米大統領が下げを抑え込もうとするので、下げも緩慢な相場になるかもしれない。それでも10年間積み上げてきたモンスターバブルの崩壊が3割程度の下げですむわけがないと思われる。QEインフィニティという流動性が人工的に相場を支えるのは限度があるだろう。
「安定は不安定を招く。事態がよりしっかりと安定し、事態がより長く安定しているほど、危機が起きたとき、より不安定になるのだ」
ハイマン・ミンスキー(米国の経済学者、1919~1996年)
「安定を理想とするのは誤りだ。不安定は資本主義のドラマに必要不可欠な部分である。景気循環の下降局面には、経済を再び清潔かつ誠実なものにする役割があるからだ。下降局面を抑えようとすると上昇局面を押さえつけてしまうことになる」
ジム・グラント(米国の金融著述家、1946年~)(1996年発言)
「忘れてはならないのは、過去6~8年にわたり世界中の金融政策が安定論者の助言に従ってきたことである。その結果、すでに十分な害が及んでいる。とっくに連中の影響を排除しておくべきだったのだ」(1920年代半ばから30 年代初めの金融政策について1932年発言)
フリードリヒ・ハイエク(オーストリア学派の経済学者、1899~1992年)
為替市場は調整中…投機筋の注目は5月安の豪ドル
中央銀行は再開された無制限の量的緩和によって自らが作り出した資産バブルを延命させている。3月と4月のFRB(米連邦準備制度理事会)によるこの前例のないQEインフィニティ(無限大介入)は、米国のマネーサプライの巨大な爆発となった。M2(現金、要求払い通貨、定期預金、MMF[マネー・マーケット・ファンド]など)は新しいお金を成層圏に突き上げるほど爆発的に増加している。そこには下支えする経済成長はない。これは将来的にドルの通貨価値の破壊につながりかねない事態である。
M2マネーストックと広範なマネーサプライの施策2016~2020年
為替相場は株の乱高下を受けた急落・急騰という短期のランダムな動きが落ち着き、各国の金融政策の差異がない中で緩慢な動きが続いており、ユーロ、スイス、ポンドなどは典型的な調整相場となっている。
ドル/円(日足)逆張りのATRチャネルトレードモデル
ユーロ/ドル(日足)逆張りのATRチャネルトレードモデル
ドル/スイス(日足)逆張りのATRチャネルトレードモデル
投機筋の注目は5月安の豪ドルである。上がるのか、下るのかは上海株の動向にもよるが、短期売買をするにはドル/円より面白いだろう。
豪ドルのシーズナリーチャート(上昇=豪ドル高・下落=豪ドル安)
豪ドル/ドル(日足)逆張りのATRチャネルトレードモデル
上海総合指数(日足)
QEインフィニティの最終的な結末はドル安であろう。その時は円とスイスとゴールドが買われるだろうが、今の市場は金融政策の差異もなく、超楽観主義で動いているため、そうした動きの本番は来年以降となりそうだ。
ウォーレン・バフェットの「本音」と「建前」
5月13日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、紙田智弘さん (楽天証券 株式事業部)をお招きして、「楽天証券のスマートフォン専用株取引アプリiSPEEDに米国株の取引機能が追加された!その使い方は?」「ウォーレン・バフェットの本音と建前」「相場師ドラッケンミラーの相場観」というテーマで話をしてみた。
ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロード出来るので、投資の参考にしていただきたい。
5月13日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー(ラジオNIKKEI)
(石原 順)
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