昭和57年来、初の6,000円台!東京金の現状と今後を分析
トウシル / 2020年5月18日 15時8分
昭和57年来、初の6,000円台!東京金の現状と今後を分析
昭和57年(1982年)3月23日の上場来、東京金は初めて6,000円台に到達
2020年5月16日(土)午前0時06分、ついに、東京金先物(標準)価格が、1グラムあたり6,000円という大台に達しました。この夜間取引では6,036円まで上値を伸ばしました。6,000円台は、昭和57年(1982年)3月23日(火)の上場来、初めてです(期先ベース)。
取引開始から現在までの、およそ38年間の値動きと主な変動要因を確認します。取引所名は、1983年当時は東京金取引所、1984年11月に左記取引所を含む3つの取引所が統合して東京工業品取引所、2013年2月に商号変更により東京商品取引所となりました。
図:東京金先物の価格推移と主な変動要因(期先、月足) 単位:円/グラム
※画像をクリックするとPDFファイルが開きます。
昭和57年(1982年)から令和2年(2020年)までのおよそ38年間の東京金先物価格を振り返ると、6,000円という水準が、38年間の最高水準であること、さらに、この間の最安値(1999年9月16日につけた836円)の7倍以上であることが分かります。
価格水準のほか、直近1年間の値動きにも注目です。2012~2019年半ばまで、およそ7年半続いた当時の高値圏である4,000~5,000円のレンジの上限を大きく上放れた後、現在まで1年間、上昇が継続しています。2019年6月月初から2020年5月18日までのおよそ1年間の上昇率は30%を超えています。
数年間、超えられなかった上限を超え、その後1年間、上昇し続けているわけです。金相場の変動要因には、「有事のムード」、「代替通貨」、「代替資産」、「中国・インドの宝飾需要」、「中央銀行の保有」など、少なくとも5つの材料が存在すると考えているのですが、直近1年間の目立った上昇は、5つのうち1つがそれぞれ、入れ代わり立ち代わり、作用して生じたものではないと、筆者は考えています。
少なくとも2つ以上同時、つまり複数の材料が重なり続けたことが、数年間超えられなかった上限を超え、かつ、1年間継続した30%を超える上昇を発生させたのだと思います。
東京金先物価格が6,000円を達成できたのは、材料が複合的に作用した(筆者はこれを材料の“多層化”と呼んでいます)ためだと思います。
東京金6,000円到達は、短期的に、3つの材料が束になって起きた
東京金の6,000円達成に向けた直近1年間上昇は、有事のムード(資金の逃避先として)だけ、代替通貨(ドルやユーロの代わりとして)だけ、代替資産(株の代わりとして)だけ、など単発の材料が作用して起きたのではなく、有事のムードと代替通貨、代替資産、この3つが束になって起きたのだと、筆者は考えられます。
以下は、東京金先物価格に最も関わりの強いNY金先物価格と、NYダウ平均の推移です。
図:NY金先物(期近 日足 終値)とNYダウ(日足 終値)
今年(2020年)3月の月初から3週目まで、いわゆる“新型コロナ・ショック”で、NY金もNYダウも、ともに下落しました。しかし、3月の4週目からともに反発しました。欧米の大規模な金融緩和が始まり、ダメージを負った主要国の経済が回復する期待が高まったためです。
NY金とNYダウが同時に上昇した後、4月中旬以降、NYダウの上値が重くなったタイミングで、NY金が強含みました。そして、この強含んだNY金につられて、東京金が6,000円に到達しました。
新型コロナウイルスがパンデミック化した3月以降、“有事のムード”(資金の逃避先として物色される動機)は底流し続けています。そして、3月4週目以降は欧米で大規模な金融緩和が始まったことで、欧米の主要国で市中に供給される通貨の量が増加し、当該国・地域の通貨の価値が希薄化する懸念が浮上し、“代替通貨”(ドルやユーロの代わり)の側面から金が物色される動機が生まれました。欧米の大規模な金融緩和は、現在も継続中です。
そして、NYダウの上値が重くなったタイミングで、“代替資産”(株の代わり)の側面から金が物色される動機が生まれました。
“有事のムード”、“代替通貨”、“代替資産”の3つが束になって、NY金が上昇し、それによって東京金が上昇して6,000円を達成したのだと思います。足元の金価格の上昇は、“どれか1つの材料だけ”で起きたのではない、と筆者は考えています。
中長期的には、“有事のムード”と“代替通貨”が金(プラチナも)を支える可能性あり
足元、欧米で大規模な金融緩和が行われていますが、中長期的な視点で、今後の金相場の動向を考える上で、欧米で大規模な金融緩和が行われたリーマン・ショック直後から数年間の、NY金とNYダウの値動きを参照することが有効だと、筆者は考えています。
図:NY金とNYダウの値動き(2008~2014年)
リーマン・ショック後、欧米で大規模な金融緩和が行われていた期間は、基本的には、“株高・金高”でした。また、2011年の中頃、株安が目立った時、金はさらに上値を伸ばしました。欧米の大規模な金融緩和時によって、中長期的に“代替通貨”(ドルやユーロの代わり)として物色され、なおかつ短期的に“代替資産”(株の代わり)として物色されたわけです。
コロナ禍の今、欧米で大規模な金融緩和が行われています。この状況が数年続けば、リーマン・ショック後のように、数年間、金価格は上昇し続ける可能性があり、かつ、短期的に株価が不安定になった時には、金価格は短期的にさらに上値を伸ばす可能性があると、筆者は考えています。
また、“株高・金高”をもたらす欧米の大規模な金融緩和は、プラチナの反発を誘発する要因になると考えられます。実際に、今年3月4週目から4月上旬まで、“株高・金高・プラチナ反発”の傾向が目立ちました。以下は、欧米の大規模な金融緩和によって“株高・金高・プラチナ反発”が起きる仕組みを示したイメージ図です。
図:欧米の大規模な金融緩和によって“株高・金高・プラチナ反発”が起きるしくみ
株高は金価格の下落要因(代替資産の側面における下落要因)ですが、この要因を相殺する上昇要因が発生すれば、金価格は上昇します。
欧米で大規模な金融緩和が行われた場合、株式市場には“景気回復期待”、金市場には“欧米の通貨の価値の希薄化懸念”という、それぞれ別々の意味の上昇要因がもたらされ、この結果、“株高・金高”が生じると考えられます。
プラチナにおいては、欧米の大規模な金融緩和が、2つの経路で間接的に作用し、反発のきっかけになると考えられます。株高によって、プラチナの自動車排ガス浄化装置向け、および宝飾向け消費が回復する期待が高まり、同時に、金高によって、貴金属で最も人気がある金につられて上昇する動機がうまれます。
さらにプラチナは、これらに加え、もともとコロナ禍でも、“リーマン・ショック直後の安値水準を底割れしていない”ほど、比較的底堅い、という特徴があります。
図:東京金と東京プラチナの価格推移(期先、月足、終値) 単位:円/グラム
投資をするなら、人気の金か、底堅さがあるプラチナか?あるいは両方か?
欧米で大規模な金融緩和が行われている最中であれば、金、プラチナ、どちらも面白いと、筆者は考えています。人気がある方がよい、有事のムードを強く感じる、などの場合は金を、底堅さを重視する場合はプラチナを選択する、という考え方もあると思います。
また、これらの2つを同時に保有する方法もあると思います。人気がある方がよい、有事のムードを強く感じる、これらに加えて、底堅さを重視する場合は、例えば、貴金属に投資をすることができる資金の3分の2を金に、残り3分の1をプラチナに、という方法もあると思います。さらに底堅さを重視する場合は、3分の1を金に、3分の2をプラチナに、という方法もあると思います。
金とプラチナを同時に保有する手法としては、純金積立のサービスで金とプラチナの両方を保有する、東京証券取引所で売買されている貴金属関連のETF(例えば、[金の果実](1540)、[プラチナの果実](1541)など)を保有する、商品先物口座を開設して東京商品取引所で売買されている金先物とプラチナ先物で保有する、などの投資手法があげられます(先物取引は、原則、保有できる期間に限りがあるため注意が必要です)。
[参考]具体的な貴金属関連の投資商品
(吉田 哲)
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