日経平均は、経済再開後の感染拡大にどう反応する?楽観シナリオと悲観シナリオ
トウシル / 2020年5月18日 7時32分
日経平均は、経済再開後の感染拡大にどう反応する?楽観シナリオと悲観シナリオ
日経平均は2万円を超えてから上値が重くなる
先週の日経平均株価は、1週間で142円下がり、2万37円となりました。2万円を達成してから、やや上値が重くなりました。引き続き、感染鈍化を理由に、中国、米国、欧州、日本で徐々に経済を再開することが好感されています。また、世界中でワクチン・治療薬の開発が予想以上の速さで進み始めていることも好感されています。
一方で、グレートロックダウンといわれる戦後最悪の景気悪化、米中対立が再び激化しそうな雲行きにあること、経済再開後の感染二次拡大の不安が上値を抑えています。
日経平均日足:2020年1月4日~5月15日
次の焦点は、感染二次拡大に対する社会の反応
世界の株式市場の方向性を決める最大の材料は、経済再開後の感染二次拡大リスクと、二次拡大があったときの社会の反応と考えています。
経済再開後に、感染の二次拡大が起こるのは避けられないと考えられます。問題は、それがどの程度深刻か、再び経済を止める必要があるか、の2点に絞られます。
感染の二次拡大起こったとき、社会的反応がどうなるかが、重要です。
【1】経済を再開した政府を非難し再び経済を止めることを求める声が高まるか、
【2】これ以上経済を止めるのに耐えられない、感染拡大はやむを得ないという声が高まるか、そこが重要です。
「経済を再開して感染が拡大することで失われる命もあるが、経済を止め恐慌になることで失われる命もある」、どちらがより重いか、社会的選択が行われることになります。どのような社会的選択が行われるか、それが、世界経済および株式の行方を決めると思います。
人間社会から悲劇はなくならない。何を受容し、何をブロックすべきか?
社会にはさまざまな悲劇があります。例えば以下は、交通事故による負傷者・死亡者数です。
日本国内の交通事故による負傷者・死亡者数:2015年~2019年
交通事故で、毎年これだけ多数の人が負傷、死亡しています。それでも、「人の命が大切だから自動車の使用を全面的に禁止すべき」という声は出てきません。利便性や経済を犠牲にすることはできないので、交通事故によって起こる悲劇は受容しなければならないという社会的コンセンサスが出来上がっているからです。
また、毎年、多数のお年寄りが餅をのどに詰まらせて死亡していますが、「餅の生産を禁止すべき」という議論は出てきません。餅は日本の伝統的食べ物で、禁止できないという社会的コンセンサスがあるからと考えられます。
そもそも社会からすべての悲劇をなくすことはできません。何を受容し、何を完全にブロックするか、選別せざるを得ない悲劇がたくさんあります。「新型コロナウイルスだけ特別視していつまでも経済封鎖を続けるわけにいかない」という考え方が欧米に出つつあります。ロックダウンによる経済の落ち込みが深刻になればなるほど、そう考える人が増えてきています。
急がれるワクチン開発
医学が未発達だった時代、致死率の高い感染症が大流行して、終息するには長い年月がかかりました。回復して免疫【注】を持つ人が、人口の6~7割を占めるまで、感染に歯止めがかかりませんでした。
【注】一般に感染症は、感染して回復すると、体内に免疫(病原ウイルスを排除する抗体)ができるため、一度かかると二度はかからない傾向。
例えば、1918年(第一次世界大戦末期)、世界的に大流行したスペイン風邪(当時は風邪と考えられていたが実際はインフルエンザ)がそうです。世界中で、何百万という死者を出し、生き残った人々が免疫を持つことで、やっと終息に向かいました。
新型コロナウイルスも、一度感染して回復したヒトには免疫ができるので、二度はかからないと考えられています(注:これは厳密に証明されたわけではありません。現時点ではWHO(世界保健機構)は「免疫の保証なし」と警告しています)。人口の6~7割が免疫を持つまで、経済を動かしながら感染症と戦うしかない、との考えもあります。
ちなみに、ニューヨーク州が行った「抗体検査」(免疫を持っているか否かの検査)では、まだ少数の標本調査に過ぎませんが、ニューヨーク市内の約2割が既に抗体を持っているとの試算が出ています。感染が終息する6割にまだ遠いが、それでも「知らないうちに感染し回復し、免疫を持っている人」が意外に多いことがわかったことは朗報です。
医学が発達した今日、たくさんの人が感染して集団免疫ができるのをただ待つわけにはいきません。米国、中国、欧州では、国家の総力をあげた予防用ワクチン開発が進んでいます。一刻も早く、ワクチンが開発され、投与によって免疫を獲得する人が人口の6割を超えることが望まれます。
日本は出遅れていますが、米国・欧州・中国では新型コロナワクチンの開発ラッシュとなっています。通常だと5年以上かかるワクチン開発を、1年~1年半で実現するペースで開発が進んでいます。米国は、来年1月にも、数億人に投与できるワクチンを開発する目標を持っています(そんなに早くできるはずないという専門家もいます)。
過去のスペイン風邪のように、何百万人の死者を出さないでも、いずれはワクチンの普及によって新型コロナウイルスを克服できるようになると考えられます。ただし、ワクチンが完成するまで、経済を止め続けて待つことはできません。感染の二次拡大と戦いならば、どう経済を動かしていくかが、焦点になります。
楽観シナリオと悲観シナリオ
経済再開後に、このまま世界の株式市場は、コロナ後を見込んで、上昇が続くのでしょうか?あるいは、「不況下の株高」が行き過ぎて、再び、二番底を試しに行くことになるのでしょうか?
今、考えられる、楽観シナリオと悲観シナリオは以下の通りです。大きな分かれ道が、両シナリオの(4)以降にあります。
<楽観シナリオ>
【1】中国・米国・欧州・日本で新型コロナウイルスの感染拡大が鈍化
【2】各国とも、巨額の金融・財政政策で、連鎖破綻、信用危機を回避
【3】中国・米国・欧州・日本で経済活動を徐々に再開
【4】各国で、感染の二次拡大が見られるが、経済を再び止めることはない
【5】ワクチン開発成功。ワクチン利用で二次感染拡大を抑える。集団免疫を徐々に実現
<悲観シナリオ>
【1】中国・米国・欧州・日本で新型コロナウイルスの感染拡大が鈍化
【2】各国とも、巨額の金融・財政政策で、連鎖破綻、信用危機を回避
【3】中国・米国・欧州・日本で経済活動を徐々に再開
【4】各国で、感染の二次爆発起こり、再び、経済を止める
【5】治療薬・ワクチンの開発に手間取り、なかなか成果が出ない
【6】財政政策で支えきれず、企業の連鎖破綻が起こり、信用不安に発展する
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