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第五章短期トレード、それとも長期保有

トウシル / 2015年1月21日 0時0分

第五章短期トレード、それとも長期保有

第五章短期トレード、それとも長期保有

短期トレードと長期保有、どちらが良いか?

短期トレードと長期保有、一体、どちらが良い投資戦略でしょうか? この答えは簡単です。皆さんが実際にやってみて、利益が出る方が、あなたにとって良い手法です。

短期トレードは上手いのに、長期保有では成果が出せない人がいます。逆に長期保有は得意なのに逆に短期トレードはぜんぜんダメな人も居ます。

投資の世界の有名人の例で言えば、SACというヘッジファンドを立ち上げたスティーブン・コーエンという人が居ます。彼は成長株の銘柄選びをやらせたら右に出る人は居ないと言われるセンスのいい投資家ですが、そのスタイルは短期トレードです。

ウォーレン・バフェットの場合、これとは正反対に長期保有を身上としており、自分は短期トレードはやらないし、そもそも得意ではないと公言しています。

バフェットやコーエンのような名人ですら、得手不得手がある

つまりそもそも短期トレードの方が優れているか? それとも長期保有の方が有利かという問題を、投資家本人の気性や資質の問題を抜きにして語ること自体、馬鹿馬鹿しいのです。投資スタイルというものは、極めてパーソナル(個人的)な問題なのです!

投資スタイルは、極めてパーソナルな問題だ。そこに他人がツベコベ口を差し挟む余地は無い

その場合、まだ両方の手法を試しても見ないうちから(オレは長期投資派だ)とか(私は気が短いから短期トレードの筈だわ)とか、勝手に自分の思い込みで決めないで下さい

卑近な話で恐縮ですけど、私は最初にアメリカで勤めた投資銀行がバリュー系の調査を得意とするSGウォーバーグという会社だったので、バリュー投資の訓練を受け、長期投資のアイデアばかりを追いかけました。その関係で自分自身も(オレは本格派バリュー投資家だ)という痛い妄想にとりつかれてしまったのです。

しかし……

次に入ったH&Qという会社は、成長株のIPOや調査を得意とする会社です。そこは私が最も軽蔑する、ドタバタした短期トレードの推奨ばかりをする投資銀行でした。ところがどうでしょう? 実際にやってみると、こっちの方もガンガン儲かるし、自分自身の投資スタイルも、それまでのじっくり構えた長期のスタイルから、「早乗り早降り」のスタイルに見事に変わってしまいました。

つまり私が言いたいことは、思い込みで(自分はこっちだ)と、やる前から決めてしまわず、両方のスタイルを必ず実地で行ってみて、どちらのスタイルを援用した方が自分の成績が良かったか、客観的に自己診断してみて下さいということです。

きっと思いがけない発見に驚きますよ(笑)

必ず両方のスタイルを試してみて、結果を自己診断しろ

両方のスタイルを試すときの注意

ここで大事な話をします。短期トレードと長期保有、この両方のスタイルを皆さんが実際に試すとき、「正しいやり方」を踏まえた上で、トライしてください。

正しい短期トレードのやり方は、ひとつしかありません。正しい長期保有のやり方にも、厳格なルールがあります。

面倒臭がってそのような「正しいやり方」を無視し、自己流で試したら、結果はランダムになってしまうのがオチです。

剣道でも水泳でも、先ず「型」というものを知る必要があるのと同じで、株式投資にも正しいフォームに相当するものがあります。それを無視し続けると、いつまで経っても上達しません。これは私が自信を持って断言できます。

株式投資にはちょうど剣道や水泳がそうであるように、正しい「型」というものがある。それを無視すれば、絶対に上達しない

短期トレードの基本

短期トレードの基本は順張りです。そう言うと(おいおい、ちょっと待ってくれよ! リバーサル(自律反発)トレードを忘れてもらっちゃ、困るな)と反感を抱く読者が必ず居ると思います。

その指摘は正しいです。ただそのような、既に有効性が立証されている数々の短期トレードの手法の大部分は、ちょうどいい加減のレバレッジを用いてこそ威力を発揮する手法なのです。その好例がFX(為替証拠金取引)です。

でもここではあくまでもレバレッジ(信用取引)を用いないストレートな短期トレードについて語るので、リバーサル・トレードに代表される、相場のアヤを取りに行くタイプのトレードは敢えて無視することにします。

そこで問題になるのは、そもそも「順張り」とは何か? という定義です。

順張りとは、株価のトレンドに逆らわず、素直にそのトレンドに乗って行く投資法を指します。チャートを眺めたとき、きれいに右肩上がりになっている銘柄を選ぶようにしてください。

短期トレードの基本は順張りであり、順張りとはチャートがきれいに右肩上がりになっている銘柄への投資を指す

もちろん右肩上がりでなくても、たとえば大きなボックス圏の範囲内で横ばいを続けている株のボックスの下限で買い、上限で売るという方法でも良いわけですが、私の経験から言わせてもらえば、そもそも株価がボックス圏を形成している銘柄は、業績がいまひとつハッキリとしない会社である場合が多く、リズムよく買いに入ることが出来なかった場合、好業績に助けられて拙いトレードから損を出さずに離脱できるという可能性は低いです。

ボックス圏を横ばいしているような銘柄は、大抵、業績がパッとしない

その点、株価が右肩上がりになっている銘柄は、大体、業績も良い場合が多いので、チャートの勢いの点でもフォローの風が吹いているし、業績の面でもフォローの風が吹いているという状況なわけです。このように株価を押し上げる幾つもの要因が、全てフル稼働しているような株を丹念に探すべきです。

どうせ順張りするなら株価を押し上げる全ての要因が、全てフル稼働しているような株を探せ

そもそも順張りというのは、素直に良いモノに乗っかる手法に他ならないわけですから(ちょっとでも安いところを……)とか(相場のアヤで売られた隙に……)とか、愚にもつかない小手先のテクニックを、あれこれ思案すると、それだけ逆効果になる場合が多いのです。

ハッキリ言って、順張りを得意とするプロは、そういう買い方をしません。彼らは好決算が発表された瞬間などにドカンと気合で買いに行きます。高値掴みになることを重々承知で飛び付くわけです。通常、そのような買い注文は、一日では収まりません。

順張りの上手いプロ投資家は、小手先のテクニックなど弄しない。気合で、ドカンと買いに行くのが普通だ

私は長いこと証券会社のトレーディング・ルームでそのような機関投資家を相手に商売していたので、最初は(なんだい、好決算が判明した後で慌てて買いに行くなんて、ダサい連中だな)という風に考えたものです。好決算が出るのをあらかじめ予想し、先回りするのでなければ意味が無いと思ったわけです。

しかし業績を予想することはそれほどカンタンではありません。それに好決算が出た直後というのは(業績が悪くなるに違いない)と考えて空売りをかけていたショート筋が慌てて買い戻します。つまり良い材料が出たところで出動するのが、いちばん堅いやり方なのです。

下はフェイスブックの2013年夏から秋にかけてのチャートです。フェイスブックは7月24日に好決算を発表しました。その直後に窓を開けている点に注目して下さい。

好ニュースが出た後で飛び乗るのはカッコ悪いと考える人は、たぶん短期トレードには向かないと思います。どこまでも素直にならないといけないのです。

どれだけ素直になれるかで順張りの成績はほぼ決まってしまう

なお銘柄選びに際しては同じ業種の中で、最も株価が強い銘柄を選ぶようにしてください。

同じ業種の中で最も株価が強い銘柄を買うことを心掛けよ

またマーケットシェアで首位の企業を、小さいけれど割安な銘柄より必ず優先してください。

マーケットシェアでリーダーの企業を選べ

これらは全て、「勝ち組は、たぶん今後も勝ち続ける」という、シンプルだけど無視できない事実に依拠したトレード戦略に他ならないのです。

短期トレード失敗の早期シグナルを見落とすな!

短期トレードは、ポジションを建てた矢先から、すぐに利が乗り始めるのが当たり前です。もし買い建てて5日くらい経っても利が乗っていないのなら、あなたがやっていることはどこか間違っていると疑うべきです。

短期トレードで買い建てて5日くらい経っても利が乗ってないなら、あなたがやっていることはどこか間違っている!

若し、株価が上昇トレンドを割り込んだ場合、あるいは自分の買い値より8%以上下がった場合、躊躇せず、その銘柄は切ってください。手仕舞いは、早ければ早いほど良いです。

短期トレードで株価が上昇トレンドを割り込んだ場合、すぐに損切りすること

短期トレードは、そもそも上昇トレンドのきれいさに惚れて投資するわけだから、トレンド・ラインを割り込んだら、買い根拠が消えてしまったことを意味します。

それから自分の保有している銘柄だけでなく、マーケット全体が弱気相場に入って、それが原因で買い値より8%以上やられてしまった場合も、かならず損切りしてください。なお、そのケースでは(割安な今のうちに!)というはやる気持ちをおさえ、まず市場全体が上向きになるまで休み、少し頭を冷やした方が良いでしょう。

長期保有の基本

ウォーレン・バレットに代表されるような長期投資を皆さんがやってみたいとお考えなら、次のリストから最初に投資する銘柄を選ぶことをお勧めします。

銘柄名 ティッカー 利回り 業種
AT&T T 5.3% 通信
ベライゾン VZ 4.5% 通信
ロッキード・マーチン LMT 3.0% 防衛・航空宇宙
ノバルティス NVS 2.9% 薬品
ウエイスト・マネージメント WM 3.2% ごみ処理
マクドナルド MCD 3.5% ファーストフード
プロクター&ギャンブル PG 3.1% 日用品
ゼネラル・ミルズ GIS 3.1% 食品
ジョンソン&ジョンソン JNJ 2.7% 日用品・医療関連
エクソン・モービル XOM 2.9% 石油
コカコーラ KO 2.9% 飲料
ペプシコ PEP 2.9% 飲料
バクスター・インターナショナル BAX 2.8% 医療関連
ウォルマート WMT 2.5% ディスカウントストア
チャブ CB 2.2% 保険

上の銘柄に共通することは、四半期ごとの業績に安定感があるということです。それに加えてバリュー投資家が好む、ワイドモート銘柄だという事です。

ワイドモートとはお城の周りに巡らせた濠(ほり)の幅が大きいという意味です。つまり防御力に勝った企業だと言い換えても良いでしょう。ワイドモート企業の条件としては:

  • 普通の企業以上に儲かっていること
  • 事業規模がバカでかいこと
  • 市場占有率が圧倒的であること
  • ロー・コスト体質であること
  • 有名なブランドを持っていること
  • ネットワーク効果があること
  • ユーザーや顧客にとって乗り換えコストが大きいこと

などです。

このような条件を満たす銘柄となると、沢山あるようで、実は候補リストは限られてきます。

私が「先ずバリュー投資に適した銘柄群のリストから始めた方が、早い」と主張する理由は、長年の経験から、経年劣化が起こらない、エバーグリーンのような銘柄は、本当に少ないことを、ひしひしと身を持って実感するからに他なりません。

長期保有に足る銘柄というのは実はとても数が限られている。だから買い候補リストから入った方が早い

若し私の提示したリストがイヤというのなら、例えばウォーレン・バフェットの投資会社、バークシャー・ハサウェイの保有銘柄のリストでも良いと思います。ポイントは、誰がやっても、大体、おなじような線に落ち着くという点なのです。

長期保有の利点は株式投資から目先の株価の乱高下というランダムな要因を除去し、長期でのその投資対象の潜在成長力やキャッシュを生む力に投資できるという点にあります。しかし肝心の投資先に潜在成長力が欠如しており、キャッシュを生むどころか、ごくつぶしみたいに株主のカネを使い果たしてしまうようなダメ会社であれば、長期に保有すればするほど、確実に酷い目に遭います。

せっかく株価の乱高下というランダム要因を除去しても、そもそも投資対象選びが間違っていたら成果は出ない

私のようなものから上に示した銘柄リストを渡され、「この中から選びなさい」と言われると、皆さんは(なにを生意気な!)と反発したくなると思います。でもこのリストは私の主観だけで選んだものではありません。私は長年、アメリカの色々なバリュー・ファンド・マネージャー達と仕事をしてきました。その過程を通じて、彼らが愛してやまない銘柄が、ここに挙げた銘柄だということを、身を持って知ったのです。

もちろん、ここにある銘柄はどれも退屈で死にそうな株ばかりです。でも長期保有というからには、最低でも5年くらい抱き続ける覚悟で投資して欲しいのです。

最後にひとつ長期保有に関するエピソードを紹介します。アマゾンのジェフ・ベゾスとウォーレン・バフェットは親友です。ある日二人がランチをともにした際、ジェフ・ベゾスがウォーレン・バフェットに訊きました。

「ウォーレン、あなたの投資アプローチは、極めてシンプルだ。そんな手法にもかかわらず、模倣者が続出してあなたの競争優位が失われてしまわないのは、一体、どうしてですか?」

これに対してバフェットは次のように答えました。

「世の中の人は成るべく早くお金持ちになろうと考えている。ゆっくりお金持ちになるというのは誰もやりたがらない。だから私の競争優位は失われないのだ」

(広瀬 隆雄)

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