第5回 チャイナショックは好機か!?
トウシル / 2015年8月25日 0時0分
第5回 チャイナショックは好機か!?
チャイナショックは好機か!?
中国発の景気失速懸念で世界中の市場が大荒れになってきました。2万円台を固めていた日経平均は一気に急落し、あっという間に18,000円台に大きく下落してしまいました。ニューヨークダウも週明けは一時1,000ドル以上も下げる局面があり、円ドル相場はわずか2分で3円も上昇して116円台に入るなど市場はまさに大荒れです。中国経済の減速は伝えられていましたが、その影響は主に資源国や新興国の市場、並びに商品市場などに留まっていて日米欧などの先進国の市場はそれほど大きな影響を受けていませんでしたが、中国の株価維持政策が実質破たんして中国上海市場が急落するに至って一気に不安感が増幅、世界中の株式市場にパニック売りが広がる流れが生じてしまいました。アベノミクス相場が始まった2012年11月以来順調な上昇をたどっていた日本株ですが、今回は大きなショック安を免れることができませんでした。
一方で日本企業は突出した財務体質や増益率など世界に比して岩盤の力を持っていますが、円相場が想定を超える上げになるなど多くの投資家の想像を超える市場の動揺が生じていますので、しばらく投資マインドは委縮するかもしれません。
しかし基本的に日本株の相場は2012年に底打ちして大きな上昇波動に入ってきていることを忘れてはいけません。バブルと言う声もありますが、PERやPBR、配当利回り、企業収益などどれを取ってみても日本株が割高ということはありません。ただ今回は中国経済の失速が予想を超える可能性が高いと思われますので、その状況を見極めたいという大きな売りの波が襲ってきたということです。
実際、中国株の更なる下げは止めることが難しいでしょう。特に中国政府が行ってきた株価維持政策が破たんして、株価の更なる下落を引き起こしている事実は深刻です。中国政府は一説で100兆円を超える資金を株式市場に投入して株価を買い支えていたと言われています。中央銀行である人民銀行が証券金融会社に資金を直接投入して買い支えを行わせたり、同じく人民銀行が中国工商銀行など国営の銀行を経由して間接的に株価の買い支え資金を提供してきた部分もあるでしょう。中国政府自身が公式の発表を行っていませんので、その正確な実体はわかりませんが、いずれにしても膨大な資金を株価買い支えに投入し続けて、結果的にその政策を放棄するに至ったことは間違いないでしょう。
こうなると今後の展開は非常に厄介なこととなります。というのもこのまま中国政府は株価の維持政策を放棄して株価を自然のままに任せていれば、中国上海市場の株価はこの相場の起点である昨年の2,000ポイントに向かって限りなく下がっていくことが想定されるからです。そうなれば中途半端に買い支えを行った膨大な資金さえも今度は損失の大きさで不良化してしまいます。いわば中国政府の打つ手が裏目、裏目に出てしまう形となってくるわけです。
一連の政策的な失敗は中国政府の政策遂行能力に多くの疑念を生じさせることとなるでしょう。中国経済は7%成長と言ってきて、今後成長が鈍化することは必至、と言われていますが、成長鈍化どころか成長率のマイナス転落も含めて極めて厳しい局面に陥っていく可能性が高くなったと言えるでしょう。その辺の懸念、混乱を今回の世界的な株安が映してきたわけです。
しかし中国経済の失速懸念は今後中国のみならず、米国や日本の政策においても重要な転機をもたらす可能性が高いことも頭に入れておくべきです。
まずは今回の混乱で米国の9月の金利引き上げ説は吹っ飛んだ形となったと思っていいでしょう。更には経済の失速を回避するために米国は次の手を考える可能性も高いでしょう。米国経済にとって株価は生命線で、このような株価の急落に対して何らかの手を打ってきてもおかしくありません。
また日本サイドでも一気に日銀による追加緩和の可能性が強くなってくると思われます。これだけ急速の円高や株価の下げがあっては今まで順調に推移してきた景気回復に水を差すのは必至です。日銀の日本株の買い付けは1年間で3兆円の予定ですが、連日株価が下がっているために日銀の購入は続き、このままいくと1年経たないうちに3兆円枠を使い切ってしまいそうです。このような情勢を考えるとまずは追加緩和策として日銀によるETFの買い付け枠の追加ということが日程に上ってくる可能性が高いでしょう。更に原油をはじめとする商品価格の下げが止まらない情勢ですから、今のところ日本経済にインフレ懸念は生じてこないので、追加的な国債購入や更なる財政出動も可能でしょう。
このように株価が下がれば、日米政府とも政策を発動しないわけにはいきません。中国経済は今後も更に悪化するでしょうし、中国の高度成長は完全に終了して、これから中国は最も厳しい局面に入っていくことでしょう。日本が大きな影響を受けることは否定できませんが、それが根本的に今までの日本株の上昇を変えるような動きになるとは思えません。先進国の中で日本企業は唯一20%を超える増益を確保していますし、商品安という物価下落の追い風を日本国民が享受できるメリットも忘れてはなりません。日本は財政難で国債を印刷し続けていますが、このようなことが可能なのも世界的な景気減速からくるデフレ傾向が物価安をもたらしてくれて、いくらマネーを印刷しても物価高が起こらないという幸運に恵まれているからです。日銀の物価目標が達成できない、と嘆く向きもありますが、日本経済は賃金が上昇しつつあるのに物価高が起こらないという極めて良好な状態であるとも言えるわけです。
日本株の強さは変わりません。一時的には世界的な流れから相場が大きく反落することもあるし、これは相場の常です。今回の世界的な株安によって金利がまた当分上がらないことがはっきりしてきました。株価が下がれば配当だけでも十分な利回りにあって投資採算に合うのが日本株です。日銀の買い付けは続く、ゆうちょ銀行は今後株式投資に乗り出す、更に現金をたっぷり保有している日本の個人投資家は大きな買い余力を持っている、日本株投資に弱気になる必要はありません。
(朝倉 慶)
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