第6回 コンピュータ・トレードの衝撃
トウシル / 2015年9月3日 0時0分
第6回 コンピュータ・トレードの衝撃
コンピュータ・トレードの衝撃
先週世界の株式市場は大荒れとなりました。日本株もその渦に巻き込まれ、日経平均は一日の値幅が1,000円以上に達して今年の高値から3,000円以上も安い、1万8,000円割れまで入るという大変な事態となりました。この局面を<買い>と思った人も多かったでしょうが、実際は手が出ないでただ茫然と傍観していただけの方が多かったことでしょう。投資家も予想外の思わぬ事態に遭遇するとどうしても動揺し、委縮してしまいます。何故、あのような大変動が一時的にも起こったのか、その真の要因はどこにあるのか、マーケットの実情はどうなっているのか、前もって知っておく必要があるでしょう。
相場は投資家の売りと買いが組み合わさって初めて値段が付くわけですから、どんな値段であってもそこを売る投資家と買う投資家が存在するわけです。ところが先週の驚くような相場展開を目のあたりにしては、自分の感覚と余りにかけ離れているので、一体何が起こっているのか、判断できなくなります。相場の実情が理解できないと、今度は相場に対しての恐れや恐怖が沸いてくるものです。その意味では相場の中で起こっていることを正確に理解して、どんな展開でもできるだけ冷静に対応したいところです。
まずあれだけ短期間に相場が変動するということは、相場が自然に動いているというより、動きを助長させる構造的なシステムが相場の中に内在していることを理解しておかなければなりません。一般的には相場があれだけ大きく動いたのは中国経済の失速懸念と米国の金利引き上げに対する不透明感から相場の乱高下が起こったと解説されますが、果たしてそれだけでしょうか?実は他に相場を大きく変動させる取引所内部における構造的な要因が働いているのです。
その一つがコンピューターによる超高速売買のロボット・トレーディングの暗躍です。現在東証の取引において高速売買が盛んでコンピューターによる自動的な株の売り買いが行われていることは多くの人が知っていることと思います。現在では東証でも超高速取引のシェアは4割以上に達しています。超高速取引は1秒間の間に1,000回以上の取引を繰り返すという人間の目にはとても見えないスピードで動きまわるわけです。
これらハイテク武装した超高速取引を有したヘッジファンドが日本の市場に襲い掛かってくるわけですが、この超高速取引においては、主に<トレンドフォロー>という相場のトレンドに沿ったいわゆる順張りの取引を得意としています。今回の中国ショックのような相場に不安材料が出て多くの売りものがでるようなときは、これら超高速取引はその不安を拡大させていくように更に売りものを大量に出すことによって相場を崩し、売りを無理やり誘って相場の振れを大きくすることを狙っていきます。そのことによって多くの投資家が株を投げ売りするような状態を作り出すことによって、そこで売った取引を解消するような買戻しを出すことによって巨額の利益を得るわけです。
例えば8月24日には円相場が119円からわずか2分間で116円まで入ったわけですが、これなどは典型的なコンピューター・トレーディングによる相場のかく乱です。投資家はいきなりの相場の変化に動揺、または為替もFXなどで一気に担保切れとなって怒涛の反対売買が生じることを読んで相場を動かされてしまうわけです。株も同じで一気に相場をかく乱するような動きを演出することによって投資家の動揺からの投げ売りを待つわけです。この下げを助長して相場で大儲けするのは超高速取引の最も得意とするところなのです。超高速取引業者で最近米国市場に株式を上場した<バーチュ>のCEOは24日、25日の株式市場の暴落について<我々にとって最良の日だった>と述べています。まさに弱肉強食の世界が相場の世界ですが、超高速取引業者にとって、相場が荒れること、相場を荒らすことは自らの大きな利益になるわけです。このような超高速取引の業者は今のところ、市場で大きな力を持って膨大な取引を繰り返していますので、彼らの影響によって相場が予想を超えるかく乱状態に陥るのはやむを得ないことでもあります。この問題について私は既に2009年の段階から警告し続けているのですが、残念ながら取引所自体が超高速取引に対しては野放し状態というのが現状です。何しろ超高速取引を扱う業者は取引所にとって取引の4割以上も行う超優良顧客なのでどうしても対応が甘くなります。
普通の投資家としてはそのような現状に対して<そんな想定外のことが生じるのでは株式相場は怖くて手が出せない>、と委縮してしまうかもしれませんが、これも問題です。というのも如何に相場がかく乱される要因があるにしても、株式投資は現在の個人の資産形成に対して欠かせないものだからです。低金利で預金などしていてはとても利息を取ることができません。株であれば現在の水準では3~4%近い配当を出す優良株も多くあるわけですし、将来懸念されるインフレにも対応できます。現状、資産形成において株式投資を外すことは賢明な判断ではないのです。
ですから超高速取引などの相場をかく乱する要因事態があることは、それはそれで株式市場における実情として認識しておくしかありません。そして相場が異様に動いたときなどは特有の相場の動きを大きくする要因が働いて相場の振れが異様な水準にまで広がっている、ということを冷静に見つめる姿勢が必要と思います。わからないと恐ろしいものですが、ある程度わかっていれば、それなりの対応も可能でしょう。一般的な個人投資家としては、短期的な取引においては超高速取引によるコンピューター・トレーディングにはとても太刀打ちできないと思われます。ですから腕によほどの自信のある方を除いては、自分の狙った株をじっくり拾って中長期で保有するという株式投資の王道で対応すればいいことと思います。超高速取引で市場の混乱は今後も生じるでしょうが、あなたは自分の狙った株を買いたい値段で買ってできる限り保有していればいいのです。短期的なヘッジファンドの暗躍に乗せられて株を投げ売りするような愚を犯してはならないのです。
(朝倉 慶)
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