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第7回 SQという魔物

トウシル / 2015年9月10日 0時0分

第7回 SQという魔物

第7回 SQという魔物

SQという魔物

 前回はコンピューター取引による超高速のロボット・トレーディングによって必要以上に相場がかく乱されていることを指摘しました。現在のように相場が荒れているときは最も彼らが稼げる時なのです。これら一連の白昼の株価操作を残念ながら当局が黙認している状態についても指摘しました。そして今週はSQと言って先物決済の清算日となるわけですが、このSQという制度自体がこれら超高速取引による株価操作を助長していることも指摘しておきたいと思います。

 株価を操作して儲ける、株価を大きく動かすことによって儲けるということは、それなりの膨大な資金量を有していないとできないことですし、またそのような株価の操作によって儲けられるシステムが相場の中に内在しているということも見ておかなければなりません。その問題の制度はこのSQという先物の決済システムです。

 少し専門的になるので恐縮ですが、例えば株や相場で儲けるには、買ってから売る、売ってから買う、というように反対売買をしなければなりません。あなたがトヨタの株を100株6,000円で買って8,000円で売ることによって20万円の利益を得ることができます。この逆も可能で信用取引を使ってトヨタを8,000円で売って6,000円で買い戻せば20万円儲けることができるわけです。

 普通の投資家であればこのような取引を何度行おうが、相場に影響を与えることはありません。日本の株式市場は流動性の大きな巨大な市場ですから、個々人の取引が市場を動かすような力を持ちえるはずもありません。

 しかし何故か、このSQの週、先物決済の週には特に株価が大きく動く習性があるのです。よく新聞やテレビなどの株価の解説で<SQに絡んで売り仕掛けが行われた>などという解説がありますが、<売り仕掛け>とは何でしょうか? <売り仕掛け>とは<相場を売ることによって相場を下げさせて儲けるように持っていく手法>です。普通は個人投資家が売ってもその資金量から市場には何の影響も与えませんが、何故ヘッジファンドなどの巨大な投資家は<売り仕掛け>を行うことで利益を得られるのでしょうか? それは単純に考えれば相場に膨大な売りものを出すことによって、相場を力づくで崩し、相場を下げさせることに成功したので、儲けることができるというわけで、現実にそのような取引が行われているのは事実です。

 ところでここで一つの問題が生じます。というのは相場を力ずくで大きく下げさせるような大量の売りものを出せば、それを決済するためには今度は大量の買い物を出して決済しなければならず、そうなれば売った時は下がるかもしれないが、いざ買戻しに入れば今度は大量の買戻しということになるので株価が上がってしまい結果的に儲けるのは難しくなるのではないか? という疑問です。

 あなたもマザーズやジャスダック、東証2部市場など流動性の薄い市場で株を取引したこともあると思います。その時に苦労するのは、買うのも売るもの、板が薄くて思ったような値段で売ることができず、また買うこともできない、結果的に自分の買いで値段を上げてしまい、自分の売りで値段を下げてしまうという経験です。

 実はヘッジファンドなど膨大な資金を有する投資家は確かに相場を<売り仕掛け>などで1,000億円単位の売りものを出して相場を崩すことはできるのです。しかし今度はその大量に売った建玉を買い戻す必要があり、今度は1,000億円売ったが1,000億円買い戻さなければなりません。そうなれば<売り仕掛け>で相場を崩したはいいが、買戻しで安く買い戻すことができず、結局高く買い戻すしかなくなり、大きな損失を抱えてしまうかもしれません。ヘッジファンドだって投資家ですから、皆さんと同じように首尾よくうまくいく時もあるでしょうが、相場の展開によっては<売り仕掛け>が機能せず、かえって大量に<売り仕掛け>したために後の買戻しで膨大な損失を被るかもしれません。投資家であれば皆さんもヘッジファンドも変わらないはずです。買ったら売って決済であり、売りから入れば買い戻して決済のはずです。

 ところがこの<買ったらその分売る、売ったらその分買い戻す>という当たり前のことをしなくていいのがSQという決済システムなのです。先物取引を行った経験のある方ならわかるでしょうが、買っても売ってもその決済についてはSQ値で決済することが可能なわけです。あなたが先物10万円売っても買い戻すことなくSQ値で決済が可能、ヘッジファンドにとっては先物1,000億円売っても買い戻すことなくSQ値で決済が可能なのです。これがSQというシステムです。

 となるとSQに向けてどういうことが起こっているかというと、ヘッジファンドなど大量の資金を有して株価を動かして利益を取ろうとするところはSQに向けて膨大な売りものを出して相場を力づくで思い切って崩してくるわけです。これが本当の<売り仕掛け>なのです。彼らは幸運なことに膨大に売った建玉を買い戻す必要はなく、SQ値で決済ですからSQの決済日に向かって膨大に売りたたくわけです。まさに資金量で相場を圧倒して儲けようとする手法です。このような取引が残念ながら日本市場では日常茶飯事で起こっているのです。株価操作ではないか! というかもしれませんが、実際株価操作なのですが、これも当局はSQの前日、木曜日だけの取引については警告を与えていますがその前の日までは野放し状態というのが実体なのです。

 2014年1月から2015年1月まで、昨年日本株が比較的に動きが小さかった時は、月の前半はSQがあるので大きく下げる時が多く、この期間に日経平均が400円以上1日で下げた日は9回中、8回までがSQの手前だったのです。それに対して月の後半日経平均が400円以上下げた日は年間通して1日しかありませんでした。明らかにヘッジファンドがSQに向けて強引に<売り仕掛け>を行ったことは統計上も明らかです。

 ヘッジファンドはハイテク武装して超高速取引で相場をかく乱して、SQめがけて日本市場に襲い掛かってきます、彼らは先物を売ることとオプション取引などを絡めて日本株を意識的に動かしてきます。そしてその巧妙なプログラムは物理や数学の天才たちによって作られているのです。超高速取引の必勝プログラムを作るスタッフは経済のことなど何も知らない物理や数学の天才たちなのです。こうして出来上がった超高速取引のプログラムによって現在の日本市場では1,000分の1秒単位で先物を1枚ずつ安値で売ることによって相場を崩してきます、と同時にオプション取引を絡めて利益を最大化しようと試みているのです。残念ながら彼らは東証の最も大事なお客様さまなので、彼らにはいち早く情報が配信できるように<コロケーション>システムという特別なサービスが提供されているのです。

(朝倉 慶)

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