ドル35%下落?2021年までに警戒すべき理由
トウシル / 2020年7月8日 15時22分
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ドル35%下落?2021年までに警戒すべき理由
米株は強気ムード。その背景は?
先週発表された6月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数は+480万人と予想(+300万人)を上回り、また、5月の+269.9万人も上回りました。失業率は11.1%と、これも予想より改善され、前月の13.3%より改善されました。しかし、同時に発表された前週分の新規失業保険申請件数や失業保険継続受給者数が予想より大きかったことから、ドル/円はほぼニュートラルの動きとなり、107.50円を挟んだ動きでした。NYダウ平均株価も一時400ドルを超える上昇となりましたが、結局92ドル高で終えました。
しかし、米国株式は7月に入って強気ムードが漂っています。
7月6日のナスダック株価指数は5日続伸で最高値を更新。また、NYダウも3週間ぶりの高値をつけました。この強気の背景は、欧米の経済指標が予想よりよい数字の発表が相次いだこともありますが、中国の上海株が大きく上昇したこと。アジア株や欧米株をけん引したようです。6日には、上海株は2018年2月以来の高値となり、政府系メディアが中国経済の先行きに強気の見方を示し、株高を支持する論説を掲載したことも買いを後押ししたようです。
もともと官製相場の色彩が強い上海市場ですが、香港国家安全法が施行された6月30日以降に上昇していることを見ると、政府の本気度も感じられ、しばらくは上昇相場が続くかもしれません。とはいえ、官製相場だという点には留意しておく必要があります。
また、6月30日に発表された中国の6月の製造業PMI(購買担当者景気指数)は50.9と、3カ月ぶりに改善。このことも株高を後押ししたかもしれませんが、内容は手放しでは喜べない内容です。雇用回復に遅れが見られ、中小企業の景況感は4カ月ぶりに、好不況の境目である50を下回っています。
そして、日本経済新聞(2020年7月6日付)によると、中国担当エコノミストの4-6月期実質GDP(国内総生産)成長率の予想平均値は+1.1%と、前期の▲6.8%からプラスに転じています。しかし、通年の予測でも+1.6%程度であり、V字回復は期待できないようです。7月16日に予定されている中国4-6月期GDP発表後も上海株は続伸するのかどうか、しばらくは上海株に注目です。
1ドル=108円の壁
先週のドル/円は、結局、108円台の重たさを確認した週となりました。
先々週は1ドル=106円の堅さを確認したことから、106~108円のレンジの上限と下限を、2週間かけて確認したことになります。ただ、ここしばらくは1ドル=107円台半ばから後半で推移しているため、再び108円を試す動きがあるかもしれません。その時に意識されるのが7月1日に発表された日銀短観(6月調査)の想定為替レートです。
6月調査の日銀短観によると、2020年度の想定為替レート(全規模・全産業)は1ドル=107.87円となっており、108円手前が企業に意識される水準となっていることが分かります。輸出企業(全規模)の製造業に絞ると、1ドル=107.60円とさらに円高水準になります。その中でも鉄鋼業の想定為替レートは1ドル=107.50円、自動車を含む輸送用機械は107.31円とさらに円高に。このことが1ドル=107円台でもみ合っている要因の一つなのかもしれません。
ただ、最近の貿易収支は貿易赤字が続いているため、輸出企業のドル売りのインパクトは以前ほど強くないかもしれません。
ちなみにユーロ/円の想定為替レート(全規模・全産業)は119.74円であり、現在の水準は1円60銭ほどの円安水準となっています。
スティーブン・ローチ氏の指摘
新型コロナウイルス感染拡大や経済規制によって大きく落ち込んだ経済活動は、米政府とFRB(米連邦準備制度理事会)が連携した政策効果によって4月を底に回復しつつあります。最近の米国経済指標や株式市場も、予想を上回るペースで改善しています。
そんな中、先日のTVニュースで、久々にスティーブン・ローチ氏(米エール大シニアフェロー)のインタビュー映像を見ました。1980年代からの米国の代表的なエコノミストの一人ですが、今も活躍されています。
そのインタビューの中、ローチ氏は、新型コロナウイルス対策による財政赤字の拡大で、ドルは2020年、2021年に実効為替レートで35%下落するだろうと指摘しています。35%下落とは、ドル/円の名目為替レートだと、1ドル=約70円の円高ということです。
国内の純貯蓄(家計・企業・公的部門の貯蓄の合計)が国民所得比でマイナスになると、為替で調整される力学が働き、基軸通貨であるドルもその例外ではないというのが彼の持論ですが、その調整時期が2020年、2021年という早い段階で起こるという主張が新鮮でした。マーケットでは双子の赤字によるドル下落という、1980年代の伝統的な論法はまだ話題にもなっていませんが、留意しておく必要はありそうです。
世界の新型コロナウイルス感染者数は1,000万人を超え、感染拡大が続いています。その中でも米国は最大感染国です。ワシントン・ポスト紙は5日、米国で過去1週間の新規感染者数が1日当たり平均約4万8,600人に上ったと伝えており、感染者数は連日過去最多を更新している状況です。この感染拡大が米国内に止まらず、再び経済活動が規制され、さらに政府の対応が追いつかない場合、この論法は突然、話題になってくるかもしれません。
米コロナ対策の責任者・ファウチ所長の警告
米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は6月30日、米議会上院で新型コロナウイルス新規感染者が1日当たり10万人になっても「驚かない」と述べています。そして、別の討論会では、「米国は流行がいったん落ち着くことなく再拡大が起きており、第1波の最中にある」との見方を示し、「深刻な状況だ。すぐに対処しなければいけない」と改めて警告しています。
ファウチ所長はトランプ米政権の新型コロナウイルス対策の責任者であり、これまでも政権に対し、かなり厳しい意見を述べてきています。しかし、それでもトランプ米大統領は彼を更迭しません。そんな人物の意見であるため、留意する価値がありそうです。
(ハッサク)
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