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電力株への投資はリスクが高いと考える理由

トウシル / 2015年1月29日 0時0分

電力株への投資はリスクが高いと考える理由

電力株への投資はリスクが高いと考える理由

28日の日経平均は27円高の17,795円でした。朝方は、前日の海外株安を嫌気して前日比152円安まで下がりましたが、そこから切り返しました。原油急落によって原燃料費の低下が見込まれる電力・空運・海運・陸運・紙パルプ株の上昇が目立ちました。

今日は、電力株投資についての考え方を書きます。短期投資の対象としては問題ないが長期投資には向かないというのが、私の考えです。

(1)中国電力(9504)が今期利益計画の増額修正を発表

27日に中国電力(9504)は、今期(2015年3月期)利益計画を大幅に増額しました。10月時点で210億円としていた今期経常利益計画を、430億円に増額しました(前年度は▲36億円で経常赤字)。

同社説明によると「原油CIF価格の大幅な低下などによる原材料費の減少が見込まれることや経営全般の効率化に努めていることなどが」増額修正につながりました。発表を受け、28日の中国電力株は100円(6.6%)高の1,614円となりました。

(2)電力各社の今期利益は上ぶれ含み

中国電力(9504)だけでなく、電力各社は全般に原油急落によって燃料コストの低下が見込まれることが、今期経常利益の上ぶれ要因となります。

 

電力各社の2015年3月期経常利益の会社計画と市場予想比較

コード 銘柄名 会社計画:億円 市場予想:億円 上ぶれ予想
9501 東京電力 2,270 2,561 +13%
9502 中部電力 300 563 +88%
9503 関西電力 ▲ 1,350 ▲ 1,094 赤字縮小
9506 東北電力 880 927 +5%
9509 北海道電力 ▲ 220 ▲ 131 赤字縮小
9511 沖縄電力 58 66 +13%

(注:今期経常利益計画を開示している電力会社(除く中部電力)について、会社計画と市場予想を比較。市場予想はアイフィスコンセンサス予想、楽天証券経済研究所が作成)

(3)原燃料調整制度があるので原油急落メリットは最終的に電力会社には残らない

電力会社は、「原燃料費調整制度」により、燃料価格変動によるコスト増減を、3カ月後の電力料金に自動的に転嫁できることになっています。原油が上がれば料金を3カ月後に引き上げ、原油が急落している時は、3カ月後に料金を引き下げます。

2月の電力料金は昨年9~11月の平均燃料価格から計算します。9~11月は円安によって輸入LNGコストが上昇していたので、東京電力・中部電力・関西電力など電力6社で電力料金は引き上げになります。

足元の燃料コストが減少しているにもかかわらず、料金が引き上げになります。これが、1-3月の電力会社の業績を引き上げます。ただし、4月以降、原油急落の影響で、電力料金は徐々に下がってくると予想されます。電力会社の業績は、今期(2015年3月期)は上ぶれしても、来期(2016年3月期)にはそのメリットは残らないと考えられます。

なお、来期には、長期契約のLNG輸入価格が下がってくることが見込まれます。長期契約のLNG価格に、原油連動条項がついているからです。LNGガス火力への依存が大きい日本の電力会社は、来期LNG価格の低下でメリットを受けることになりそうです。ただし、そのメリットも最終的には電力料金の引き下げを通じて、消費者に還元されますので、電力会社には残りません。

(4)原発事業を有する電力9社は投資対象としてリスクが高い

原発事業を行ってきた電力9社(東京電力・関西電力・中部電力・九州電力・中国電力・四国電力・北陸電力・東北電力・北海道電力)への投資は、リスクが高いと判断されます。それは、核燃料サイクル事業が実行可能か否か、現時点でわからないままだからです。

(注)沖縄電力は原発を保有していません。Jパワーは原発の建設を始めていますが、未完成です。

核燃料サイクルを実施することを前提とすると、使用済み核燃料はプルサーマル発電や高速増殖炉で新たに発電を行うための「資源」となります。しかし、核燃料サイクルを断念する場合、使用済み核燃料は、最終処分に莫大なコストがかかる「核のゴミ」となります。

今の日本は、技術的にまったく完成のメドがたっていない核燃料サイクル事業が実現することを前提に原発事業を推進しています。つまり、使用済み核燃料をバランスシートでは「資源」として評価しています。

ところが、最近になって核燃料サイクルは実行不可との見方が強まってきています。もし、政府が「核燃料サイクルを実施しない」と判断を変える場合、国内に積み上がった使用済み核燃料は「資源」から「核のゴミ」に変わります。その最終処分コスト負担によって、電力会社の財務は著しく悪化する可能性があります。

<参考>核燃料サイクル事業について

現在、日本は、核燃料サイクルが実現することを前提に原発を推進しています。核燃料サイクルとは、使用済み核燃料を再生してMOX燃料を作り、繰り返し発電に使う事業のことです。最終的に天然ウランに含まれるエネルギーの7割近くを発電に利用できる可能性があります。

現在の原発(軽水炉)で、燃料として使用しているのはウラン235だけです。ウラン235は天然ウランに約0.7%しか含まれていません。残り99.3%は核分裂しないウラン238なので、発電に使えません。つまり、現在の原発では天然ウランの持つエネルギーの約0.7%しか使用していないのです。アメリカ・カナダ・ドイツ・フィンランド・スウェーデンなどは、技術的にむずかしくコストが嵩む核燃料サイクルはやらない方針を決めています。ウラン235だけ使って発電し、使用済み核燃料は、廃棄処分する方針です(図A)。

<図A>核燃料サイクルを行わない場合:使用済み核燃料を直接処分

 

ウラン238の持つエネルギーまで活用するのが核燃料サイクル事業です。ウラン238の一部は、ウラン235が分裂する際に出す中性子を吸収することでプルトニウムに変わります。このプルトニウムを使って再生燃料(MOX燃料)を作り軽水炉で発電を行うのが、プルサーマル発電です(図B)。

<図B>核燃料サイクルを行う場合:プルサーマル発電まで

 

さらに、MOX燃料を使って高速増殖炉で発電すると、発電に使ったプルトニウムの量を大幅に上回るプルトニウムが得られます。そうすると、使用済み核燃料は、繰り返し何回も使える貴重な資源になります(図C)

<図C>核燃料サイクルを行う場合:高速増殖炉まで

 

高速増殖炉を実現して、MOX燃料を何回も再生して使用し、天然ウランの持つエネルギーの7割まで活用できれば、原子力は計算上、人類が使用するエネルギーの1000~2000年分を賄うことができるようになるはずでした。

ところが、日本の核燃料サイクル事業は、現時点でまだ何も実現していません。使用済燃料から未使用のウランやプルトニウムを取り出してMOX燃料に加工する予定であった青森県六ヶ所村の再処理工場は技術上の問題が次々と出て完成が遅れています。

核燃料サイクル構想は、高速増殖炉の開発でも遅滞しています。日本では、再処理したプルトニウムで動くはずであった高速増殖炉「もんじゅ」は1995年にナトリウム漏洩事故を起こして以来、実質稼働停止のままです。欧米でも技術的な困難と経済性から、高速増殖炉の開発は断念する国が増えています。

 

(窪田 真之)

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