教養としての投資(2):人生100年時代の選択肢
トウシル / 2020年8月31日 6時0分
教養としての投資(2):人生100年時代の選択肢
「 農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね」を運用している農林中金バリューインベストメンツのCIO「奥野一成」が、『ビジネスエリートになるための教養としての投資』を執筆、投資の本ながらビジネス部門で話題となっている。
投資と本来の投資のあり方とその哲学、長期投資のコツ、優良企業の見極め方などを、歴史的な背景や実例を交えながらわかりやすく解説するこの著書は、投資を今から始める人、投資の運用に困っている人にぜひ読んでほしい。
トウシルでは、この本の中から、ぜひみなさんに読んでほしい内容を10編ピックアップ。今回は2回目を紹介する。
人生100年時代の選択肢
なぜこんなに株式投資を勧めるのか、皆さんは不思議に思うかもしれません。しかし私は別に証券会社や東京証券取引所の回し者ではありません。そうすることが、皆さんのこれからの人生にとって必要だからです。
「人生100年時代」。もういろいろなところで言われています。皆さんが労働者1.0のままで働き続けたとしましょう。労働者1.0ですから、富を生み出せるアセットは自分自身だけになります。自分が持っている才能と時間を使ってひたすら働くわけです。それによって生み出されたキャッシュによって生活していきます。
社会人になるのが22歳で、亡くなるのが85歳だとしましょう。この間、稼げるキャッシュは22歳の時よりも30歳、それよりも40歳というように、徐々に増えていき、恐らく50歳あたりでピークを迎えます。その後、55歳くらいで役職定年があり、その時点で給料が30%くらいカットされます。そして65歳まで雇用延長で働ける会社だとしたら、60歳の時点でさらに給料がカットされ、働くことで得る収入は一旦、65歳の時点で終わるという流れになります。そこから先は年金のお世話になるわけです。
ここから先に大きな問題が立ち塞がっています。それは、長生きしてしまう「リスク」があることです。
昔は長生きすると、「おめでたい」などと言われましたけれど、それは周りが早死にだったからです。平均寿命が60歳程度の時に100歳まで生きる人がいたら、それはめでたいわけです。本当に一握りの人ですから。
これは実数で見ればよくわかります。厚生労働省の数字によると、昭和38年の100歳以上高齢者人口は、男性20人、女性133人の合計153人でした。総人口数が9615万6000人だったので、100歳以上高齢者人口が総人口に占める比率は0.0001%でした。
それに対し、最近はどうなのか? 令和元年時点の100歳以上高齢者人口は、男性が8463人、女性が6万2775人で合計7万1238人です。爆発的に増えていますね。総人口は1億2616万7000人ですから、100歳以上高齢者人口が総人口に占める比率は0.05%です。それでも0.05%ですから、驚くほど高い比率というわけではないようにも思えます。しかし、これから日本の出生数はさらに減少のスピードを速めていきますし、逆に100歳以上人口はこれからも増え続けます。
そうなると、長生きしていることがおめでたいことにはならないのです。
最大の問題は、人ひとりが22歳から65歳までの四十数年間に稼ぐことの出来る総量が、能力、運の差によって個人差はあるとしても、ある程度決まっているということです。
一方、かつて死亡年齢といわれていた80歳を超えて、100歳まで長生きしてしまうことによる支出の増加分だけ、40数年間の労働期間中に多く稼ぐ必要があるのです。働けなくなった時に頼りになる社会保障制度や定年後の糧となる公的年金制度は、人間が100歳まで生きることを前提としていません。うっかり長生きしてしまうと、人間として十分な生活が出来ないのです。
最近は、「高齢者になってからも働くことが大事」などと言っている人もいますが、私はこれに敢えて異論を唱えたいと思います。なぜなら、ほとんどの人間は歳をとると若い時に比べて生産性が下がってしまうからです。もちろん経験が活きる分野もあろうかと思いますが、新しいイノベーションが求められる分野においては、過去の経験はややもすると邪魔になることもあるのです。資本主義は、ときに乱暴とも思えるような飽くなきイノベーションの担い手を求めているのです。
この問題を解決するための方法は2つあります。
ひとつは22歳から50歳までの収入を増やすこと。そのためには自己投資を行って、自分の才能を増やします。一番確実にリターンを増やせる方法は自己投資なのです。私が英語を勉強したり、イギリスに留学したりしたのがまさにこれです。
しかし、それでも足りなくなる恐れがあります。65歳まで働ければ良いのですが、途中で会社が倒産してしまったり、自分が病気になって働けなくなったりするリスクだってあるわけです。そうなると、自分の才能を伸ばして収入を増やすこと以外に、何か手立てを考えなければなりません。
だから投資なのです。幸いなことに、年齢が30代の半ばくらいになると、徐々に自分自身の金融資産が積み上がってきます。急場の時に必要なお金をすぐに引き出せる預金で持っている必要はあるものの、必要以上のお金を預金で置いておいても、この超低金利下ではそこからは何の利益も生み出されません。
そこで、この現預金を用いて株式投資を行うのです。自分が働くのではなく、他人に働いてもらうのです。まさに資本家の発想です。自分が企業のオーナーになれば良いのです。そうすれば、自分自身が働けない年齢になったとしても、他の人が働いて収入をもたらしてくれます。
正直なところ大半の人たちは、自分自身で働くよりも、永守さんに働いてもらった方が良いわけです。もし米国企業に投資するならば、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスに働いてもらった方が、良い結果がもたらされる可能性が高いと思います。自分より優秀で、稼いでくれそうな自分以外の仕組みにお金の一部を投じること。投資をするというのは、つまりそういうことなのです。自分が働いて稼ぎ出す総金額を大きく増やすことが難しいという前提の上で、予想以上に延びてしまった寿命をまっとうするには、自分以外を働かせるしかないことを理解していただけたでしょうか。
<『ビジネスエリートになるための教養としての投資』より抜粋>
全編読む:『ビジネスエリートになるための教養としての投資』
(農林中金バリューインベストメンツ)
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