教養としての投資(4):「有能の境界」を意識しよう
トウシル / 2020年9月2日 8時0分
教養としての投資(4):「有能の境界」を意識しよう
「農林中金<パートナーズ>長期厳選投資 おおぶね」を運用している農林中金バリューインベストメンツのCIO「奥野一成」が、『ビジネスエリートになるための教養としての投資』を執筆、投資の本ながらビジネス部門で話題となっている。
投資と本来の投資のあり方とその哲学、長期投資のコツ、優良企業の見極め方などを、歴史的な背景や実例を交えながらわかりやすく解説するこの著書は、投資を今から始める人、投資の運用に困っている人にぜひ読んでほしい。
トウシルでは、この本の中から、ぜひみなさんに読んでほしい内容を10編ピックアップ。今回は4回目を紹介する。
「有能の境界」を意識しよう
次に時間や能力の配分の方法について議論しましょう。ここで導入したいコンセプトは「Circle of Competence(有能の境界)」というものです。私たちの身の周りには自分ではどうにもならないものがたくさん存在します。例えば、雨が降っているからといって、晴れるように願ったところでどうしようもありません。エレベーターがなかなか来ないからといっても早く来るようにすることは不可能です。半面、半年後のテニスの試合までに出来ることはたくさんあるでしょう。また、来週の顧客向けプレゼンを作り込むためにした努力が嘘をつくことはありません。
このように自分ががんばってもなんともならないことと、自分が影響できることとの間には、「主体性」を切り口として線を引くことが出来ません。この境界線を意識することが、気持ちよく生きていくためにはとても重要です。自分ではどうしようもないことに気をもんでもなにも変わらないし、時間の無駄です。
横軸に「将来」「過去」を、縦軸に「自分」「自分以外」をとるとすべての事象は4象限に分けることができます。左下の象限は「他人/自分以外の過去の出来事」です。例えば、芸能人の不倫ネタなどがこれに当たります。はっきり言うと、完全にどうでも良いことです。
左上の象限は「自分の過去の出来事」です。彼女に振られたとかプレゼンで失敗した、という出来事がこれに該当します。ここで起きてしまった過去の事実そのものはどうしようもありません。これを将来に活かせるかどうかは自分次第ですが、起こってしまったことをクヨクヨしても後の祭りです。気持ちを切り替えましょう。
右下の象限は「他人/自分以外の将来の出来事」です。他人に影響を及ぼすことは可能かもしれませんが、他人の意思決定をコントロールすることは不可能です。たとえどんなに親しい友人であったとしても他人であって、その人の人生はあなたのものではありません。たとえ家族でも本当に突き詰めれば他人です。多くは語りませんが、この境界を明確に意識しないところに世の中で起こっている多くの悲劇の原因があるように感じます。
残るは右上の象限「自分の将来の出来事」です。これこそが自らの才能・時間・お金という自分の資源を集中投下するべきところで、ここに集中して投資することによって文字通り人生が大きく変わります。精神的な問題も含め、世の中の大半の問題は自分がコントロールできない分野にまで、自分の関心を拡げてしまうことから起こると考えています。
これは投資についても同じです。私たちは、投資企業がおかれた事業環境、競争優位性から導かれる事業の経済性について分析することは、私たちの「有能の境界」の範囲内にあると考えています。半面、他の投資家たちの売買によって左右される株式の需給などは境界の外にあって、知りようがありません。何が分かっていて、何が分からないのかを明確に切り分け、当たり前にやるべきことを当たり前にやる、というスタンスが市場に対峙する時でも重要だと考えています。
話が少し脱線したかもしれませんが、この章で言いたかったことをまとめましょう。若い間は、まず自己投資をしましょう。「自分が働く」という最も着実な土台を整え、将来の選択肢を獲得することを優先しましょう。そして余ったお金は株式投資で自分よりも優秀な人や、自分が勤める会社よりも素晴らしい企業に稼いでもらうのです。その時、投資をほったらかしにすることなく、投資先企業の事業性や産業について、自分なりに考えるようにしましょう。そうするとビジネスパーソンとしての思考力が格段にアップして「自分が働く」という投資にも良い影響が現れます。これはまさに相乗効果です。
この2つの投資(自己投資と長期の事業投資)は相乗効果をもって、自らの能力を増大させると同時に、他の企業を選ぶ能力も増大させます。傲慢(ごうまん)と思われるかもしれませんが、私はまさにそのような人生を歩んでいます。
時間と少しばかりのお金を有効に配分して、自分という道具を磨き、自分よりも優秀な他人を働かせる。これが投資です。このような「人生における投資」を考える上で、「有能の境界」という考え方は優先順位を考えるのに役に立つと思います。コントロールできるのは自分の将来のみです。これに気づくことなく、自分自身ではどうしようもない境界の外にある余事に足を取られ、過去に引きずられ、他人に言われるままの人生を生きれば、相当の確率でとん挫します。たまたま成功したとしてもそれは自分の人生ではありません。人生は100年もあります。他人の人生を生きるのはまっぴら御免です。自分自身のオーナーになりましょう。
<『ビジネスエリートになるための教養としての投資』より抜粋>
全編読む:『ビジネスエリートになるための教養としての投資』
(農林中金バリューインベストメンツ)
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