個人投資家が外国債券に投資する条件
トウシル / 2009年11月6日 0時0分
個人投資家が外国債券に投資する条件
外国債券の投資商品
筆者は、これまで個人投資家が外国債券に投資することに対して不賛成だった。個人的には、「外国債券」は決して嫌いな資産クラスではない(かつてバランスファンドを運用する際にライバルよりもかなり多めに外債を組み入れたことがある。ただし、為替リスクはフルヘッジだった)。
しかし、個人が外債に投資しようとすると、個別の債券に投資することについては、
- (1)信用リスクの判断が個人には難しい(格付け会社は信用できない)
- (2)基本的に業者間取引となるため市場価格が分からないので「値ざや」を抜かれやすい
- (3)為替でも大きな手数料を取られることがある
といった難点がある。
外国債券を組み入れる投資信託なら上記の問題の多くが解決するが、今度は、信託報酬だけで1%を超えるような商品が多く、こちらもコスト面で「話にならない」と考えていた。債券の期待リターンは、円貨・外貨どちらが高いともいえない微妙なもののはずだ。そう考えると、現在の金利水準にあって、年率1%のマイナスは余りに大きく「話にならない」は決して大袈裟な言い方ではない。
ところが、喜ばしいことに、「上場インデックスファンド海外債券(Citigroup WGBI)毎月分配型」(愛称:上場外債。コード番号1677)という先進国の債券に投資して信託報酬が年率0.25%というETFが上場された。毎月分配型になっていることは余計だと思うが、信託報酬率はかなり低い。現時点では、個人がポートフォリオに外債を組み入れたいとしたら有力な商品選択肢だ。
調べてみたいこと
問題は、どのような場合に「外債を組み入れたい」と考えるべきなのかだ。
以下、投資家のリスクに対する態度(リスク拒否度で表す)と期待リターンを変えて、何通りかアセット・アロケーション(資産配分)の最適化計算をやってみた。リスクのデータはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が基本ポートフォリオの検証に使っているデータで過去の35年間(1973年~2007年)のリターンに基づいて計算したものだ(2009年の検証も行われているが、本連載の他のケースとの比較が容易なように2008年検証のデータを使った。両者の差異はごくわずかだ)。
最適化計算は「効用=期待リターン-リスク拒否度×リスク(分散で表す)」の形の効用を最大化する資産のウェイトをマイクロソフトエクセルのソルバーで計算したものだ。最適化計算の際にはそれぞれのアセット・クラス(資産分類)のウェイトに0%以上100%以下という制約を課している。
リスクに対する態度の変化
最初のケースは内外の株式の合計が全体の3分の2くらいを占めるポートフォリオが最適解になるようなリスク拒否度(λ=0.015)のポートフォリオだ。内外の株式が債券よりも5%大きな期待リターンとして、内外の債券の期待リターンを1%とした(表1)。
表1 アセットアロケーションの計算
(注:個々のアセット・クラスのリスクの大きさは表の中にある通りだが、アセット・クラスのリターン間の相関係数は以下の通りだ)
相関係数
この場合、外国株式が39%強入ってくるが、外債は組み入れ対象にならない。
もう少し、リスクに対して慎重な(リスク拒否度λ=0.025)ポートフォリオを見てみよう(表2)。
表2 アセットアロケーションの計算
内外の株式の合計は4割強に減るが、それでも外国債券は入ってこない。
さらにリスク拒否度の大きなポーフォリオを計算(λ=0.05)する(表3)。このポートフォリオは内外株式の合計が全体の4分の1に満たない、リスクに対して非常に慎重なポートフォリオだ。今度は、1.24%とごくわずかながら、外国債券が入ってくる。
表3
リスクに対して消極的になった場合に最適化計算上、外債がわずかに入ってくることは分かったが、手数料の条件を考えるとどうか。外国債券の期待リターンを、ETF「上場外債(1677)」の信託報酬に相当する1%から0.75%に変化させて最適ポートフォリオを計算してみた(表4)。
表4 アセットアロケーションの計算
0.25%期待リターンを下げると、外債の組み入れはゼロになってしまった。
期待リターンの変化
次に、外債の期待リターンが国内債よりも大きい場合を考える。外貨建ての名目金利をそのまま円ベースの期待リターンだと考えて高金利国の債券を買うのは初歩的な誤解だが、「円債と外債の期待リターンは基本的にはほぼ同じ」ということを理解していても、たとえば円の長期的な推移に関して金利差から想定される推移と比較して円安を想定するような場合があるだろう。
リスクに対して積極的な表1のポートフォリオのケースで、外国債券の期待リターンを2%に変えてみた(表5)。
表5 アセットアロケーションの計算
約9%の外国債券が組み入れ対象となった。
もう少し、リスクに対して慎重なケースも見てみよう(λ=0.025、表6)。
表6 アセットアロケーションの計算
今度は12.5%の組み入れになった。
外国債券に限らず、期待リターンを大きく設定すると組み入れ比率が大きくなるのは当たり前のことだが、問題は、「+1%」という期待リターン変化の幅だ。これは「非常に大きい」。
期待リターンを「期待する」のは個々の投資家の勝手なのだが、現実的なアセットアロケーションを計算するには、自分の予測の信頼度を予測に反映させなければならない。仮に妥当な期待リターンが1%なのだとすると、これを「予想の信頼度を調整した上の期待リターンとして」2%に上昇させるためには、外国債券について少なくとも年率10%程度以上のリターンを、かなりの確信を持って「予想」していなければならない(この事情については本シリーズ「アセットアロケーションを計算する(下)」をご参照下さい)。
率直な印象として、こうした相場観を確信を持つに至るに十分な情報と判断力を持っている投資家が多いとは思えない。
目下の結論として、個人投資家一般向けのアドバイスとして「外国債券は組み入れなくてもいい」と言っておいてほぼ構わないだろう。外債を組み入れるべきだというFPや証券マンには、他のアセット・クラスも含めてどのようなリスクとリターンを想定してそう言っているのか確認すべきだろう(外債は売り手側の儲けが大きいので)。ただ、冒頭に戻るが、外債も組み入れたいと思った場合に、対象として検討できるレベルの商品が登場したことについては歓迎したい。
(山崎 元)
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