中国「内需」重視へ:新・世界戦略のマーケット影響、3つの注意点

トウシル / 2020年11月25日 15時20分

写真

中国「内需」重視へ:新・世界戦略のマーケット影響、3つの注意点

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
以下のリンクよりご視聴ください。
「[動画で解説]中国「内需」重視へ:新・世界戦略のマーケット影響、3つの注意点」
---------------------------

中国の15年先までの国家戦略を「解題」

 今回は、中国の国家戦略について書きたいと思います。簡単に言えば、習近平(シー・ジンピン)総書記を核心とする中国共産党が、昨今の内外さまざまな状況や影響を受けて、この国をどのように発展させ、どこへ向かわせようとしているかというテーマです。

 この壮大なテーマを分析する上で手がかりとなるのが、去る10月26~29日、中国・北京で開催された第19期中央委員会第5回全体会議(通称「五中全会」、以下「全会」)です。中国共産党が現状をどう認識し、問題点や解決策をどこに見出すかをマクロ・戦略レベルで理解するという意味で、極めて重要な政治会議です。

 全会では、『国民経済・社会発展第14次五カ年計画と2035年までの長期目標の策定に関する中共中央の提議』を審議・採択しました。第13次五カ年計画の期間に相当する2016~2020年を総括し、次の5年間(2021~2025年)、および2035年までという中長期的な視点から国家戦略や政策方針を固めることを目的としていました。

 ちなみに、「2035年」というのは、中国共産党が定義する「二つの百年目標」(中国共産党結党百周年に当たる2021年と中華人民共和国建国百周年に当たる2049年)における中間地点となる節目の年を意味します。

 全会は、「2035年までに、社会主義の現代化目標を基本的に実現する」と提起した上で、その内訳を次のように説明しています。

「経済力、科学技術力、総合国力を大幅に向上させる。経済総量と都市部と農村部における一人当たりの収入を新たな大台に乗せる。肝心な核心技術の開発において重大な突破を実現し、中国をイノベーション型国家の上位に位置付ける」

 私なりに解釈すると、次のようになります。

 中国の中長期的発展のためには、まずは経済成長が最重要事項である。なぜならそれが中国共産党の正統性を保証する最大の根拠・実績となるからだ。ただそれは国家経済だけでなく、国民経済の成長を伴うものでなければならない。都市部と農村部の格差を縮小しつつ、国民の収入を向上させる経済発展でなければならない。一方で、経済の発展には科学技術の力が不可欠である。5G(第5世代移動通信システム)や半導体、AI(人工知能)やビッグデータの飛躍的発展を含め、民間イノベーションの力を駆使しながら、国家の総合力につなげる。それが結果的に軍事力の充実にもつながり、正真正銘の世界の超大国に成りあがることが可能となる。

 中国にとっての最大のライバルである米国に「追いつけ追い越せ」が目標になっている意識が明確に見て取れるでしょう。

習近平集権体制でダイナミックかつ安定的な発展を目指す中国

 賛否両論ありますが、昨今の中国共産党は、自らの権力基盤が強固になり、習近平という最高指導者に権力を集中させることで、中国が初めてダイナミックかつ安定的に発展するという考え方を持っています。実際に、全会は、コロナ・ショックを乗り切り、経済を発展させ、共産党の正統性を死守するために、習総書記の権力基盤を一層強化することが不可欠であるという政治的意思を示唆しました。

 全会閉幕後に発表された「コミュニケ」(公報)は、「習近平同志作為党中央的核心、全党的核心領航掌舵」という文言を使いました。前半部分が意味する「習近平を党中央の核心とする」は、2016年の第18期六中全会で、習総書記に党の「核心」という称号が与えられて以来、党の公式文書、声明、談話などを通じて頻繁に使われてきました。一方の後半部分は、目新しい表現。「領航」はパイロット、ナビゲーター、案内人を、「掌舵」は舵取り、操舵手を指します。要するに、核心として全党を引き連れ、中国という国家を特定の方向、未来へと導く指導者という類の意味合いが込められているのです。

 加えて私が注視したのが、新型コロナウイルスの抑制、経済成長、米国をはじめとした西側諸国におけるポピュリズムの台頭やガバナンス力の劣化を受けて、中国共産党がますます自らの政治体制と発展モデルに自信を深め、独自の道を進もうとしている現状です。

 全会は、第13次五カ年計画の期間を経て、達成した成果を次のように羅列しています。

「2020年のGDP(国内総生産)は100兆元を突破する」「農村の貧困人口5,575万人が消滅する」「食糧の年間生産量は5年連続で6億5,000万トン以上に達する」「都市部の新規雇用者数は6,000万人を超える」「基本医療保険は13億人以上、基本養老保険は10億人近くをカバーする」…。

 そして、過去5年の奮闘を経て、「中国共産党の領導と我が国社会主義制度の優勢が一層明らかになった」と結論付けているのです。

 私は、2017年の第2次政権発足以来、習近平政治の特徴と傾向を「内政の保守化」と「外交の拡張化」と整理してきました。もう一つの問題意識が、「政左経右」という言い回しにも体現されているように、政治が保守化する中で、経済の改革や開放政策が推進されるのか。この点は未解決のままです。私自身は、共産党一党支配下にある中国においても、政治が自由や人権、多様性や開放性を相当程度重んじるという前提下で、市場開放、ルールの公平性、知的財産の保護、規制緩和、国有企業改革といった経済分野での進展が初めて顕在化すると考えています。

新たな国家戦略の狙いは自立再生

 中国共産党指導部は、コロナ・ショックと米中戦略的対立に見舞われる現状を「世紀の疫病と世紀の変局が重なる中、国際情勢は深い変化を遂げている」(習近平氏のBRICs[ブラジル、ロシア、インド、中国]首脳会議での講演、2020年11月17日)と認識しています。全会は、米大統領選挙の前夜というタイミングで開催されましたが、全会コミュニケの起草に関わった、共産党中央の中で政策研究を統括する最重要機関・中央政策研究室の中堅幹部は、次のように私に語っていました。

「トランプ共和党候補、バイデン民主党候補、どちらが次期大統領になったとしても、米国の対中政策は強硬的なものになるのが必至だ。経済、企業活動、科学技術などを含め、中国として、米国とのデカップリングを前に後手に回るのではなく、主体的に行動すべきだ」

 そんな党指導部の政治的意思を如実に体現しているのが全会公報の中の次の段落です。

「強大な国内市場を形成し、新たな発展の局面を構築する。内需拡大という戦略的基点を堅持し、完全な内需体系の育成を加速させる。内需拡大戦略と供給側構造改革を有機的に結合させ、イノベーションと高質量供給によって新たな需要を創造していく。国内大循環、および国内外の双循環を促進させることで、消費を全面的に促進し、投資の空間を開拓していく」

 これこそ、ポスト・コロナ・ショック+米中対立というニューノーマル(新常態)の中で、中国共産党が持続可能な経済成長を実現するために考案した新たな国家戦略です。

 最大のキーワードは「国内大循環」。

 新型コロナ発生後、習近平政権として新たに創造した、今後、中国経済の柱になっていく概念です。

「世紀の大変局」という現状認識の下、コロナ・ショックは数年で緩和・回復できるとして、共産党指導部が真に警戒するのが、やはり米国の動きです。米国が経済、科学技術、企業活動、軍事を含め中国を総合的に封じ込めようとしている、デカップリングはそのための策略であり、中国をサプライチェーンとグローバル市場から締め出そうとしていると本気で警戒しているのです。

 米国から封じ込められ、国際的にも孤立する局面が現実化したときに備えて、供給と需要、食料とエネルギー、市場と資本、人材と技術力といった分野で自力再生できるように、発展の方向性を国家戦略という次元で軌道修正した、それが「国内大循環」だというのが私の理解です。

今後の焦点は「内」での完結性を高めつつ、いかに改革開放を進めるか

 全会のコミュニケにも明記されていましたが、最近、中国の指導者から「内需拡大」が頻繁に発せられるようになっています。「国内大循環」と対をなす概念であり、方法だと言えるでしょう。

 11月19日、APEC(アジア太平洋経済協力会議)商工業界リーダーサミットに出席し、演説した習近平氏は、全会で審議した第14次五カ年計画期間における新たな発展の局面を、「中国自身の発展段階の条件に立脚し、経済グローバル化と外部環境の変化を十分に考慮した上で打ち出した戦略的選択」と定義づけた上で、率先して取り組むべき優先事項を次のように主張しました。やや長いですが、習近平という最高指導者自身による言葉から中国の発展を解釈するという意味で、重要な作業になるため引用します。

「我々は内需拡大という戦略的基点をきちんと押さえることで、国民経済の循環をスムーズに行っていく。近年、中国の市場と資源をめぐる在外発展モデルは悄然と変化している。中国の対外貿易依存度は2006年の67%から2019年の32%まで下がった。経常収支における黒字は、国内総生産比で2007年の9.9%から現在の1%未満まで下がっている。2008年の国際金融危機以来、中国において内需の経済成長への貢献率は7年連続で100%を上回り、国内消費は経済成長の主要な原動力となっている。経済双循環を推進する過程で、中国経済の自主性と発展の質量は明らかに向上していて、新たな発展の局面構築は中国の経済構造の調整と高質量発展の推進という内在需要にも順応している。我々は、供給側構造改革を引き続き深化させ、内需拡大にこれまで以上の労力を注いでいく。生産、分配、流通、消費といった分野をこれまで以上に国内市場に依託するのだ。供給体系の国内需要への適合性を増強することで、需要が供給をけん引し、供給が需要を創造するという一層ハイレベルな動態バランスを形成することが望まれる」

 中国共産党用語で分かりにくい箇所もありますが、中国経済全体として、米中対立やコロナ・ショックを受けて不確実性の増す「外」への依存性を下げ、党の統治力を行使できる「内」での完結性を高めるという明確な戦略が具体的データとともに提示されています。

 需給関係やサプライ&バリューチェーンを可能な限り国内で完結させるという方針を国家戦略レベルで確定させた意味は小さくありません。今後の焦点となるのは、「内」を重視する中で、いかにして「外」と切り離せない改革開放という国策を推し進めていくかでしょう。

 新型コロナ抑制と経済再生の有機的両立を目標とする中国経済は、おおむね回復基調にあるようです。

 1~9月のGDPは前年同期比で0.7%増(7~9月は4.9%増)と、今年に入って初めてプラス成長へと転じました。10月の統計を見ると、国民経済に強く影響する飲食業の収益がプラス成長に転じています。

 その他いくつかの指標を見ていくと、全国規模以上工業増加値6.9%増(前年同期比)、製造業PMI(購買担当者指数)は51.4、社会消費品小売総額4.3%増(前年同期比)、1~10月のネット小売消費額10.9%増(前年同期比)、固定資産投資1.8%増(前年同期比)、3.2%増(前月比)、10月の対外貿易輸出入額は4.6%増(前年同期比)、うち輸入0.9%増(前年同期比)、輸出7.6%増(前年同期比)、10月の都市部調査失業率は前月より0.1ポイント低下し5.3%…。

 これら最新の統計を受けて、11月14日、東アジアサミットに出席した李克強(リー・クォーチャン)首相は、「今年、新型コロナウイルスは中国経済に深刻な影響を与えた。我々はコロナ抑制と経済社会発展工作を統合させ、適宜措置を取ってきた。雇用、民生、市場の主体を保護することで、コロナの影響を最小限に抑えるべく尽力してきた。中国経済は巨大な衝撃の中でも、雇用と経済のファンダメンタルズを安定させ、回復的成長を見せている」と指摘しました。

 李発言にもあるように、中央政府が経済の分野で最も重視している指標の一つが雇用です。11月16日、国家統計局の付凌晖報道官が、上記の調査失業率の改善に加え、「1~10月、全国都市部で新たに増えた雇用数は1,009万人で、前年の目標を前もって達成した。雇用情勢は全体的に安定している」と強調したのも、雇用の安定を保障することが、14億の人民を心理的になだめ、社会不安のまん延を未然に防ぐために他なりません。

 言い換えれば、経済の成長と雇用の安定は中国共産党にとって、経済レベルにおける国家統治の両輪のような存在であり、そこが保障されることで初めて、自らの正統性が維持できるという確固たる意識を持ち続けているのです。

中国がマーケットに及ぼす今後のインパクト:3つの注意点

 最後にマーケットへのインパクトを考えてみます。3点指摘します。

 一つ目に、新型コロナ抑制にもがく他の主要経済体に比べて、中国経済が、李克強氏が言うところの「回復的成長」を見せていること、今年のプラス成長は確実で、来年のV字成長も期待できることは好材料だと言えるでしょう。

 二つ目に、「世紀の大変局」を受けて、中国経済全体として外部依存度を下げ、内需拡大に尽力するという戦略を主体的に打ち出したことも合理的な選択だと言えます。個人消費によってけん引される経済成長は、中国の「世界の市場」としての価値を上げ、欧米や日本の企業にとっても、より吸引力のあるマーケットとなるでしょう。

 三つ目に、「国内大循環」というある意味“内向き”な戦略を掲げる中で、外国の政府や企業が継続的に関心を持ってきた構造改革がどこまで進むか、対外開放が後退するか否かは焦点であり、リスク要因とも言えます。

 例えば、10月、中国の議会に当たる全国人民代表大会常務委員会が「輸出管理法」という法律を成立させました。貨物、技術、サービスなどの輸出管理が強化されます。「デュアルユース品目、軍用品、核に加え、国家安全と利益の擁護、拡散防止など国際義務の履行にかかわる、貨物、技術、サービスなどの品目」に輸出管理が適用されるとしています。習近平第2次政権発足以降、党・政府は国家安全や国益を守るという「大義名分」の下、民間交流や国境を越えたビジネスへの介入や監視を強めています。「内需重視」が「外資軽視」を誘発しないことを祈りつつ、引き続き政策や情勢を見極める必要があると考えています。

(加藤 嘉一)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング