勘違いだらけの「長期投資」
トウシル / 2021年1月19日 5時10分
勘違いだらけの「長期投資」
※本記事は2018年5月16日に公開したものです。
誤解の多い「長期投資」
投資の世界では、「長期投資」の有効性について語られることが多い。筆者も、長期投資が有効であることに賛成するが、同時に、あれこれと誤解が多いのが長期投資でもある。誤解の中には、長期投資を過剰に賞賛する内容のものもあるのだが、その内容が正しくないために、長期投資をかえって胡散臭い物として印象づけてしまうような残念な話が時々あるのだ。
たとえば、「20年」の長期投資の安全性・有利性を示すのに、過去60年のデータを持って来て、「60年の中には20年が41回あるが、41回の投資期間のうちにマイナスになったものは一つもない。長期投資が安全で有利であることは、データで証明されている」と言い張るような意見だ。
実際には、60年の中には独立している「20年」は3つしか含まれておらず(その他のデータはお互いに重なりを持っている)、たとえると「この地は3日間晴れていた。どの24時間を取っても晴れであった。データにより、明日も一日中晴であることが確実だ」という程度のことを言っているに過ぎない。もちろん、実際には晴れるかも知れないし、そうでないかも知れない。判断するにはデータ不足だ。
長くてもたかだか200年程度の株式市場のデータをもって、長期投資の有効性を「証明する」のは土台無理筋だ。「データによって証明」あるいは「データによってほぼ確実」などと根拠の乏しいことを言いつのると、長期投資が却って怪しいもののように印象づけられてしまうのではないかと心配だ。
長期投資の有効性は、「論理的な期待」に過ぎない。冷たい言い方で恐縮だが、有利だと思ってそれに賭けてもいいと思う人が賭けたらいいだけのことなのだ。そして、筆者個人はと言えば、「賭けてもいい」と思っている。
長期投資をまとめたフレーズ
長期投資で重要な考えを以下の5つのフレーズにまとめてみた。何れも、文頭は「長期投資で、」である。できれば声に出して読んでみて、納得して共感するか、違和感を覚えるか試してみて欲しい。
順に説明しよう。
1.長期投資では、お金を長く働かせる
そもそも「投資」をどう考えるのかが問題だが、「お金は働いて稼ぐものであり、投資とは自分が持っているお金を働かせて、経済活動に参加して稼ごうとする行為だ」と考えておくのがいいと思う。
こう考えておくと、「働くこと」を重視する日本人の価値観に投資の居場所を作る事ができる。「投資は、働かずに稼ごうとするいやしい行為だ」との誤ったイメージを払拭する上でも望ましい。
また、株式・債券・不動産など様々な形で「資本」を提供してリスクを取って生産活動に参加し、利益を上げようとする「投資」のリスクテイクと、ゼロサム・ゲーム的なリスクを取る「投機」のリスクテイクの差を理解するための基礎につながる(注:「投機」のリスクテイクは、倫理的に悪い訳ではなく、ただ資産形成には論理的に少々不利なのだと考えられる)。
投資の本質がお金を働かせることだとすると、長期投資は、お金をより長い時間働かせて、より多く稼ごうとする行為だと理解することができる。
あわせて、投資の本質を、「売り買いすること」ではなく、株式等の形で資本を「持っている状態のこと」だとイメージしてもらえるとより良い。
2.長期投資で、成長に賭けるのではない
投資では、対象となる企業や経済の「成長」に賭けているのではない。対象が成長しなければ儲からないと考えている投資家が少なくないが、投資のリスクを負担することに対するリターンの源泉は、資産の価格形成にある。
成長率を均一とする時に、あるべき資産価格の一般的な形成は以下の式で説明できる。
【資産価格形成の理論式】
資産価格=利益/(割引率−成長率)
割引率は、リスクフリー金利とリスクプレミアム(リスクを負担することに対する追加的な利回り)の合計で構成されると考えられる。
株式であれば、同じ予想利益に対して、高成長が予想されれば株価が高く形成されるし、成長率が低く予想されれば株価は低く形成されているはずだ。どちらに投資しても、リスクフリー金利+リスクプレミアムのリターンが期待できる。
このテーマは、本連載でもすでに何度か取りあげているが、投資家が論理的に期待すべきなのは、投資対象の成長率ではなく、資産価格形成に含まれるリスクプレミアムなのである。株価が正しく形成されているとすると、成長率の低い国の株式に投資することもなんら不利ではない。「信じる」、より正しくは「期待する」とすれば、経済成長・利益成長ではなく、マーケット(の価格形成)のほうだ。
3.長期投資で、リスクは縮小しない
「長期投資ではリスクが縮小する」とする説明は誤りである。長期投資に関する「贔屓(ひいき)の引き倒し」の類いの一つに見える。この誤りが長年なかなか払拭されない理由は、おそらく世界的な投資啓蒙の名著「ウォール街のランダム・ウォーカー」(バートン・マルキール著、井手正介訳、日本経済新聞出版社)が原著11版に至っても、不適切な説明をしているからだろう(翻訳書では434ページ以下の説明)。
「投資期間が長期化すると、リスクは拡大する」が正しい認識だ。そして、この場合、リスクは運用資産の価値の不確実性(例えば、上下のブレ幅)で捉えることが正しい。ただし、資産価値の期待値(予想される平均)は投資の長期化で増加して行く。投資が長期化するとリスクが拡大するとしても、期待される収益も拡大する。以下、簡単に図にしてみたので、これを眺めて納得していただけるとうれしい。
【長期投資のリスクとリターンの概念図】
大まかにいって、長期投資は有利でも不利でもない。短期投資が有利だとするのなら、その有利さを長期に積み重ねているのが長期投資だ。現実には、長期投資は短期投資に対して、売買コストの節約や課税を繰り延べした複利運用などの点で優位性を持つことが多い(ウォーレン・バフェット氏の優れた運用成果の理由の重要な一部でもある)。
4.長期投資で、現状はよく見るべきだ
(山崎 元)
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