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インデックスファンドにも「弱点」がある

トウシル / 2021年1月26日 16時30分

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インデックスファンドにも「弱点」がある

インデックスファンドは万能ではない

 近年、投資の方法として内外のインデックスファンドを使う書籍を何冊か出し、対外的に発言する場でもインデックスファンドを勧める機会が多いことから、筆者は、「インデックスファンド万能主義者」のような印象を持たれることがあるらしい。「インデックスファンドにも幾つか欠点があります」と言うと、驚かれることがある。

 現実の運用対象商品として、アクティブファンドよりもインデックスファンドの方が好ましいことは、論理の上でも、データの上でも言えることだし、多くの投資家の個別株投資よりは、インデックスファンドの方がリスク・リターンの効率が好ましいと評価できる場合が多いのも事実だろう。

 しかし、比較上の善し悪しは相対的なもので、現存の商品としてのアクティブファンドが相対的に悪すぎるだけで、それがインデックスファンド側に欠点がないことを意味しない。今回は、インデックスファンドの弱点を列挙して検討してみたい。最後に、解決策を提案する。

インデックスファンド7つの弱点

1.銘柄入れ替えを利用されて損をする

 インデックスとは株価指数のことだが、株価指数の構成銘柄は何らかの基準やインデックス組成者の判断、或いは上場企業の行動などによって変化することがある。この際、構成銘柄を入れ替える前に変更が発表されて、実際に「〇月×日の終値」のような基準で計算方法が変更される。

 すると、この指数をターゲットとするインデックス運用やデリバティブの裁定取引ポジションの保有者などは、インデックスに追随するためには、この終値で銘柄を入れ替えたらよい。そうしない場合、インデックスとのズレが大きく発生する可能性が生じる。

 この情報構造は、指数の除外銘柄の「売り」と新規採用銘柄の「買い」を事前に公開してファンドを運用しているのと同じ効果を生み、これを他の市場参加者(証券会社の自己売買、高速取引業者、個人のトレーダーなど)に利用されて、指数自体と指数に連動するインデックスファンドが損をする事態が発生しやすい。

 簡単に言うと、計算基準が変更される「〇月×日の終値」に向かって、除外銘柄は売り込まれて株価が下落し、新規採用銘柄は買い進まれて株価が上昇し、インデックスファンドは、人為的に下落した株価で除外銘柄を売り、上昇した不自然に高い株価で新規採用銘柄を買うので、「〇月×日の終値」の前と後と両方で損をしやすいのだ。

 このケースでは指数自体が下振れするので、これに忠実に連動して下振れする限り、インデックスファンドの運用者は責任を問われない。

 仮に銘柄入れ替えが事前に発表されないとすると、インデックスファンドの運用者は困るし、デリバティブの取引に使われている指数だとすると、裁定取引が正確に行えないなどの不都合が生じる。

 この弱点が最も分かりやすく表れたのは、2000年に行われた日経平均の銘柄入れ替えだった。この前後2週間くらいの日経平均をTOPIX(東証株価指数)や日経500などと比較すると、日経平均が10%以上も不自然に下落している。当時、日経平均のインデックスファンドに投資していた人は損をして、証券会社の自己勘定が大手証券関係者の推定では2,000億円以上(ある大手証券では一社だけで800億円)利益を上げたという。

 目下心配なのは、東京証券取引所の市場再編に伴って、TOPIXの採用銘柄を指数の連続性を維持したまま「東証プライム」に入れ替えようとする動きが生じることだ。日銀によるETF(上場投資信託)買いもあって、TOPIX連動のインデックスファンドの残高は、かつての日経平均連動ファンドの比でないくらいの巨額に上っている。

 東京証券取引所には、「TOPIX」の連続性を保ちつつ、「東証プライム指数」(仮称)をスタートさせて、両指数を併走させる措置を強く望みたい。

 有識者とされる一部の人の中には「時価総額が小さく経営効率の悪い一部上場会社の経営者は、TOPIXに採用されていて自動的に自社の株が買われることで経営規律が緩んでいるのではないか」という幼稚な処罰感情を持つ人がいるようだ。或いは、トレーディング業者に収益機会を作ることに真の意図があるのかも知れないが、強引な銘柄入れ替えは行わない方がいい。投資家を処罰しても仕方がないではないか。

 尚、銘柄をゆっくり入れ替えても、損が少々目立ちにくくなるだけで、トレーディング業者にインデックスファンドの投資家が「喰われる」構造自体は変わらない。

 この入れ替えが起こる場合、除外銘柄はTOPIXを外れるまでに株価下落バイアスが掛かり、外れた後には反動で株価が上昇しやすくなるはずだ。年金基金のような運用者に注文が出来るアセットオーナーは、例えば、リバランスをしばらく止めさせて、価格へのバイアスの影響が収まってから、独自のタイミングで構成銘柄を入れ替えるような運用を行うといいかも知れない。

 個人投資家は、東京証券取引所の対応と、運用会社の対応を見て、場合によってはインデックスファンドの乗り換えを検討すべきかも知れない。

 筆者が一番心配している投資家は日本銀行だ。保有額が巨額だけに、ぼんやりしていると、大きな損失を被るかも知れない。東京証券取引所の動向と共に、問題が生じそうな場合には、国民としては日銀がこの問題に十分な対策を講じるかどうかを注視する必要がある。

 銘柄入れ替え要因によるインデックス投資家の損の大きさは、年間数bp(ベーシスポイント。1bpは1%の100分の1)〜数十bp。場合によっては%単位。2000年の日経平均入れ替えのように2桁%に及ぶ惨事はもう起こらないと信じたい。

2.銘柄ウェイトの変更も利用されて損をする

 株価指数の銘柄入れ替えの他に、指数における銘柄の構成ウェイトの変化も、事前に予想できれば銘柄入れ替えと同じ理屈で利用されて指数及びインデックスファンドの投資家が損をする可能性がある。

 影響が懸念されるのは、TOPIXを含めて世界の多くの指数が採用する浮動株調整だ。インデックスファンドの運用金額が大きくなると、例えば、時価総額ウェイトが大きくても、大株主が大きなシェアで株を抱えていて、市場に出回る株式が少ない場合に、機械的にウェイトを合わせようとするインデックスファンドの買いで、株価に歪みが生じることが問題になった。

 この問題を回避するために、指数自体を大株主の保有を除外するなどの作業によって、市場で売買されていると推定される(正確なものとは言いがたい推定だが)株数で計算したものに変更する動きが現れて、現在はむしろこの方法が主流だ。

 ところが、この方法だと、指数の計算が変更される期日よりも前に、ウェイトの変更、即ち、インデックスファンドで売り買いされる銘柄と株数が分かってしまうので、ここでもインデックスファンドの投資家はトレーダーに「喰われる」。

 随分昔の話になるが、「浮動株調整」という仕組みを聞いたとき、筆者は「金融界はあれこれ理由を付けて、自分たちが儲かる仕組みを作るたくましさがあるのだな」と感心した覚えがある。もちろん、インデックス投資家にとっては、歓迎できない話だ。

 影響を調べるには、かなり精密にデータをチェックする必要があり、筆者が現在手元で利用可能なデータでは無理だ。

 筆者の知り合いのいわゆるクオンツ・アナリストは、TOPIXで年間数十bp影響があるのではないかと言っているが、筆者は、現在責任を持って影響の大きさを指摘できる根拠を持ち合わせていない。しかし、大きさが正確に分からないとしても、影響は存在するはずだと考えている。

3.ファンド内の売買コストはゼロではない

 前述のように、インデックスファンドがターゲットにする株価指数は、採用銘柄の変更やウェイトの変更でポートフォリオとしての内容が変化する。この場合、売買には何らかのコストが掛かる。

 指標としてのインデックスそのものは計算を変更するだけで、売買コストを払わずに形を変えることが出来るが、リアルな運用資産ではそうはいかない。インデックスの内容によっては、そこそこの大きさの売買コストをファンド内で負担しなければならない。

 アクティブファンドの方が保有銘柄のファンド内売買はインデックスファンドよりもかなり多いのが普通で、このコストはアクティブファンドが運用成績上相対的に不利であることの原因の1つだが、インデックスファンドでも売買コストが問題になることはある。指数にトラックする運用のうまさと共に、投資家の側では、指数選択の巧拙が問われる。

4.インデックスファンドで運用される資産が大きいことは不利だ

 例えばインデックスファンドが銘柄・ウェイト共に「市場平均」そのもので、これが市場の株式保有の9割を占めている世界を想像してみよう。インデックスファンドのポートフォリオ(保有銘柄とウェイト)は、残り1割のアクティブ運用の平均を追って変化することになる。

 指数の採用銘柄とウェイトに変化が無ければインデックス運用は何もしなくても指数を追えるが(この構造はインデックス運用が有利な理由の1つだ)、現実には、銘柄の入れ替えもあれば、浮動株調整を通じるウェイトの変化もある。

 資金が大きくなると、当然ながら、ポートフォリオ調整のためのコストが大きくなる。コストは、インデックス投資家の負担になる。

 インデックス運用にあっても、「大きいことは有利」ではない場合がある。

5.デリバティブ取引の影響を受けて不利を被ることがある

 ビジネスとして考えてみよう。インデックスファンドを売るためには、ファンドがターゲットとする株価指数は有名なものの方が有利だろう。しかし、有名な指数には、この指数を原資産とする株価指数先物やオプション取引などのデリバティブ取引が付随する場合がある。上場取引以外にも、投資家の目から見えにくい店頭取引でデリバティブのポジションが発生する場合もある。

 すると、指数は、デリバティブ市場との裁定取引に関わる幾つかの影響を受けるようになる。例えば、日経平均は、指数の構成が裁定取引に向いているので、デリバティブ市場の上下の影響を受けやすく、傾向として、ボラティリティー(つまりリスク)が大きめになりがちだ。デリバティブの原資産に採用された指数をターゲットにするインデックスファンドは、デリバティブによるヘッジがやりやすい長所もあるのだが、ポートフォリオのリスク属性として好ましくない影響を受ける場合がある。

 ポートフォリオの属性として、「運用のターゲットとして投資家にとって好ましいこと」と「デリバティブ取引の原資産であること」との間には差が生じる場合がある。

6.インデックスファンドにも運用管理費用(信託報酬)がある

 傾向としてアクティブファンドよりも低廉であるとしても、投資家から見て、インデックスファンドにも運用管理費用のコスト負担がある。現在、傾向としては、競争を通じて低下中だが、投資家としては、ファンドによって「差」が存在することは認識しておくべきだ。

 インデックスファンドの運用管理費用コストについて筆者が気になるのは、ここでも巨額のETFを保有する日銀のコスト負担だ。

 ETF運用の大手となる運用会社に対しては、大手に対しては、年間100億円以上の運用管理費用を支払っている計算で、このお金は、市場の一部では、運用会社に対する日銀補助金」と呼ばれることもある。

 日銀がETF保有額の大きさに伴う交渉力を生かして、運用管理費用の引き下げ交渉を行ってくれたら、日銀のためにも、一般投資家のためにも、大変好ましいことなのだが、一肌脱いで貰えないものか。

7.インデックスにも使用料が掛かる

 インデックスファンドのターゲットになる株価指数は、指数を計算・公表し、そのデータを販売しているインデックスベンダーの「商品」でもある。現在、インデックスベンダーは、インデックスの運用会社やインデックスのデータを使う分析ソフトの供給者に対して、自分のインデックスの名称とデータを使うことに対して使用料を徴収している。

 運用会社に対する使用料は、インデックスファンドの運用資産額に比例して、資産額の2bpとか3bpといった単位で設定される。インデックスベンダーの言い分は、「運用会社は我々の商品の知名度やデータを使って商売をしているのだから、そのメリットに応じて、我々にパテント料を支払うのは当然だ」といったものだと推測される。

 インデックスを計算・公表するために、データ代や計算コスト、公表のためのコストなどが掛かることは事実なので、インデックスベンダーがインデックス利用に対価を求めること自体は正当だろう。但し、問題はその水準だ。

 運用管理費用の引き下げ競争が進行してきた今日、米国でも日本でも、インデックスベンダーへの支払いが運用管理費用全体に占める比率が無視できない大きさになってきた。インデックスベンダーへの支払手数料の故に、インデックスファンドの運用管理費用引き下げが阻害されるようなケースも出てきた。

 一部の運用会社では、より安いインデックス利用料を求めて、インデックスファンドがターゲットとするインデックスを変更するような例も出てきた。また、大きな資産を運用する年金基金などのアセットオーナーの中には、インデックスベンダーと利用料を直接交渉することを検討する組織が現れた。大きな資金を運用するアセットオーナーは、ベンチマークとして使用するインデックスを変更する権限を持つので、インデックスベンダーに対して交渉力を持つはずであり、彼らが交渉する方が効果的な場合はあるだろう。

「自家製インデックス」利用の勧め

 さて、インデックスファンドに関連する7つの弱点を改めて振り返ると、

(1)インデックスの採用銘柄や銘柄の構成ウェイトの変更に関わる情報が第三者に事前に漏れること、
(2)ファンド内の売買コストが掛かるインデックスであること、
(3)ファンドが大きくなりすぎること
(4)デリバティブ取引に影響されるなど「運用」目的でない使われ方をするインデックスであること、
(5)インデックスファンド自体に高い手数料があること、
(6)インデックスベンダーへのインデックス使用料があること、

 などに不都合の源泉があることが分かった。

 筆者が、運用会社に提案したいのは、(4)は程度の問題として、その他の問題の殆どを回避する方法は「自家製のインデックス」を作ってインデックス運用を行うことだ。(1)に関しては、リバランス後に銘柄やウェイトを公開するといい。指数は専門の検討組織を作って客観的に妥当な方法で作って(銘柄数、選択基準、ウェイト、リバランスのタイミング、データ公開の方法などに工夫が要る)、その値をリバランスの後に公開すればいい。

 リバランス時に悪影響を受けずに済むことは、公開されているインデックスを使うインデックスファンドに対して、インデックスファンドの運用競争のレベルでは小さくないアドバンテージになる可能性がある。

 (2)は指数の作り方を工夫することで改善することができるし、(3)は残高が何兆円かになってから心配したらいいので当面の問題ではない。

「インデックス運用がなぜ有利か」を真剣に考えて、「運用の目的に特化したインデックス」を作ればいいし、その場合には手数料さえ十分低廉に設定できたらもはや「インデックスファンド」と呼ぶ必要が無いかも知れないが、アクティブファンドとのマーケティング上の棲み分けと、指数の推移を示せることによる顧客への分かりやすさの観点から、「自家製のインデックスにトラックするインデックスファンド」が落とし所のように思われる。

 もちろん、インデックスベンダーにインデックスの使用手数料を払わずに済むことはかなり気持ちがいいだろうし、現実的に有利なことに違いない。

 個人投資家は、趣味も兼ねて個別銘柄でポートフォリオを作って自分で運用する方法(多少のスキルと忍耐を要する)と1.〜7.の要素が「よりマシ」なインデックスファンドに静かに乗り換えて運用する方法の2通りの道がある。前者についても、後者についても、適宜情報をお届けしたい。

(山崎 元)

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