750万人超の退職金問題から、投資の転機を考える
トウシル / 2021年2月9日 7時30分
750万人超の退職金問題から、投資の転機を考える
企業型DCの投資教育では「50代の運用の出口戦略」が話題
日本における個人向け投資教育がもっとも広範囲で行われているのは、企業型の確定拠出年金(以下、企業型DC)の導入企業です。750万人以上の現役世代が投資可能な口座を開設していますが、必ずしも投資に関心があるわけではなく、知識不足ということは少なくありません。
法令上、会社には企業型DCの加入者(社員)に対して投資教育を行うことが義務づけられています。とはいえ、教育プログラムについてはどのような内容が最適か、試行錯誤が続いています。
例えば「アセットクラスや商品性の理解」「基礎的な投資理論」だけでは十分ではないので、「ライフプラン教育(老後資産形成の考え方)」を加味しようという流れがありました。「老後に2,000万円」より早く、自助努力のリタイアメントプランについて教育されてきたわけです。
近年の継続投資教育現場で話題となっているテーマの一つに「世代別」の教育アプローチがあります。若年層とリタイアを控えた世代への教育の内容を分けてみようというものです。
というのは、世代によってリスク許容度が異なり、モデルポートフォリオも自(おの)ずと異なってくるからです。投資をする残り期間も20代と50代後半ではずいぶん違います。
企業型DC制度のスタートから20年を数え(2001年10月施行)、徐々に資産を積み上げて受給タイミングに差し掛かる世代が増えてきていることも、リタイア直前教育の流れを後押ししています。
何せ1,000万円以上の資産をもってリタイアすることも珍しくなく、受け取り直前に30%の急落(2020年3月のような)があって、パニックになっては困るからです。
さて、このコンテンツ、私たちにも役立つところがないか考えてみましょう。
資金使途の時期が近づいたら、利益確定を考えるのが基本
引退が近づいてきたとき、リスク資産運用の基本的なアプローチとしては「資金使途の時期が近づいたら、利益確定を考える」ということになります。
企業型DCは基本的には退職金制度の一部であるため、積み立ては定年退職時にストップされます。受け取りは60~70歳の間で任意に決められます(法改正により2022年4月以降は60~75歳までの間に拡充される)。
現状では多くの方は60代の前半に受け取っているようです。老後資金としての使い道を考えたとき、受け取り直前に市場の急落があって受給額が大きく目減りするのは避けたいところです。
2020年のマーケットは急落からの急回復があったため、同年内でプラスに転じましたが、これは結果論です。リーマン・ショックなど過去の例を考えると、回復に5年以上の時間を要することは珍しいことではありません。となると、「受け取り時期をライフプラン上、設定される場合は、その一定直前に投資資金を預金などの安全性の高い資産にシフトする」ことが必要になります。
簡単にいえば、「50代の後半になってきたら、今のマーケットが十分上昇していると思われるなら、利益確定の運用指図をしておく」ということです。
一方で、「部分的に売る」「あえて売らずにまだ持つ」もあっていい
とはいえ、「全額売る」か、「部分的に売る」かは判断が必要なところです。
もし全額売却した後、さらなる市場の上昇があったら悔しいと考えるなら、部分的な利益確定にとどめておくことも検討するといいでしょう。結果として、部分的に利益確定しておいたら、そこから値下がりが続いたまま受け取り年齢に達することもあります。判断はもちろん自己責任です。
また、「あえて売らずに持ち続ける」のも自由です。
受け取り時期については60~75歳の間で(法改正後)と説明しましたが、75歳受け取りなら70歳くらいまではマーケットを見つつ、リスク資産の運用を継続する戦略も考えられます。数十%くらいずつ、徐々に利益確定する方針もあっていいでしょう。
DC内にとどめておくと、何度利益確定しても非課税のまま運用を継続できます。これはNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)にはないメリットです。
一方で、退職後の企業型DC資産については、口座管理手数料などを企業が徴収することもあります。これは規約ごとに定められるので、条件を確認しておきましょう(コールセンターなどで回答してもらえる)。
いずれにせよ、ライフプランをしっかり考えることが重要になってきます。
DCに限らず、運用の「終わらせ方」は考えておくといい
今回は企業型DCの考え方を紹介していますが、これは個人の資産運用の終わらせ方にも通じるところがあります。
企業型DCの大きな特徴は「75歳には受け取る」という条件があることです。ある意味、強制的に運用の手じまいを求めます。ちなみに75歳まで(現行では70歳まで)受け取らないで放置した場合、強制解約をされて一時金として振り込みされます。
しかし個人の手元資金運用では、こうした年齢制限は課せられないので、自分なりに「運用を終わらせる」あるいは「運用の規模を縮小する」ということを考えておくほうがいいでしょう。
資産運用は知的好奇心を満たし、常にアップデートされた情報と向き合う点では高齢者にとってよい刺激でもあります。しかし、何千万円もの投資を数百万円程度にとどめるような縮小は考えておいてもいいと思います。
マネープランのセミナーで私が話すことの一つに「投資は目的ではなく、そのお金で何をするかが目的」があります。
いつまで投資をするのか、利益確定を今考えるべきか、悩んだときは、「そのお金でしたいことは何か」「いつ頃、そのお金を使いたいのか」を自分に問いかけてみると、運用の終わらせ方の答えが見つかるかもしれません。
(山崎 俊輔)
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