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ブラックマンデー30周年~歴史は繰り返すか~

トウシル / 2017年10月20日 15時0分

ブラックマンデー30周年~歴史は繰り返すか~

ブラックマンデー30周年~歴史は繰り返すか~

 昨日、NY株式市場は1987年10月19日の株価急落、いわゆる「ブラックマンデー」から30周年を迎えました。30年前のこの日、ダウは508ドル下落して1738.74ドルとなり、この22.6%という1日の下落率は長いNY株式市場の歴史でも群を抜いて過去最大となっています。

 当時、私は「株とは何か」もよくわからない大学生だったので、直接その経緯を知るわけではありませんでしたが、社会人になってこの業界でもアカデミックな世界でも、しばしば原因を検証する機会がありました。30周年が近付いてきたことで、さまざまなメディアが「当時と似てきている」などの論調を取り上げています。しかし実際には、今ではほとんど考えられない現象と考えて良いでしょう。

 第1に、情報取得手段の違いです。ブラックマンデーの原因として一般に知られているものの他に、実際には市場ではさまざまな噂が駆け巡っていたとされています。たとえば当時、株価上昇の大きな一因とされたM&A(企業の合併・買収)に対して高い税率が課せられるようになるとの噂や、レーガノミクスに大きな影響を与えているとされたレーガン大統領の妻、ナンシー・レーガンさんが癌の手術で入院したなどという噂です。

 当時は今のようにインターネットで情報を入手できるわけでなく、テレビやラジオの情報も今のようなスピードで伝わるわけではありません。人々は、たとえそれが噂である可能性が高いと思っても、真偽を確認する手段がほとんどなかったのです。株価にはリスクプレミアムという名の、人々の不安心理が反映されているわけですが、情報が確認できないということ自体が原因で不安心理が高まりやすい状況だったというわけです。

 第2に、「ポートフォリオ・インシュランス」の役割です。1980年代は、機関投資家の株式相場の値下がりリスクに備えたい、という需要に応えるポートフォリオ・インシュランスが広く利用されるようになっていました。いわば「株式の値下がりリスクに備える保険」なので、保険を引き受ける側が株式の値下がりリスクを負うことになります。

 他の保険と同様、金融工学の発達とともに、計算上は株式の値下がりリスクも算出可能になったので、引き受けた側はその計算通りにヘッジしていけば問題はない、はずでした。想定外の下落となったので保険を引き受けた側に損失が発生する、というのは保険の世界ではよくあることですが、問題は引き受けた主体が比較的少数であったということです。

 それによってどのような問題が起こるのか? 引き受けた主体に大きな損失が発生して保険金が支払えなくなると、保険が役に立たなくなるので、保険を買っていた側も自分で株式を市場で売らなければならなくなったのです。これは2008年金融危機の際にも起こった現象で、当時世界最大の保険会社AIGが危機に追いやられたことで、AIGの保険を買っていた主体が慌てて自らあらゆるリスクのヘッジに走り、さらに悪循環を生むことになりました。

 しかし当時と異なり、今では株式の値下がりリスクの担い手はかなり分散されるようになりました。当時のポートフォリオ・インシュランスは、現在はオプションなどデリバティブの形で市場で広く取引されており、その多くは個人投資家でも簡単に取引できるようになっています。

 中には株式相場が下落して慌てるリスクの担い手も居るかもしれませんが、わざわざ好き好んでリスクを取りに行っているような人々ですから、逆に有利な価格になればさらにリスクを取ろうと思う人も多いでしょう。すなわち、リスクの担い手がごく少数に限られていて悪循環を生む可能性が高かった当時と異なり、分散するようになった今では、株式相場下落時のリスクの担い手の行動もさまざまなため、悪循環を生むことなく、十分吸収可能な状態になっていると考えることができます。

 第3に、株式のバリュエーションです。ブラックマンデー30周年を前にしてよく目にした論調の1つは、「当時のPER(株価収益率)は16倍、現在は20倍」というものです。しかし、当時の米10年物国債の利回りは8%~10%台の推移でした。PER 16倍というと益利回りは6.25%(1÷16)。リスクを取らなくても8%以上の利息が得られる時代に、株式は明らかな割安だったわけではありません(それでもその後の10年間、株式に投資していたほうがずっと高いリターンを生んでいますが)。

 一方で現在、米10年物国債の利回りは2.3%という時代です。配当利回りだけで2%近いだけでなく、益利回りは5%と米国債利回りの2倍も出る状況です。さらに来年に向けての増益と、予想される法人税減税を勘案すれば、株価収益率は16倍台に低下、益利回りは6%近くに上昇します。もっとも、このような株式が割安な状況は今に始まった話ではなく、金融危機後ずっとです。

 これは、投資家の多くが金融危機を境に株式への投資というものに対して、必要以上のリスクを感じるようになったのが主因だと思います。ここにきて株式相場が上昇してきたので徐々に警戒を解くようになってきたが、とりわけ債券との比較ではまだまだ割安な状況が続いている、ということでしょう。

 株式というのは「ビジネスに関するあらゆるリスクを担う」ことがそもそもの役割です。当然ながら、今後もあらゆるリスクを反映して大きく上下する運命にあるでしょう。しかし、現代の投資を考えるにあたってリスクの中にブラックマンデー時のような状況まで想定するのはかなり無理があると思います。何よりブラックマンデーであっても、金融危機であっても、結局長期的にはリスクを担った投資家にご褒美がもたらされている事実を忘れてはなりません。

 

 

(堀古 英司)

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