中国は人口14億でも高齢化。二人っ子政策は撤廃?養老ビジネスはアリ?
トウシル / 2021年5月13日 5時10分
中国は人口14億でも高齢化。二人っ子政策は撤廃?養老ビジネスはアリ?
10年に一度の人口動態をめぐる国勢調査の結果が公表。14.1億人の“中身”
中国は真の意味での大国か?
皆さんどう思われますか?
意見が分かれると察します。いろんな解釈や見方があるでしょう。
容易に想像できるのは、「真の大国」には責任ある行動や、行動する過程での透明性が、自国の利益やメンツだけではなく、他国や国際社会全体の公益や秩序を考慮した政策が求められる。この意味で、中国はまだまだ「真の大国」とはいえない、という類いの指摘です。私もそう思います。
ただ、仮に「中国は大国」という表現を絶対に否定できない分野があるとしたら、それはまぎれもなく、人口でしょう。今回のレポートでは、中国の人口について扱います。
5月11日、中国国家統計局が、2020年に実施した国勢調査の結果を発表しました。中国では、人口動態を把握するための国勢調査を10年に1回行っており、今回で7回目になります。要するに、10年に一度しか発表されない統計データが明るみになったということであり、注視、分析に値するものです。
調査結果によれば、中国の人口は2020年、14.1億人に達しました(香港、マカオは含まない)。前回調査が実施された2010年時ではまだ13億人台でしたから、「大台に乗った」という見方ができなくもないでしょう。その数は引き続き世界一、割合では全世界の人口の約18%を占め、5人弱に1人が中国人ということになります。
注目に値するのは、人口の伸び率とその内訳です。中国国内でも、14億という数字よりも、こちらの推移や中身のほうに議論が集中しています。なぜなら、それこそが、中国の人口構造、経済成長、産業や社会の在り方などに長期的かつ根本的な影響を与える変数だからです。
私自身の見方でいえば、人口という世界一の指標は、中国にとって、最大の武器にもなり、また最大の重荷にもなり得ます。
というわけで、伸び率と内訳を見ていきましょう。
2020年の14.1億人という数字は、2010年と比べると7,206万人、5.38%増えています。ただ、この期間の年平均伸び率は0.53%増で、2000年から2010年までの0.57%増(7,390万人増)に比べると鈍化していることが分かります。
年代別に見てきましょう。私自身は、中国、例えば価値観や消費動向を分析する際に、世代間の比較というのは有益な方法であると考えてきました。
14.1億人という総人口のうち、未来の働き手となる0~14歳の占める割合が17.95%、現在の働き手である15~59歳が63.35%、働き手に支えてもらう人が多くを占める60歳以上が18.70%、65歳以上が13.50%となっています。これらの数字は、2010年時と比較して、それぞれ1.35%増、6.79%減、5.44%増、4.63%増となっています。
これらの数字の特徴は明白です。労働力人口が減り、高齢者人口が増えているというものです。
国連の定義によれば、65歳以上の人口が全人口に占める割合が7%を超えれば「高齢化社会」に相当しますから、13.50%の中国はすでに立派な高齢化社会です。今回の発表を受けて、中国国内でも、中国はすでに初期、あるいは軽度の高齢化社会ではなく、高齢化現象が深いレベルに入っている、正真正銘の高齢化社会であるという議論がなされています。
現在、世界一の高齢化社会は日本です。総務省の統計によれば、2020年、65歳以上の全人口に占める割合は28.7%(3,617万人)に達し、世界トップ。平均年齢も48.9歳と世界トップです(2位:イタリア47.8歳、3位:ドイツ47.4歳、4位:韓国43.1歳、5位:フランス41.9歳)。
11日、記者会見に臨んだ寧吉哲(ニン・ジージャー)統計局局長は、今後、中国の人口がどの時点でピークに達するかは不確定だが、将来における一定期間内は14億以上を保持するだろうとした上で、「我が国において、16歳から59歳の労働人口は8.8億人いて(筆者注:2010年から4,000万人減少)、労働人口資源は依然豊富である」と指摘しています。
また、今回の統計を経て、中国の平均年齢が38.8歳で、米国が最近発表した38歳という最新の統計とほぼ同じであることが分かったと主張しました。中国は依然その豊富で活力に富んだ労働資源を後ろ盾に、経済成長していける見込みだと訴えたかったのでしょう。
ちなみに、世界第2位の人口で、すでに13億人を超え、近い将来中国を追い抜くと見られるインドの平均年齢は28.1歳です。
過去10年、私自身、中国で人口や高齢化に関する議論に参加してきましたが、中国の政策関係者や知識人、そして一般の国民まで、最も気になる、故に比較する国が日本であるようです。
日本が同じアジアの国家であること、中国も日本のように、高度経済成長の過程で、五輪や万博を開催し、高速鉄道(日本の新幹線に相当)を整備し、国民生活を豊かにしてきたこと、一方で、公害問題、不動産バブル、そして高齢化問題を抱えていること、など発展の経緯、問題点といった意味でも、類似性を見出しているようです。
ただ、そんな中国の人々が、日本と決定的に違うと捉え、深刻に捉えているのが、「未富先老」、つまり富む前に老いている、という現象です。それに比べて、日本はバブル崩壊から30年以上が経過した今に至って深刻な少子高齢化問題に直面してはいるものの、「先富後老」、つまり富んでから老い始めた、という経緯をたどったという比較です。
確かに、65歳以上の人口が13.5%を占めるという、中度の高齢化社会に突入し、今後そのペースが加速する可能性が極めて高い中国の一人当たりGDP(国内総生産)は、ようやく1万ドルを突破した程度です(日本は現在約4万ドル)。
国民経済として富む前に社会が高齢化に突入し、しかもその高齢化が、将来的な富の蓄積や経済の成長にとっての足かせになる、という“人口リスク”が、今回の国勢調査を通じてますます顕在化したといえるでしょう。
男女比率、少数民族、地域格差、平均世帯人数…
14.1億人におけるその他、私が注目した動態を見ていきたいと思います。
まず男女比較です。今回の調査を経て、男女の比率は51.24%:48.76%となりました。女性100人に対し、男性が105.1人という比率です。2010年時は男性が105.2人でしたから、ほとんど変わっていません。私自身中国の方々と付き合う中で感じますが、中国では、特に農村部や保守的な家庭において、男の子の誕生を強く望む傾向が見られるようです。
ちなみに、2015年国勢調査によれば、日本では、総人口1億2,709万人のうち、男性が6,184万人、女性が6,525万人となり、女性100人に対し、男性が94.8人と、性別、比率から見ても、中国とちょうど真逆のような構造になっています。
また、最近、新疆ウイグル自治区における人権問題といった文脈でも注目される、漢族と少数民族の関係について、漢族の全人口に占める割合が91.11%、少数民族が占める割合が8.89%となり、後者の比率が0.4%アップ。この10年で、漢族、少数民族の人口はそれぞれ4.93%、10.26%増えたとのこと。ちなみに、1982年の段階では、漢族の割合は93.32%でした。
中国共産党は、少数民族の割合が増えていることを根拠に、民族の共存や融和を図り、多様性を重んじていると宣伝したいのでしょうが、西側諸国を中心に問題視している少数民族の信仰や人権に対する抑圧というのは、別次元の問題です。
次に、地域別の動態について、2000年から2010年の間、中国では32の省・自治区・直轄市のうち、4つの省で人口が減りました。貴州省(49万人減)、重慶市(166万人減)、四川省(193万人減)、湖北省(227万人減)で、中西、内陸部に集中しています。それが、2010年から2020年の間では、6つの省・自治区で、人口が減る結果となりました。甘粛省(55万人減)、内モンゴル自治区(65万人減)、山西省(79万人減)、遼寧省(115万人減)、吉林省(377万人減)、黒竜江省(646万人減)です。
直近で、人口減が最も激しいのが東北3省である現状は一目瞭然です。その前の10年では、この3省の人口が増えていた経緯を考えれば、なおさら深刻だといえるでしょう。2020年、東北3省の総人口は9,851万人ですが、この10年で1,100万人以上が減少したことになります。
私自身、遼寧省の省都・瀋陽市で1年間仕事、生活をしたことがありますが、東北地方の都市インフラ、教育レベル、都市化率などは全国でも高いレベルを誇る一方、国が過剰生産能力の解消や緑化政策の推進などを掲げるなか、重工業などに依拠する形で発達してきた東北の産業は打撃を受けてきました。
家庭では、政府機関や国有企業に就職することを良しとする考え方が支配的で、若者が率先して起業するような文化や雰囲気にも乏しいです。市場の活気や流動性に欠け、しかも冬は気温がマイナス20度、30度程度まで下がるという厳しい気候環境もあります。
瀋陽で生活をしながら、「ここには人材の流出を促すすべての条件がそろっている」とすら感じたほどです。私は当時遼寧大学で国際関係を教えていたのですが、優秀だと感じた学生の多くが、北京、上海、南京、福建省、広東省などの大学院へ進学し、そこでの奮起を誓っていたように見受けられました。
私は9年前に『脱・中国論:日本人が中国とうまく付き合うための56のテーゼ』(日経BP
社)という本を出版したことがありますが、特にマーケットと付き合う上で、「中国」という目的語は禁物だと思っています。
中国と一言で言っても、地域間ではギャップがあり、一括りにしてしまうのは判断を見誤る恐れがあります。遼寧省と広東省では気候も、人々の考え方も、商習慣も、そして首都・北京との関係性もかなり異なるのです。
この意味で、東北3省で人口が激減している、その過程で、若い人材が南に向かっているという現象は、マーケットの動向を捉える上でも参考になるものです。
ちなみに、東北3省において、65歳以上が占める割合は16.4%(2010年から7.3%増)と、全国平均(13.5%、4.7%増)よりもあからさまに高いことが分かります。
もう一つ、私が注目したのが、平均世帯人数です。中国では現在、14.1億人の総人口に対し、約4.9億戸の世帯数があります。そして、平均世帯人数は2.62人で、2010年の3.10人から0.48人も減っています。2000年時は3.44人、1990年時は3.96人でした。世帯内の数が減っていけば、当然人々の、衣食住を含めた生活環境にも影響が生じるでしょう。例えば、住宅や家電といった分野へのニーズなどが挙げられます。
“二人っ子政策”の撤廃はあるか?高齢化社会向けのビジネスは盛り上がるか?
以上、私自身が注目した14.1億人をめぐる内訳や推移を整理してきました。本レポートの最終部分として、人口動態と経済成長という観点から、私が現時点で重要だと考える3つのポイントを書き記しておきます。
1つ目に、「二人っ子政策」が撤廃されるか否かです。
前述のように、中国では労働人口の減少と高齢化現象が著しい規模と速度で発生しています。これを放置する選択肢は党・政府にはないでしょう。
故に、2016年以降、中国政府はこれまでの「一人っ子政策」を修正し、「二人っ子政策」に切り替えています。これを受けて、「2016年、2017年、我が国の出生人口は大幅に増加、それぞれ1,800万人、1,700万人となり、“全面的二人っ子政策”を実施する前に比べて、それぞれ200万人、100万人以上増えた」(寧吉哲局長)と言います。
ただ、その後、2018年以降の出生人数は減少し、2020年の出生数は1,200万人と低迷しています(現時点で、出生数における二人目の割合は45%前後)。寧局長は「この規模は依然小さくない」と指摘していますが、不安要素であることに変わりはないでしょう。
そんな中、すでに東北地方など一部地域で段階的、条件付きで実施されているように、3人目を許容する政策、もっと言えば、計画生育そのものを撤廃する政策が、いつどのタイミングで打ち出されるかは極めて重要ですし、私が知る限り、共産党指導部は、現時点ですでに綿密かつ現実的な撤廃に向けたロードマップを描き始めています。
2つ目に、人数が増加し、寿命が延びる高齢者たちの定年退職の時期をどう扱うかです。
中国では、地域や業種にもよりますが、一般的に男性は60歳、女性は50歳で退職します。民間企業では、それぞれ65歳、55歳までという状況もあります。もちろん、副業や兼業が当たり前の中国では、世間的に退職したとしても、引き続き何らかの形で働いている人はゴマンといます。
例えば、私の知り合いで、広東省の公立病院で小児科医として働いていた女性は、50歳で退職しましたが、その後は「フリーランス医」として、個人的人脈を生かしながら“パートタイム”で働いていて、現役時代の3倍以上の報酬を得ています。
労働人口が減っていくなかで、例えば定年退職の時期を、男性65歳、女性60歳のような形で伸ばすのか否か。人口規模を考えれば、この手の措置を取るだけでも、労働市場に与えるインパクトは巨大なものになります(中国では、60歳以上の人口のうち、60~69歳が55.8%を占める)。
一方で、デジタル化など生産性の向上、AI(人工知能)やロボットの開発と普及といった分野は、中国で急速に進んでいます。若干極端な問題提起になりますが、これらの分野を大々的に進化させることと、高齢者に「人手」として働いてもらうこと、経済にとってどちらが効率的、生産的なのかといったことも、社会保障や財政圧迫などと同様に、中国政府は政策決定の指標として捉えていることでしょう。
これに関連するのが3つ目です。高齢者が労働力としてどの程度活躍するかに関しては、議論の余地があるものの、消費者という立場で言えば、高齢者の増加、高齢化社会の進行をビジネスにつなげない選択肢はないでしょう。
ここで真っ先に思い浮かぶのは養老産業です。今後高齢者が、余生を過ごしていく過程で、衣食住や余暇をどう満たしていくのか。
私自身の観察や経験からすれば、中国の人々は、家庭内、世代間の結びつきが強く、下の世代が上の世代を介護施設に「丸投げ」するようなやり方に抵抗を感じる人が少なくありません。家族は、世代を超えてみな一緒に住み、助け合って生きていくべきだという慣習が根付いています。
故に、高齢者そのものをターゲットとするサービス、施設、商品、というよりは、高齢者のニーズを切り口、皮切りに、その高齢者が属する家族やコミュニティー全体を巻き込んでいけるような養老ビジネスが、中国の国情や中国人の国民性に合っているのかなと思います。
今後、養老産業で上場する中国企業、このマーケットに参画する外資企業などは増えていくでしょう。大きな方向性として、政府も段階的に各種規制を緩和し、ライセンス認証の門戸を広げていくものと思われます。
高齢化社会を経済成長に戦略的に活用しようという中国政府の意識や攻めの姿勢は、ほとんどの国を凌駕(りょうが)するものだと私は捉えています。日本の実業家や投資家も、中国で起きているそういうダイナミクスにうまく乗っかっていけるといいです。
(加藤 嘉一)
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