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M&Aコンサルタントが選ぶ「TOBされる条件」と注目5銘柄

トウシル / 2021年5月17日 6時0分

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M&Aコンサルタントが選ぶ「TOBされる条件」と注目5銘柄

 株式投資をしていると、保有している上場株が運良くTOB(株式公開買付け)されることがあります。TOBによって「プレミアム」が付与されると、想定以上の利益につながる可能性が高いです。

 ということは、TOBされる銘柄を狙って投資すれば、効率的に利益を得られるはず。ではTOBされる銘柄は、どうやって探したらいいのでしょうか? またコロナ禍という特殊な環境下において、TOB銘柄狙いで投資をしても問題ないのでしょうか?

 M&Aコンサルティングに携わり、20件超の成約実績を持つ筆者が、TOBの基本や2020年に行われたTOB案件について解説。これまでの事例から、2021年にTOBされる可能性のある銘柄に関して言及します。

TOBとは?

「TOB(Take-Over Bid)」はM&A・企業買収の一種で、株式の公開買付けを行うことです。対象企業株式の買付けを実施する事実やその買付期間、買付価格、買付予定株数などを公表し、証券取引所を通さずに既存株主から株式を買付けます。

 このとき、買収側の企業(以下、買主)と買収される側の企業(以下、売主)とが友好的にTOBを進めている案件が「友好的TOB」、双方が対立しているTOB案件が「敵対的TOB」です。

 友好的TOBの場合は、双方の合意の上で株式譲渡を進めますが、敵対的TOBの場合は、こうした合意がない状態で、買主が一方的に株式取得に向けて動きます。

 2020年に実施されたTOBは計60件、うち敵対的TOBは5件でした。全体的には友好的TOBが圧倒的に多いことが分かります。

 TOBする側の目的は、株式取得による「経営権の獲得」。そして企業を買収することで自社の価値を高め、今後の事業展開を有利に進める効果を期待しています。

プレミアムが30%以上ついたTOB案件の共通点

 TOBを成立させやすくするため、TOBでの株式買付価格は市場株価よりも高めに設定されることが一般的です。このとき通常の株価に上乗せされる金額が「プレミアム」。

 プレミアムの金額は案件によって異なりますが、おおむね30%前後が目安になります。投資家から見て、このプレミアムの大きさが利益に直結します。

 2020年4月から2021年にかけて行われたTOBは計72件。そのうちTOBで30%以上のプレミアムがついたのは計38件でした。これらの30%以上のプレミアムが付いたTOBには、どのような共通点があるのでしょうか?この38事例に見られる特徴を紹介します。

1.当初からTOB対象企業の株式を過半数近く保有

 1つ目は、買主がTOB対象企業の株式を過半数以上保有していることです。このうちTOB実施前の持分比率が40%超だった案件は、15件ありました。買主が売主に対して、TOB前から大きな影響力を持っていたと推測できます。

2.親子上場の解消

 2つ目は、親子上場の解消によるものです。1つ目の条件に当てはまる15件のうち、親子上場の解消に伴うTOBは7件でした。

 親子上場企業は、たびたびコーポレートガバナンス上の課題が指摘されており、2006年の417社をピークにその数は減少に転じています(数値は野村資本市場研究所「純減が続く親子上場企業数」より引用)。

 コロナ禍での業績への影響によっては、今後も親子上場の解消とともにTOBが実施される可能性はあるでしょう。

3.PBR倍率が1倍を切っている

 3つ目は、PBR(株価純資産倍率)が1倍を切っている案件が多いことです。PBRは株価が割安かどうかを測る指標で、「株価 ÷ 1株当たりの純資産額」から算出されます。

 このPBRが1倍を切っているということは、本来の企業価値よりも株価が割安になっている状態です。プレミアムを上乗せすることもあり、なるべくコストを抑えたいということでしょう。

4.TOBをするだけの体力がある

 4つ目は、買主側にTOBできる体力があることです。親子上場を解消する際の親会社側も含め、売主側の時価総額に対して対価を支払えるだけの財政基盤は必要不可欠。加えて業績も比較的安定していることが特徴です。

親子上場解消に関するTOBの具体例

 プレミアムが30%以上ついた事例で一定数見受けられたのが、親子上場解消に伴うTOBです。実際にどのような事例があったのか、3例を挙げて説明します。

1.ソニーがSFHをTOB(2020年5月)

 ソニーは2020年5月20日から7月13日まで、ソニーフィナンシャルホールディングス(以下、SFH)のTOBを実施。7月14日には買付手続きを終えて完全子会社化しました。

 このTOBが正式発表されたのは5月19日。18日終値は2,064円から急上昇して19日には2,412円、20日には2,595円と買付価格の2,600円付近まで上昇。その後も2,600円台付近を推移して、そのまま上場廃止に至りました。直近3か月の平均株価から算出したプレミアムは、33.06%です。

 なおソニーはSFHの発行済株式を当初から約65%保有しており、TOBは比較的スムーズに進行、完了したと見られています。

2.ライクがライクキッズをTOB(2020年6月)

 ライクは2020年6月10日から7月21日まで、保育事業を行っているライクキッズのTOBを実施しました。

 TOBが発表される前日の6月8日終値は768円。その後6月9日に772円、6月10日に922円と値を上げ、6月11日には1,002円と、買付価格の1,005円付近まで上昇しています。

 6月8日終値から算出するとプレミアムは30.8%。しかしこの銘柄は2020年3月に、300円台から400円台を推移しています。そのため直近3か月の平均株価から算出したプレミアムは70.28%と、かなり高水準となりました。

3.NTTがNTTドコモをTOB(2020年9月)

 近年まれに見る大型TOBだったのが、日本電信電話(以下、NTT)によるNTTドコモのTOBです。2020年9月30日から11月16日まで実施され、その買付総額は4兆円超と、日本初の1兆円超TOBとなりました。

 株価は9月28日終値の2,775円から29日には3,213円、そして30日には3,885円と買付価格の3,900円付近まで急上昇。プレミアムは、直近3か月の平均株価から算出すると32.29%、9月28日終値から算出すると40.5%と高水準でした。こちらも比較的好条件なTOBだったと言えるでしょう。

TOBを狙って株式投資するメリット・デメリット

 TOBされた場合のプレミアムを狙って、TOBされる可能性のある銘柄を保有するメリット、デメリットは何でしょうか?

TOB狙いで投資するメリット

 TOB狙いで株を買うメリットは、TOBの発表・実施によって株価が急上昇し、買付価格付近で売却できる点に尽きます。TOB発表後の上げ幅は一般的に30%前後ですが、敵対的TOB案件であればそれ以上のプレミアムが付与される可能性もあります。

 大きな利益が得られる可能性に賭けて事前に投資をしておくのは、有効な投資手段の1つと言えるでしょう。

TOB狙いで投資するデメリット

 TOB狙いで株を買うデメリットは、そもそもTOBが行われない可能性があることです。TOBを狙って前々から投資していても、TOBが実際されなければ株価は大きく上がらず、資金をただ寝かせておいただけになってしまいます。

 ただしPBRが低い銘柄であれば、TOBが実施されなかったとしても大きく株価が落ち込むリスクは低いです。TOBが期待できる低PBR銘柄に絞って投資をするなら、投資効率はそこまで悪くないのではないでしょうか。

アフターコロナでTOBされる可能性がある銘柄の条件

 コロナ禍で企業の置かれている環境は大きく変動しました。しかしコロナ禍でもTOBは引き続き例年並み、もしくはそれ以上に実施される見込みです。よって銘柄さえ選べば、TOBされるのを期待して投資する価値はあると考えています。

 アフターコロナでTOBされる可能性がある銘柄は、どのような特徴があるのでしょうか? これまでのTOB案件を踏まえ、銘柄を絞るための条件を4つご紹介します。

1.親子上場銘柄の子会社側

 1つ目の条件は、親子上場銘柄の子会社側であること。親子上場はガバナンス上の問題もあるため、親子上場しているメリットよりもデメリットが大きくなった場合、TOBによって子会社化される傾向があります。

 コロナ禍で親会社・グループ会社のどちらかの採算が悪化、弱体化した場合、TOBが実施される可能性は十分あるでしょう。

 もちろん親子上場銘柄以外のTOBに関しては、予測するのが非常に困難です。よって個人的には、親子上場銘柄に絞って投資を検討した方が効率的だと考えています。

2.PBRが0.7倍以下

 2つ目の条件は、PBRが0.7倍以下であること。TOBする側は買収にかかるコストを極力抑えたいので、子会社の企業価値が下がっているタイミングは「TOBのチャンス」とも言えます。

 通常でもPBR1倍以下は割安判断ができる状態ですが、さらに水準を下げた0.7倍以下の銘柄であれば、TOBされる可能性がさらに高まるでしょう。

3.コロナ禍の影響をダイレクトに受けていない業種

 3つ目の条件は、コロナ禍でその影響を直接受けていない業種であること。コロナ禍で直接的なダメージを受けた飲食業界や航空業界などは、積極的なTOBが実施しにくいと考えています。

 一方、一時的に株価を下げたとしても、直接的な影響を受けていない業種・企業であれば、時期が来たら業績は復調するので、TOBされる可能性があるでしょう。

 ただ現状、世界的に大規模な金融緩和政策が取られており、余ったお金が株式相場に流れています。そのため、コロナ禍で直接的なダメージを受けた企業でも株価が割高になっている可能性があるので、PBRをよく見て判断するのがおすすめです。

4.親会社にTOBをするだけの体力がある

 4つ目の条件は、親会社にTOBを実施できる体力があること。子会社相手にTOBする場合でも、その企業価値に値するだけの資金がかかります。

 さらにプレミアムを付与するコストも捻出する必要がありますので、親会社に資金力が十分あることは外せない条件と言えるでしょう。

TOBされる可能性がある銘柄5選

 では前のページで挙げた条件を満たす銘柄は何でしょうか? 2021年にTOBされる可能性のある銘柄を5つ紹介します(2021年3月30日時点でのデータに基づいて選定)。

1.広栄化学(4367)(親会社:住友化学)

 広栄化学は東証二部に上場している、住友化学系の含窒素化合物メーカーです。時価総額は136億円、PBRは0.68倍と0.7倍を切っています。

 親会社の住友化学は、コロナ禍の影響から2021年3月期の通期連結業績を一度下方修正しましたが、2021年4月26日にこれを上方修正しています。前期に17円出していた配当も、一度は12円に変更したものの、今回15円に修正。

 業績の復調が予想されるため、戦略的なTOBが実施される可能性はゼロではないでしょう。

2.名鉄運輸(9077)(親会社:名古屋鉄道)

 名鉄運輸は名証二部に上場している名古屋鉄道傘下のグループ会社で、一般貨物の運送業や引越し業を展開する企業です。時価総額は147億円、PBRは0.41倍と低水準になっています。

 親会社である名古屋鉄道が発表した2021年3月期の第3四半期決算を見ると、コロナ禍の影響から純利益が13期ぶりの赤字に転落しています。配当も前年度は15円でしたが、今年度は無配の予定です。

 名古屋鉄道はコロナ禍の影響で経営は一時的に厳しい状態になっていると言えますが、名古屋の地場企業として大きな影響力を持つ企業である以上、何かしらの手段を講じて業績回復を目指すのは明らかです。そこでTOBが実施されることがあるかもしれません。

3.伊勢化学工業(4107)(親会社:AGC)

 伊勢化学工業は東証二部に上場する、ヨウ素や天然ガス、金属化合物を生産する化学メーカーです。時価総額は166億円、PBRの計算は0.67倍となっています。

 親会社のAGC(旧・旭硝子)の2020年12月期通年の決算短信によると、連結での当期純利益は411億円と、前年度の555億円には及びませんでした。しかし年間配当額は120円をキープしており、復調が期待できる水準だと考えられます。

 AGCは今回挙げた5社の中で、最も時価総額や手元のキャッシュが大きい企業です。財政基盤の安定性は信頼できるでしょう。

4.エストラスト(3280)(親会社:西部ガスHD)

 東証一部上場銘柄のエストラストは、山口県に本社を置く不動産会社です。分譲マンションの販売や販売代理業務、不動産仲介業務などを行っています。時価総額は42億円、PBRは0.68倍です。

 親会社の西部ガスホールディングス(以下、西部ガスHD)は、2017年にTOBを経てエストラストをグループ会社化しました。

 西部ガスHDの2021年3月期の決算短信を見ると、連結での経常利益は48億円と、前年度の75億円を下回っています。ただ年間配当額70円は変わらず、連結での総資産額は微増している状況。今後戦略的にTOBを仕掛けるかどうか、注目しておきたいところです。

5.KHC(1451)(親会社:日本アジアグループ)

 KHCは兵庫県を中心として、住宅用地の分譲や戸建注文住宅の設計施工を行っています。時価総額は23億円、PBRは0.44倍と相当割安な状態です。

 ただ親会社の日本アジアグループは、2020年11月にグリーンホールディングスエルピーによるMBO(経営陣買収)が不成立、2021年2月からは旧村上系投資会社のシティインデックスイレブンスから敵対的TOBを複数回仕掛けられるなど、混乱が続いています。

 日本アジアグループが買収されずに残ったとき、KHCを子会社化して企業基盤の充実を図る可能性があるかもしれません。

まとめ

 今回は過去事例を元に、TOBされる銘柄の条件についてご紹介しました。TOBされる銘柄を狙って投資を行えば、30%前後のプレミアムが得られる可能性があります。あくまで予測ではありますが、今後の株式投資の参考にしていただけたら嬉しいです。

※ユニヴィスグループでは、投資初心者向けの金融・投資メディア「MoneyCourt」を運用しております。ぜひ一度ご覧ください。

渡邉 広康(公認会計士/税理士)

▼Profile
一橋大学商学部を卒業後、有限責任監査法人トーマツ(Deloitte Tohmatsu)に入社。その後株式会社リヴァンプに従事した後、株式会社ユニヴィスコンサルティングを創業。UNIVISでは、M&A関連業務(FA、DD、Valuation、PMI)及び管理会計関連業務(管理会計導入支援、事業計画策定、予実管理)を行っている。
ユニヴィスグループ公式ページ
 

(トウシル編集チーム)

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