大統領選挙後の株式相場
トウシル / 2016年11月4日 0時0分
大統領選挙後の株式相場
いよいよ大統領選挙まであと一週間となりました。選挙後すぐに結果が判明していない可能性も十分考えられますが、少なくとも今年、株式市場にとって最大とも言える不透明要因・イベントが通過するのはもうそれほど先ではなくなりました。今年初め、2016年の米国株式相場の予想を聞かれた際、私は「今年は大統領選挙を控えているので、それまでは上昇しにくいだろうが、大統領選挙が終わるくらいから上昇に弾みが付くだろう」と申し上げました。今年S&P500指数はこれまで3%しか上昇していないのでこれまでは予想通りなのですが、一方で「大統領選挙後、上昇に弾みが付く」という考えも現時点で全く変わっていません。
市場には大統領選挙以外にいくらでも材料はありますが、やはり不透明要因という点では選挙に勝るものはなく、歴史的にも大統領選挙を控えた10カ月間は冴えない相場展開となることが多いものです。特に、2期(8年)続いた大統領の任期後半には株式相場が大きく調整する傾向が見られます。ニクソン大統領は8年続きませんでしたが一応2期目、レーガン大統領時は1987年ブラックマンデー前がほぼ高値、クリントン大統領は任期満了の10カ月前からITバブル崩壊、そしてブッシュ大統領は任期満了の1年半前から金融危機に見舞われ、今年初めにも株式相場は一時大きく下落しました。相場の下落材料としては大統領に直接関係ないと思われるものもありますが、大統領選挙を控え、少なくともこのような調整を支えられるようなサポートが出にくい状況になっていたことは確かでしょう。
またビジネスを営むにあたっても当然、大統領選挙の動向は気になるところでしょう。ビジネスプランを立てる際、殆どの場合少なくとも3年以上先を見据えた経営を考えると思います。しかしそのような時、大統領が交代することをきっかけに様々な政策が変わるとなると、大統領選挙が終わってきっちり政策が明確になるまで雇用や設備投資は控えようということになるでしょう。市場では例えば、薬価抑制につながる法律が成立する可能性が高まれば薬品株には大きな打撃でしょうし、金融規制が強化されるとなれば、ウォール街の金融機関にとっては痛手となるでしょう。こうして大統領選挙前というのは当然のことながら、ビジネスも投資も控えられがちになるはずです。
このように、大統領選挙というのは確かに大きな不透明要因です。しかしこの場に及んで投資において重要なことは第一に、不透明感は十分過ぎるほど既に相場には織り込み済みであり、第二に、間もなくその不透明要因は無くなる、という事実なのです。大統領選挙の結果を受けて改めて「新大統領の下でアメリカはどうなるのだろう」と心配するのは自由ですが、それはそもそも大統領選挙のずっと前から続いてきた心配であり、相場が同じ心配を二度も三度も織り込みに行ってくれると期待するのは非合理的です。
またそもそも実際問題として、大統領が代わることを、本当にそれほど心配しなければならないのでしょうか?私は特に今年、大統領選挙が経済や市場に与える影響について聞かれる機会が多くありました。しかし一般の人が考えているほど「大統領選挙」が経済や市場に与える影響は大きくないと思います。というのは、アメリカで法律成立に当たってより重要な役割を果たすのは議会です。基本的にアメリカの法律は、上院、下院の両方で承認され、大統領の署名を経て成立することになっています。大統領には拒否権はありますが、差し戻されても議会で3分の2の賛成を得ればその法律を成立させることができます。現実的には現在、上院も下院も、3分の2の賛成を得るというのは極めて困難なため拒否権は有効ですが、逆に議会の協力無しに法律を成立させること、即ち経済政策を実行することは出来ないのです。
近年、地政学的リスクの高まりにより、軍の最高司令官としての役割がクローズアップされてきた感はありますが、こと経済政策に関しては法律の成立が必要なわけですから、大統領の権限で何でもかんでも出来るわけではないのです。要するに経済に与える影響を考えるに当たっては、大統領に誰がなるか、ということに加えて議会とのバランスが重要だということです。今回のケースで言えば民主党のクリントン候補が有利と言われていますが、議会下院では共和党が圧倒的多数で逆転はほぼ不可能と見られるため、経済政策でそれほど大きな変化が出る可能性は低いのです。
ここに来てクリントン候補の私的Eメール問題が再びクローズアップされてきて、大統領選挙の行方は混とんとしてきた感はありますが、混とんとすればするほど、大統領選挙という不透明要因が去った後の反動も大きいはずです。相場が上昇するのは、何かプラス材料が出た時よりも、実はマイナス材料が去った時の方が大きい事を忘れてはなりません。
(2016年11月1日記)
(堀古 英司)
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