ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーの本音がみえたバークシャーの株主総会
トウシル / 2021年5月27日 15時36分
![ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーの本音がみえたバークシャーの株主総会](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushiru/toushiru_32357_0-small.jpg)
ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーの本音がみえたバークシャーの株主総会
長期保有銘柄は3銘柄だけ、やはり短期投資家の側面を持っているバフェット
今月1日、ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイの2021年次株主総会がオンラインで開催された。昨年、新型コロナウイルスによる移動制限のために出席できなかったチャーリー・マンガー副会長も参加し、総会の目玉であるバフェットとマンガーの掛け合いが2年ぶりに復活した。
3時間半に及ぶQ&Aセッションを含め、総会は6時間近くに及んだ。SPAC(特別買収目的会社)の急増やロビンフッドを舞台にした個人投資家の投機的な売買、シェブロン株への投資、暗号資産などについて、それぞれの持論を展開した。
年齢についてことさら取り上げるのはやぼであるが、バフェット90歳、マンガー97歳である。例年のことながらコーラを飲みつつ、休憩なしのぶっ続けで総会を終えた2人のバイタリティーには脱帽する。
今回は、17日に米証券取引委員会(SEC)に提出されたバークシャーの2021年3月末時点の保有銘柄報告書(フォーム13F)をもとに、年次総会でのバフェットとマンガーのコメントも織り交ぜながら、バークシャーの3月末の株式保有状況を確認してみたい。
バークシャーが保有する株式評価額(フォーム13Fをもとに集計)
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/8/2/-/img_82c80fee0b88f2a07930ed2406c8745453031.png)
フォーム13Fによると、株式保有評価額は2020年末に比べて0.2%増の約2,704億ドル、保有銘柄数は43となった。今回の報告書において特徴的だったのは、バークシャーが長年にわたって保有してきたウェルズ・ファーゴ(WFC)の保有高を大幅に削減したことであろう。
2017年12月末には278億ドルを保有していたが、2019年頃から持ち高を減らし始め、この1-3月期には2,637万ドル相当、株数にして67万5,054株を残すのみとなった。
バークシャーの保有銘柄
(緑:新たなポジション、ピンク:ポジションが減少したもの、青:ポジションが増加したもの)
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/1/4/-/img_14fa61be0bc4f8117e319dff1ba45296137534.png)
年次総会で銀行株のポジション縮小について聞かれたバフェットは、バークシャーが昨年、銀行株の多くを売却したのは、銀行業界に対する信頼を失ったからではなく、ポートフォリオのバランスを取り直し、一つの分野に偏りすぎないようにしたためだと説明している。
「一般的に銀行は好きだが、考えられるリスクに比べてその保有比率が良くないと考えたからだ。バンク・オブ・アメリカの10%以上を持っていた。われわれよりも銀行にとって頭痛の種だ」、「銀行ビジネスは、10年前、15年前の米国に比べてはるかに優れている。世界中のさまざまな場所で行われている銀行業務は自分にとって懸念することかもしれないが、米国の銀行は10年前、15年前に比べてはるかに良い状態にある」と述べた。
前四半期に保有が明らかになった石油大手のシェブロン(CVX)については既に51%を売却、一方、全米でスーパーマーケットを展開するクローガー(KR)のポジションを約52%増やし、新たに保険関連事業を手がけるエーオン(AON)を取得した。
日本経済新聞の「マーケット反射鏡 それでも売った銀行株 バフェット氏の胸騒ぎか」によると、バフェットが2000年以降に保有した176銘柄について、その平均保有期間は4.54年にとどまると言う。
さらに、ウェルス・ファーゴの売却により、20年以上の長期にわたり保有しているのは、アメリカン・エキスプレス(AXP)、コカ・コーラ(KO)、ムーディーズ(MCO)の3社だけとなった。
バフェットはかつて、「10年間株を保有する気がなければ、10分間保有することさえ考えない方がいい」と述べている。長期保有のイメージとは裏腹に、見切り売りを的確にすることで、それなりのリターンを確保している。
それが、バフェットが天才投資家とされているゆえんである。詳しくは今年3月のレポート「ウォーレン・バフェットは実は短期投資家!?バフェットのすごさは銘柄の買い時より売り時にある」を参照されたい。
バフェットが保有する株式の王様はアップル
バークシャーによるアップル株の保有株数は2020年9月末に9億4,000万株だったが、昨年、その一部を売却し、2020年12月末時点では約8億8,700万株に減少した。2021年3月末時点では3カ月前から変化はなく同数を保有している。
評価額については、株価の上下によって変動はあるが、昨年はアップル株の上昇が続いていたこともあり、株数が減少しても評価額はかさ上げされる局面があった。
バークシャーが保有するアップル株の評価額と株数(四半期推移)
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/8/6/-/img_864b8bfd30bed8a6d9e7a2d17aad520579239.png)
バークシャーのポートフォリオ全体に占めるアップル株の割合を評価額ベースで見ると、2021年3月末時点で4割を超えている。昨年は一時、5割近くに迫るところもあった。
ポートフォリオ全体に占めるアップル株の割合(評価額ベース・四半期推移)
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/8/3/-/img_83d6cd70dfadd45bd2908fda229a449d99851.png)
バフェットはアップル株の保有について、今年2月に公開された「株主への手紙」で次のように述べている。
バークシャーのアップルへの投資は自社株買いの力を鮮やかに物語っている。2016年後半からアップル株を買い始め、2018年7月初旬までに10億株強(分割調整済み)のアップル株を所有した。私たちが2018年半ばに購入を終えたとき、バークシャーの一般勘定はアップル株の5.2%を保有していた。
その株式の取得に要したコストは360億ドルだった。それ以来、私たちはともに年間平均約7億7500万ドルの定期的な配当を享受しており、2020年には、保有株の一部を売却することで110億ドルを追加で手に入れた。この売却にもかかわらず、バークシャーは現在、5.4%の株式を保有している。これは、アップルが継続的に自社株買い戻しを行ってきたことで、現在の発行済み株式数が大幅に減少したためだ。
自社株買いの損得勘定はゆっくりと効いてくる。時間が経つにつれてより効果的になる可能性がある。このプロセスは、投資家にとっては、素晴らしい会社の成長の一端を享受する簡単な方法を提供している。
また、年次総会では「ブランドと製品、それは素晴らしい。人々にとって欠かせないものだ。昨年、私はいくつかの株を売ったが、それはおそらく間違いだった」と述べ、昨年、アップル株の一部を売却したのは誤りだと認めた。
投資家のためのウッドストック、バークシャーの年次総会からのポイント
バークシャーの手元キャッシュを確認しておこう。2021年3月末時点のキャッシュポジションは、過去最高となった2020年中頃とほぼ同水準にまで高まっている。
バークシャー・ハサウェイの手元現金とNYダウの推移(2021年3月末時点)
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なかなか積極的な投資の機会がないというのが背景であろう。しかし、バフェットは米国の成長については、引き続き強気なスタンスを崩していない。年次総会の冒頭挨拶で、米国企業と資本主義を支持する姿勢を改めて示し、現在、世界の時価総額上位6社のうち5社が国内企業で構成されていることを強調した。
「1790年には、(米国人は)世界の人口の1%の半分しかいなかった。そのうち60万人は奴隷だった。アイルランドの人口は米国の人口より多かった。ロシアには5倍の人がいた。ウクライナにはその2倍の人がいた」
「しかし、われわれはここにいた。何を持っていたか?未来への地図を持っていた。232年後の今、世界のトップ6社のうち5社を米国企業が占めている。これは偶然ではない。私たちがより賢く、より強くなったからではない。このシステムは非常にうまく機能している」
一方で、当面のリスクとして、コロナウイルスからの回復期にある米国において物価上昇圧力の兆候を見ていると述べ、インフレ圧力の高まりを懸念する市場参加者の声を裏付けた形となった。
「かなりのインフレを目撃している。(傘下に持つホームビルダー企業を例に取り)われわれは価格を上げているし、人々もわれわれに対して価格を上げている。そして、それは受け入れられている」
「住宅の価格は上がっている。コストはどんどん上昇している。鉄鋼のコストもだ。毎日のように上がっている」
「これが経済だ。Red Hotの状態にある。そしてわれわれはそれを予想していなかった」
バフェットはロビンフッドについて、ここ1年から1年半の間に株式市場に加わったカジノの側面の非常に重要な部分になっていると述べた。
「(ロビンフッドは)違法なことではない。しかし、それをやっている人たちを中心に社会が構築されることはないと思う」
「しかし、アメリカが成し遂げたことは、全体として立派なことだと思う。米国企業は、人々がお金を預けて貯蓄するための素晴らしい場所になっている。しかし、米国企業はギャンブル・チップも生み出している。そのギャンブル・チップに合わせて、私が1日に30、40、50回の取引をするように言い、でも手数料は取らないと言えばどうなるか。このようなことが増えないことを願っている」
「バーニー・サンダースが基本的に勝利したと言えるだろう」(チャーリー・マンガー)
ビットコインや暗号資産に関しては、バフェットが直接の回答を避けた一方、マンガーは、より直接的な攻撃を行った。
「誘拐犯や恐喝犯などに便利な通貨を歓迎しない。また、何もないところから新しい金融商品を発明した人に、何十億、何百億、何千億というお金が行くというのも気に入らない。控えめに言えばこのような開発は文明の利益に反しているし、うんざりだ。」
マンガーは、低金利が触媒となって株式全体のバリュエーションが急上昇し、市場に投資する人々に富を生み出す機会を与えていると述べた。その副作用として、格差が急速に拡大していることを痛烈に批判した。
FRB(米連邦準備制度理事会)が市場に全面的に介入し、膨大な量の負債が追加され、政治的な状況は巨大な混乱に陥っている。残っているのは、旧態依然としたカジノ化した市場にけん引された「仮想的な富の効果」だけだ。資産と負債を際限なく膨らます両建て経済でカジノ化した市場の怖さは、「相場が急落すると資産は減るが、負債は減らない」ということである。
「現在の状況の一つの帰結として、バーニー・サンダースが基本的に勝利したと言えるだろう」
「なぜなら、すべてのものが非常に高くなり、金利が非常に低くなったため、これから起こることは、ミレニアム世代が私たちの世代に比べて金持ちになるのに非常に苦労するということだ。だから、これから台頭してくる世代の金持ちと貧乏人の差はもっと少なくなるだろう。だからバーニーは勝ったのだ。」
資本主義の象徴であり、あの3億総右翼と言われた米国にも共産主義や全体主義の波が襲ってきたようだ。「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」はカール・マルクスの1875年の著書『ゴータ綱領批判』から広まったスローガンである。米国では今や能力に応じて働くことが抜け落ち、必要に応じて受け取るだけの社会になりつつある。
政府が経済の50%近くを補っているMMT(現代貨幣理論)経済が始まっているが、共産主義の理念がなぜ米国の若者の間でまん延しているのかは、下の4分の短い動画をみていただければ、だいたい分かると思う。バフェットの右腕であるマンガーが述べたように、バーニー・サンダースとオカシオ・コルテス(AOL)は勝ったのだ。
サンダース候補:皆のための経済 システムを! VSディズニー(日本語字幕)
著名投資家のマーク・ファーバーは、『マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート』の5月号で、【「無関心」そして「自己満足」も人々が都市封鎖と自由喪失を受け入れた要因かもしれない。オーウェルもまた『1984』で「人は自由と幸福のどちらかを選ぶとすれば、圧倒的大多数が幸福を良しとする」と書いている。この選択が政府の給付によって助長された。いくつかの統計によると米国には働くよりも働かないほうが良い生活を送れる人が何百万もいる。それが別の問題を導く。高失業率での人手不足だ。もっとも、さらに別の疑問も生まれる。ほとんどの西側民主主義国で政府が経済の50%近くを補っている。金融の領域でいえば西側民主主義国が人々から「貯蓄」を増やす能力を奪っているのは明らかである。金利がゼロ近辺やゼロ未満で、どうして貯蓄ができるのか。資本が何の収入ももたらさなければ、誰が貯蓄を増やして生き残れるのか】と、述べた。
「生産性を高めずに財政赤字を計上し、国債を発行し、貨幣を増発し続けることはできず、それは長期的に持続不可能」(レイ・ダリオ)なのである。
民主主義諸国に住む多くが「自分たちは不可侵の自由を享受しており、その自由が全体主義・共産主義・独裁主義体制を打倒してきた」と考えている。しかし、それは大いなる勘違いであり、思い上がりではないか、むしろ今、自由が急速に失われているのではないかとマーク・ファーバーはみているようだ。
「信用拡大は政府が市場経済と闘う第一手である」、「資本主義から計画経済に導くすべての歩みが必然的に専制・独裁に近づく歩みとなる」(ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス)
では、どうしてそのように危惧する人が少ないのか。その一因として、マーク・ファーバーは、「人は自由と幸福のどちらかを選ぶとすれば、圧倒的大多数が幸福を良しとする」(ジョージ・オーウェル)からだと考えている。ただし、その幸福も放漫財政と暴走中銀の“マッチポンプ”政策による幻覚にすぎないと…。
マーク・ファーバーは今回のコロナ禍による混乱と恐怖で、そのマッチポンプに拍車がかかったと指摘している。そして、その先にあるのは、「悪という全くもって不幸な結果」だという。混乱と恐怖に陥った社会は、人々の無思慮と従属の繁殖地となり、歴史的に悪の根源になったとみているからだ。
自由には責任が伴う。大衆は「みんなと同じ」だと感じることに苦痛を覚えないどころか、それを快楽として生きている存在だと、オルテガは指摘した。
【大衆は、急激な産業化や大量消費社会の波に洗われ、自らのコミュニティや足場となる場所を見失い、根無し草のように浮遊を続ける。他者の動向のみに細心の注意を払わずにはいられない大衆は、世界の複雑さや困難さに耐えられず、「みんなと違う人、みんなと同じように考えない人は、排除される危険性にさらされ」、差異や秀抜さは同質化の波に飲み込まれていく。こうした現象が高じて「一つの同質な大衆が公権力を牛耳り、反対党を押しつぶし、絶滅させて」いくところまで逢着するという】(NHKテレビテキスト「100分 de 名著」『オルテガ「大衆の反逆」』 2019年2月)
いずれにせよ、「個人の自由と自由市場」が、美辞麗句の“目的”を並べたてて同調圧力をかけてくる全体主義者たちに破壊される流れにある。ポピュリズムもバブルも悲劇しかもたらさない。
西部邁氏によれば、大衆という人種は、「わかりやすい単純模型」に簡単に飛びつく愚かな人々である。大量の人間が飛びつくものに、ろくなものがあった試しがないのである。相場の世界では、流行とかブームに乗ると、最後にはしっぺ返しが待っている。
MMTも理屈通り動けば結構なことではあるが、皆のおカネ(公金)は政治家に管理されると誰のおカネでもなくなる。
そして、あきれかえることに、その希少資源は助成金という破廉恥な票の買収に、とてつもなく巨額で壮観なピラミッドのような公共投資に、権力の触手を伸ばしていく巨大官僚組織の増殖・維持に浪費されてしまうのだ。
マーク・ファーバーは、「唯一興味ある疑問は今日の支配階級(政治エリート層と最裕福層)が現在の無産階級の奴隷になるのか、それとも、この支配階級が何も所有していない人口のおよそ50%を奴隷にするのかである。つまり社会主義狂信者に支配されるのか、それとも、右翼・軍事独裁者に支配されるのかだ」と述べているが、全体主義の「非寛容」という「正義」は地獄につながっているのかもしれない。全体主義がインフレに向かうのは歴史の必然である。
インフレが問題になっていても、FRBがそれに対してできることは何もない。しかし、彼らは、市場を落ち着かせるために、かなりのショーを行っている。それは、タイタニック号が沈むときのオーケストラの演奏を少しだけ思い出させる。
世界を見つめてごらん。きっとキミの信じているものすべてが壊れていく時が迫っている…。
帝国の背後にある典型的な大きなサイクル
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/4/4/-/img_44af2eb44ac1b5d61aa70dc265fc7cfe42762.png)
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5月26日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、今中能夫さん(楽天証券経済研究所チーフアナリスト)をゲストにお招きして、「米国株でポートフォリオ運用を!」・「日本市場と日本企業の問題点」・「半導体市場と相場の行方」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。
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![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/a/8/-/img_a867fa7545517a6bb69288d9ce2b212c36891.png)
ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。
(石原 順)
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