投資家はトランプ政権の本質を
トウシル / 2017年3月3日 0時0分
投資家はトランプ政権の本質を
トランプ政権が誕生してから約1カ月半が経ちました。去年の大統領選挙において、予めクリントン支持を表明していたアメリカの新聞は92%、購読者ベースだと97%に及びますが、その殆どが予想を外す結果となりました。選挙結果判明後、しばらくは予想を外したことに対する反省や検証に紙面を使っていたと思いきや、トランプ氏が大統領令を連発し始めるやいなや、再びトランプ氏に対する攻勢を強めています。通常、「大統領就任100日」というのはメディアも新大統領の出方を暖かく見守るものですが、近年インターネットやSNSの台頭により競争が激化しているのか、「100日」を待つ余裕も無いように見えます(何故メディアの情報を鵜呑みにしてはならないか 参照)。
それでもアメリカの多くのメディアは、大統領選挙のかなり前から、どちらの候補を支持しているかを表明してくれますので、情報を取り入れる方も、それを割り引いて取り入れることができます。しかし日本ではそのようなおことわりもなく、それら報道があたかも中立メディアのものであるように報じられるケースが多いように思います。もちろん事実と異なる情報を流しているわけではありませんが、やはりトランプ氏の暴言は何にも優先して取り上げられる傾向は顕著です。大統領選挙以降、日本の友人から頻繁に「アメリカは大丈夫か」と聞かれますが、トランプ氏の選挙演説を聞いていれば選挙前も後も変わらないし、連発してきた大統領令も、言っていたことを実行しているだけで特にサプライズはありません。恐らく暴言ばかり報道されていた日本では、そもそもトランプ氏がどのような選挙演説を行っていたかご存じない方が多く、「アメリカは大丈夫か」になってしまうのだと思います。
このような「アメリカは大丈夫か」という懸念を嘲笑するかのように、大統領選挙後、特に企業や消費者心理を示す指標は絶好調ですし、株式相場は連日の史上最高値更新となっています。「アメリカは大丈夫か」と聞いてきた友人は、アメリカの株式相場が史上最高値更新中であることを知らない、殆ど報道されない、と言っていました。しかし少なくとも投資家はトランプ政権の本質を見失わないように行動すべきです。それは今後、法人税率や個人所得税率が引き下げられて資本コストが低下すること、規制が緩和されていくこと、遅れていたインフラ投資が実行されていくこと、そしてそれらを通じてアメリカの成長率が引き上げられていく事、です。
トランプ政権になってかなり長く続いたデフレへの懸念が払拭されたことに伴い、世界の投資家は債券から株式へと大規模な資産アロケーションのシフトを行わなければなりません。通常、投資家の不安心理を示す変動率指数(VIX)は株価下落時に上昇するものですが、最近は株価上昇時にも上昇しており、そのような投資家が焦っている様子がうかがえます。恐らくメディアの多数を占める反トランプの報道を妄信してしまう結果「アメリカは大丈夫か」と不安を感じてしまい、多くの投資家が米国株式を買い遅れていることによるものでしょう。逆に言えば、これだけメディアのネガティブキャンペーンが続く中で株式相場が上昇しているということは、相場の腰はかなり強いと見て良いと思います。
今後リスクが考えられるとすれば、それはメディアのネガティブキャンペーンではなく、トランプ政権及び共和党の目指す経済政策の実行が遅れてしまうことでしょう。まずトランプ大統領が近々「驚くべき税制改革」を発表する、と言ってしまったので、市場の常として、本当に驚くべき税制改革であったとしても、発表後は一旦相場が調整する場面が想定されます。また私は今のところ、減税等の法案成立は秋口と見ていますが、これら来年にずれ込むようだと経済への影響は避けられなくなると思います。というのはトランプ氏の大統領選挙勝利以降、企業も個人も既に減税をはじめとする経済政策が実施されることをかなり織り込んできているはずです。減税等法案の成立が先延ばしになればなるほど、企業や個人の経済活動がスローな時期が長くなるからです。
トランプ政権のスピードを見ていると現時点ではそれほど心配する必要は無いと考えていますが、例えばオバマケアの撤廃・改革で予想以上の時間を費やしたりあまりに議会で敵が増えてくるようだと、このリスクは視野に入れ始めなければならなくなります。しかしその場合でも調整は一時的で、その後実際に政策が実行された時の経済へのインパクトが相場を下支えしていくことになるでしょう。
(2017年3月1日記)
(堀古 英司)
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