バーゼル3ショックとウェルズファーゴショックという静かな金融収縮
トウシル / 2021年7月21日 15時12分
バーゼル3ショックとウェルズファーゴショックという静かな金融収縮
金融市場の一角で静かに金融収縮が始まっている…
金融市場の一角で静かに金融収縮が始まっている。「ウェルズファーゴショックは日本ではあまり報道されていない。ただ、これは「終わりの始まり」かもしれない。借金漬けの米国の個人投資家はこれからカネが回らなくなりそうだ。
ゼロヘッジの記事「Wells Unexpectedly Shuts All Existing Personal Lines Of Credit, Hinting US Economy On The Edge」によると、「ウェルズ・ファーゴは、リテールに特化したウォールストリートの大手企業が提供している人気商品である既存の個人向けクレジットラインをすべて閉鎖すると発表したばかりで、多くの顧客を激怒させることになりそうだ」という。
以下はその記事の抜粋である。
【今後数週間のうちに閉鎖される予定のリボルビング・クレジット・ラインは、通常3000ドルから10万ドルの借り入れが可能で、金利の高いクレジットカードの負債を一本化したり、家の改築費用を支払ったり、ローンに付随する当座預金の当座貸越手数料を回避したりするための手段として注目されていた。声明によると、顧客には口座が閉鎖されることが60日前に通知され、残りの残高には定期的な最低支払額が必要となる。
CNBCによると、これはウェルズ社のCEOであるチャーリー・シャーフ氏が直面している最新の「困難な決断」である。シャーフ氏は、数年前に連邦準備制度理事会(FRB)が課した規制のおかげで、世間を憤慨させた、支店長が顧客に無断でクレジットラインを開設するという今では有名なスキャンダルなど、銀行の犯罪的な不祥事に対する罰として、銀行事業の削減を余儀なくされている。
ウェルズ・ファーゴは、6ページにわたる書簡の中で、「最近、提供している商品を見直した結果、個人用およびポートフォリオ用の新規クレジット口座の提供を中止し、既存の口座をすべて閉鎖することを決定した」と述べている。これにより、同社はクレジットカードと個人向けローンに注力することになるという。
突然の閉鎖により、多くの顧客が重要な流動性の供給源を失うことになる。さらに悪いことに、多くの顧客はこの決定に対してペナルティーを受け、新たな融資先からの融資を受けることが困難になる。CNBCによると、強制的にクレジットラインが閉鎖された場合でも、FICOスコアには自発的にクレジットラインの閉鎖を選択した場合と同様のペナルティーが課せられるとのことだ。
2018年に戻って、FRBはウェルズ・ファーゴが偽口座スキャンダルやその他の消費者への悪用で露呈したコンプライアンス上の欠点を修正したと中央銀行の規制当局が判断するまで、バランスシートを拡大することを禁止した。
JPモルガンのようなライバル企業がバランスシートを拡大したことで、資産の上限設定は最終的に数十億ドルの利益損失となった。また、住宅ローン大手は、米国最大の住宅ローン業者としての地位を失った。
前回、ウェルズが消費者の信用を制限したのは、2020年の夏で、新規のホームエクイティラインをすべて停止した。当時は、消費者の購買力がどの程度残っているのか、多くの人が不安を感じていた(もちろん、何兆ドルもの連邦政府の景気刺激策により、すぐに解消されたが)。
だからこそ、今回の決定のタイミングは非常に不思議だ。財務省の利回りが低下し、パンデミック後の世界的な回復の軌道に対する不安を示し、来年末までにFRBが利上げを行う可能性に神経を尖らせている中で、銀行は単にFRBのバランスシート秩序を口実に、慎重なリスク管理を行っているのだろうか?】
銀行は長短金利のフラット化のなかで、本来の業務である貸出・融資をやめてバブルに踊ってきた。
バーゼル3の導入により、今後はリスクの高い融資はリスクウエイトが上がり、不良債権扱いとなる。米国の銀行、リスク資産の残高を落とし、その資金をリバース・レポで、連銀に預けている。
連銀の方は6月に民間銀行からの預金金利(リバース・レポ金利)を0.05%引き上げた。それが上に書いた「ウェルズファーゴショック」である。官民の金融が一体となって資金吸収に動いている。これは静かな終わりの始まりだろうか…。
ヌリエル・ルービニが言うように、今のところ、緩い金融・財政政策は資産バブルと信用バブルを助長し続け、ゆっくりとした流れの中で大惨事を引き起こしている。どこかの時点で、このブームはミンスキー・モーメントで最高潮に達し、金融引き締め政策がバストとクラッシュを引き起こすだろう。
上昇トレンドラインを割り込んだS&P500指数
米国株のベンチマーク指標であるS&P500が上昇トレンドラインを明確に割り込んだことが話題になっている。
S&P500指数の上昇トレンドライン
現在の米国株の下落は典型的な7月中旬のピークアウト(天井打ち)なのだろうか? 例年7月半ばから9月までは米国株が下げやすい。
S&P500の年間シーズナルパターン
CNNマネーの「恐怖と欲望指数」をみると、現在の「押し目はすべて買い!」と言われる楽観現象に対して、市場がそれほど楽観していないことがわかる。
恐怖と欲望指数
恐怖と欲望指数の推移
現在のバブル相場の先行指標となっていたビットコインやテスラの日足をみると、「静かなじり貧相場」が展開されていてなんとも不気味だ。週足で見るとこうした個別銘柄は、4月でADXと標準偏差がピークアウトしており、典型的な調整相場となっていることがわかる。
ビットコイン/ドル(日足)20日のアジア時間帯の取引で3万ドルを割り込んだ…
ビットコイン/ドル(週足)
テスラ(日足)
テスラ(週足)
TSMC(週足)台湾TSMCの第2四半期決算は売上高が過去最高に
5月、6月にリバウンドした“バブル資産”が急速にしぼんでしまった…
GMOのグランサムは、「今回のバブル崩壊は春先か初夏、つまり今だと指摘している。今はまだ暴落の前段階なのだろうか? 秋はどのようになるだろうか。また、もし相場が下がった場合、買い戻しのタイミングはどうやって決めるのだろうか? 投機的ピークの必要条件をすべて満たしている米国市場は、歴史的に見て、今年1月以降にいつ崩壊してもおかしくない状況だった」と述べ、現在の相場に警鐘を鳴らしている。
グレーリノ(灰色のサイ)が暴れださないことを祈りたい。
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(石原 順)
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