夏枯れ相場と8月の事件簿
トウシル / 2021年7月28日 12時49分
![夏枯れ相場と8月の事件簿](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushiru/toushiru_33207_0-small.jpg)
夏枯れ相場と8月の事件簿
米国のワクチン施策の影響に注目
先週末のドル/円は、米国株が堅調に推移し、ダウ、ナスダック、S& P500の主要3指数が史上最高値を更新するとドル/円も買われ、1ドル=110.60円近辺まで上昇しましたが、先々週の110.70円近辺には届きませんでした。結局、この2週間で109〜111円のレンジを確認しただけの動きでした。110円を挟んで上下に動くだけで方向感はありません。クロス円も激しく上下に動いていますが、5月、6月のような上昇力はなくなっています。
米国はワクチン接種で世界に先行し、米国全土では18歳以上の70%近くが1回の接種を終えていますが、地域によって接種率に開きがあることが問題になってきています。東部バーモント州やマサチューセッツ州、それにハワイ州では80%を超えるような州がある一方、南部ミシシッピ州、ルイジアナ州、西部ワイオミング州などは50%以下となっています。いわゆるリベラルが多い民主党の地盤州では接種率が高く、保守層が多い共和党の地盤州では低い傾向になっています。
そしてワクチン接種率が高い東部などの地域では新規感染や重症化を抑え込んでいる一方、相対的に低い中西部や南部では新規感染者の増加が鮮明になっています。
こうした状況について、バイデン政権のファウチ首席医療顧問は、「米国は間違った方向に進んでいる」と、ワクチン接種の遅れている地域で感染が再拡大していることについて警鐘を鳴らしましたが、マーケットでは、この状況を無視するかのように米株は上昇し、景気に対しても楽観的な見方が多い状況です。
しかし、感染増加が止まらず、接種率が伸び悩み、ワクチン効果の期限も注目されてくると事態が深刻になる可能性もあります。感染拡大が景気後退リスクを再び想起させ、相場へ影響を与えることになるかもしれないため、油断はできません。
米株最高値更新中!ただしこれがピークの予感も…
米株が連日史上最高値を更新していますが、感染再拡大の中でここから更なる景気拡大の絵はなかなか描き切れません。7月29日に発表予定の米国4-6月期GDP(国内総生産)は前期+6.4%を上回る8%超の予想となっていますが、昨年の反動による需要急回復が一段落し、経済対策の効果が一巡してくる中で、この数字が景気のピークにならなければよいのですが…。
4-6月期の企業決算も好業績の予想ですが、すでに株価はかなり織り込んでいる動きをみせています。しかし、今後はバイデン政権がかなり本気で進めている、巨大IT企業への規制強化がGAFAなどへの業績に悪影響を与えてくる可能性もあり、IT企業などの業績も4-6月期がピークになるかもしれません。29日のGDPと同様、今週はアップルなど主力ハイテク企業の決算発表もあるため、今後の業績見通しや発表後の株価の動きに注目です。
7月27-28日開催予定のFOMC(連邦公開市場委員会)では、テーパリングについて道筋を示すのか、あるいは検討の議論をしているだけにとどめるのかが注目されますが、一方で6月のFOMC時点と比べると、新規感染者が4倍強で増加している中で、景気に対してどのような認識を示すのかにも注目です。
そしてFOMCが無事に終わり、株価に大きな波乱がなければ、米国GDP発表後は材料出尽くしから、8月26-28日のジャクソンホール会合まで、夏枯れ相場になるかもしれません(8月のFOMCは開催されません)。
活況でないのはドル/円だけではありません。ユーロもECB(欧州中央銀行)理事会が先週あったにもかかわらず、1ユーロ=1.17USドル台と1.18台を往復するだけで動意が乏しく、先週の週足では今年最小の値幅となりました。ユーロがこんな調子であるため、ドル/円も動きようがないのかもしれません。IMM(CME:シカゴ・マーカンタイル取引所にある国際通貨市場)のネット円ショートは、先々週とほぼ変わらず、ショートを抱えたままの状況となっています。
8月の事件簿
夏枯れ相場になっても、8月にはマーケットに大きな影響を与える経済的、軍事的事件が時々発生することがあることに、留意しておく必要があります(下記参照)。これらの事件は円高を引き起こす事件が多く、また、お盆休みや夏休みなどでマーケット参加者が少ないことから、値動きが荒くなりやすいため注意する必要があります。
ちなみに昨年8月は、米中対立激化、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融方針の変更(平均インフレ目標2%の導入)、日本の政変(安倍首相の辞任意向報道)など重要イベントがありましたが、ドル/円は月間で約8銭の陽線でした(円安)。高値、安値の値幅は約2円あったのですが、月初と月末は105.90円近辺でほとんど同じ水準でした。ドル/円が急落しなかったのは、日米とも株式市場が堅調だったことが背景にありました。今年も米株が堅調なため、心配は少ないかもしれませんが油断は禁物です。
《参考》 8月に発生した経済的、軍事的大事件
1971年8月15日 ニクソンショック 金・ドル交換停止、10%の輸入課徴金
1990年8月2日 イラク軍がクウェートに侵攻
2007年8月9日 パリバショック
2008年8月7日 北京オリンピック開催中に南オセチアでグルジア軍と軍事衝突。翌8日にロシアが軍事介入→欧州経済悪化も加わり、ユーロ円が8円の円高
2011年8月8日 米国債務問題から米国債が格下げされ(5日(金))、翌週8日(月)に世界同時株安
2015年8月24日 中国景況感の悪化から上海株が急落し、世界同時株安に。上海株が一時8%近く急落した日は、ドル/円の値幅が6円近くの荒れ相場に
2019年8月5日 米中貿易戦争激化の中、人民元安と米国の中国「為替操作国」指定で円高に。米国ダウは、一時960ドルを超える下げ。人民元は11年振りの1ドル=7元超え。為替操作国指定は25年振り
(ハッサク)
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