「老後に2,000万円」の不安解決の糸口はDC!未来の「見える化」である:DC(確定拠出年金)20年史(その4)
トウシル / 2021年9月28日 6時0分
![「老後に2,000万円」の不安解決の糸口はDC!未来の「見える化」である:DC(確定拠出年金)20年史(その4)](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushiru/toushiru_34103_0-small.jpg)
「老後に2,000万円」の不安解決の糸口はDC!未来の「見える化」である:DC(確定拠出年金)20年史(その4)
「老後に2,000万円」は企業型DC、iDeCoそれぞれに影響を与えた
2019年、マネーの世界で話題となったトピックスといえば「老後に2,000万円」でしょう。金融庁のレポートの一部を取り上げて拡大したものですが、大きな騒ぎとなりました。
レポートをちゃんと読めば、騒動のほとんどはミスリードでした。
- 公的年金は老後の基礎的な収入源として終身支えてくれるし、破たんするわけではない
- 公的年金は日常生活費を充足する力はあるが、ゆとりや娯楽費をまかなうには不足している
- 月5万円程度の不足(教養娯楽費、交際費に相当)があり、自らの資金を取り崩してやりくりしているのが年金生活者の実態である
- 人生100年時代を考えれば、引退前に2,000万円くらいを準備して老後を迎えるべく、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)などを活用したい
上記のきわめて前向きなロジックが、年金破たん論のような「すりかえ」や「あおり」になってしまったことは、とても残念なことでした。
しかし、この「老後に2,000万円」問題は、老後資産形成への国民の意識を高め、企業型DC(確定拠出年金)の再認識やiDeCoの普及にもつながり、ポジティブな影響ももたらしています。
仕事を辞めるまで無自覚な退職金、DCが変えた「時価の把握」
私たちは今まで、「老後への備え」について無自覚あるいは後回しにしてきました。たとえば、退職金制度が会社にあるのか、それはいくらくらい、もらえるのかしっかり把握している人は多くありません。
退職金支給額は企業ごとに算定ルールが異なり、また勤務状況によって同僚でも受取額には差が出ます。しかし、ほとんどの会社員はこれに無自覚なのです。
「会社を信じて、今は働け!」とハッパをかけてきた昭和の時代ならいざ知らず、平成に入ってもそのトレンドは変わっていません。
金融庁の老後に2,000万円レポートでも引用されている、フィデリティ退職投資教育研究所(現フィデリティインスティテュート)の調査では、退職前1年(仮に60歳定年なら59歳)よりも早く、自分の退職金額を把握していた会社員は2割にも満たないのです。
一方、社員が興味を持っても、自分の退職金の権利を時価で把握する方法がなければ、意味がありません。これに大きな変化をもたらしたのは、確定拠出年金制度でした。
投資信託などの時価評価が可能であることを生かし、またインターネットサービスの普及を受けて、「ウェブで、昨日付けの時価残高が誰にでも閲覧可能」という画期的な退職金給付制度となりました。
何せ最新の基準価額にもとづいて、1円単位で自分の退職金の権利が分かるわけですから、これは大きな革新だったのです。
現在では多くの企業が「ポイント制退職金の可視化(定期的に通知を行う)」「キャッシュバランスプランを採用した確定給付企業年金の仮想資産額の通知(おおまかな受給権を定期的に示す)」などを取り組むようになっています。
この20年は「退職金・企業年金の見える化」の20年でもあったわけです。
老後への早めの備えを実行に。iDeCoの加入が加速
もうひとつ、iDeCoのほうはどうでしょうか。
iDeCoについては「個人型確定拠出年金と呼ぶしかなかった時代(Before "iDeCo")」と「iDeCoと呼ばれ対象者が拡大した時代(After "iDeCo")」の分岐点で加入者が急増したのはご存じのとおりです。
この急増ペースは今も維持されており、加入者数が増え続けているのがiDeCoの加入トレンドとなっています。2021年5月には加入者数200万人を突破したことがニュースとなりましたが、ここ数年は年35万人ほどのペースで安定的に増え続けています。今年度に入ってからはさらにペースアップしている傾向もみられています。
運営管理機関連絡協議会の統計資料をチェックしてみると、特に若年層の加入数が高まっています。
2016年3月末と2020年3月末の加入者数を世代別にみたところ、20歳代の加入者数は12.6倍にもなっています。50歳代の加入者数は4.97倍となっているのと比べ、若い世代の関心の高まりが表れています(実数では50歳代が3分の1を占めており、20歳代は5.7%なので、まだまだ伸びしろはあります)。
若い世代の加入意欲の高まりに、「老後に2,000万円」のニュースと「目の前の株価上昇トレンド」が影響を与えたことは間違いありません。
老後のための資産形成の「実行」は難問であり、行動ファイナンスの研究者も合理的に判断・行動するのは難しいとしていたテーマでした。何せ、今の1万円の消費をガマンし、数十年後の自分に仕送りするのは苦しい決断であり、回避したいと考えるものだからです。
それを「老後に2,000万円」というニュースが突き破ったのだとすれば、私は20年後の国民の老後は、ずいぶん明るいものとなるのではないかなと期待しています。
「老後に1,000万円」をまずはDCが支える時代へ
退職金・企業年金制度は、日本人の老後を支えるもっとも大きな資産形成枠です。また、iDeCoのような自助努力制度もまた、老後を支える役割を担っています。
先ほどの運営管理機関連絡協議会の統計資料によれば、企業型DCの平均残高が182万円となっています。
一人あたりの平均残高が10万ドルをはるかに超えている米国の401(k)プランには及びませんが、世代別でみれば、60歳代の資産額は400万円台に達しており、「老後に2,000万円」を支える一翼となっていることは読み取れます。
iDeCoについても平均残高は98万円と小さいものの、60歳代の資産額平均は340万円に達しており、それなりの資産規模になっています。
そもそもiDeCoはゼロ円からの積み上がりが原則で、「iDeCo後」に加入した加入者はまだ数年の積立期間しかないことを考えれば、10年後には相当大きな規模に育っていくことが期待されるところです。
次の10年後を迎えるころには、「老後に2,000万円」の半分、「老後に1,000万円」をDCが支えていく時代が到来するのではないでしょうか。
確定拠出年金法第1条では、「国民の高齢期における所得の確保に係る自主的な努力を支援し、もって公的年金の給付と相まって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする」と制度の目的をうたっています。
2001年にスタートした確定拠出年金制度は20年を迎え、確実に国民の資産形成の基盤として普及しているといえるでしょう。
≫DC(確定拠出年金)20年史(その1)を読む
≫DC(確定拠出年金)20年史(その2)を読む
≫DC(確定拠出年金)20年史(その3)を読む
(山崎 俊輔)
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