「もう仕事はしない!」米雇用が増えない理由は、「FIRE」ブームだった?9月米雇用統計 詳細レポート
トウシル / 2021年10月6日 15時3分
「もう仕事はしない!」米雇用が増えない理由は、「FIRE」ブームだった?9月米雇用統計 詳細レポート
過去3カ月の推移と今回の予想値
9月雇用統計の予想
BLS(米労働省労働統計局)が10月8日に発表する雇用統計は、市場予想によると、失業率は5.1%に低下。NFP(非農業部門雇用者数)は50.0万人増加。平均労働賃金は前月比0.4%増、前年比4.6%増の予想となっています。
ワクチンの普及や経済再開とともに娯楽や飲食業に従業員が次々と戻った結果、非農業部門雇用者数は、2020年5月から2021年8月までの16カ月間で約1,700万人増加しました。
新型コロナ以前の完全雇用状態にはまだ約500万人少ない状況ですが、雇用者増は月平均で56万人増加しているので、今後もこのペースで増えていくならば、来年の5月には新型コロナで失われた雇用が全て元通りになる計算です。FRB(米連邦準備制度理事会)が緩和縮小を終了させる時期とちょうど一致しています。
8月雇用統計のレビュー
前回8月の雇用統計は、NFPは75.0万人増加の予想に対して23.5万人増にとどまり、マーケットを大きく失望させました。
サービス業、運輸・倉庫業、製造業の雇用が堅調だった一方で、コロナ後の経済再開の雇用増のけん引役として期待されていた小売業は早くも鈍化。米国で広がったデルタ変異株が影響したと思われます。7月分が105.3万人に上方修正になりましたが、焼け石に水でした。
平均労働賃金は、前月比0.6%増、前年比4.3%増。経済再開に伴う労働需要の増加が賃金の上昇圧力となっている可能性が指摘されています。
ただし、平均時給は業種によって大きく異なり、また2020年2月以降の雇用の変動が大きいため、平均時給の動向の精確な予測はまだ難しい状況。
失業率は下がる、されど雇用は増えず
8月の雇用統計で雇用者数が伸びなかった理由は、需要よりも供給サイドに問題があるからだといわれています。6月の求人件数は過去最高の1,000万件台で、すでに全米の失業者の総数を上回りました。仕事は有り余っています。ところが応募者がいません。
理由は「良すぎる失業給付金」。働かない方が収入は多いのだから勤労意欲が湧かないのは当然といえば当然。そこで米国の地方政府が失業給付金の上乗せを廃止したところ、求人サイトの閲覧数が途端に5%もアップしました。臨時収入を使い果たしたアメリカ人が労働市場に仕事に戻ってくるはず、でした。
ところが8月の雇用者は100万人に増えるどころか、20万人台に減ってしまいました。待遇の問題もあります。米国の雇用市場は完全な売り手市場で、提示された給料に対して求職者の半数が不満だと答えています。しかし、それよりも、もっと構造的な問題があります。
雇用統計を見ると、雇用者が伸びない一方で、失業率は低下しています。失業率とは、労働力人口に占める失業者の割合。分母の労働力人口の縮小によって失業率が下がっているならば、国としての元気がなくなっているということになり、良いことではありません。
もう、仕事はしない
小さな子供のいる家庭では、親が働きに出かけている日中はおじいちゃん、おばあちゃんが面倒を見ることが多いため、55歳以上の年齢層の人材が労働市場に戻れずにいます。55歳以上の労働参加率は、下落全体の3割を占めています。
しかし、この年齢層の人たちの多くは、学校が始まっても再就職はしないと決めているのです。
金融危機後(リーマンショック)が起きたとき、当時40台後半から50台前半だった人たちは、老後の貯蓄がなくなってしまい働き続けるしかありませんでした。米国の退職率はその後もずっと減少してきたのですが、2020年になってこのトレンドが逆転。
なぜかというと、株価がコロナ禍の中で過去最高値をつけるまで上昇したことで、引退後の蓄えができたからです。コロナ後に仕事に戻るよりもリタイアを選んだこの世代の「FIRE」ブームが、失業率が下がるなかで雇用が伸びない理由といわれています。
FRBがいくら緩和政策で経済を刺激したところで、これらの人々が仕事に復帰することはありません。これは米国に限らず先進国に共通する構造的な問題です。
FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとった流行語で、「経済的自立を果たし、早期引退する」という意味。
50代後半で引退することが果たして早期といえるのかわかりませんが、世界的な株高が続くなら、もっと若い世代からもFIREする人が増えてくるでしょう。経済を助けるはずの中央銀行の緩和政策が労働力を減らし景気拡大の邪魔をしているとすれば皮肉なことです。
(荒地 潤)
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