もらえる年金を増やしたい!繰り下げ受給への新アプローチ「WPP理論」とは?
トウシル / 2021年12月14日 6時0分
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もらえる年金を増やしたい!繰り下げ受給への新アプローチ「WPP理論」とは?
老後に向けて「確実な運用」は公的年金を増やすこと
皆さんが資産形成に取り組む大きな理由の一つとして、「老後の安心づくり」があると思います。未来にわたって経済的安定を得たいというのは、資産運用に取り組む多くの人の望みです。
一方で、公的年金制度については不安と不信が多いと思いますが、実はこの制度も老後に向けた生活の鍵となります。金融庁の試算によって「老後資金に2,000万円」が必要と話題になりましたが、それは公的年金を一般的な水準でもらう前提の話です。
公的年金には、終身給付、つまり生きている限り一生涯もらえるというメリットがあります。人生が80歳までなのか100歳までなのかによって、65歳時点で必要な資金準備は倍以上違ってきますが、公的年金はどちらに対しても柔軟に対応してくれます。特に長生きリスクに対しては年金の強みが生かせます。
目下のところはあまりにも低インフレなので物価対応力を実感することはありませんが、物価上昇率より給付の増加率を低く抑える「マクロ経済スライド」の調整が終了したあと、高いインフレが続く時期には公的年金の増額改定による恩恵も受けることになるでしょう。
さて、公的年金の額を増やして、老後の基礎的な収入を増やすのも皆さんが考えるべき「老後に向けた資産運用」ということになります。
重要なことは「厚生年金に加入すること」であり、次に重要なのは「高い保険料を納めること」です。そしてできる限り「長期にわたって加入すること」により年金額の増額を得ることができます。
一見すると高い保険料ばかり取られるように思えますが、高い保険料の納付実績は、高い年金額獲得の条件なのです。
といっても、しっかり仕事をしてたくさん稼げば、保険料も自動的に上がるので目の前の稼ぎをしっかり獲得することが年金アップの近道でもあります。
※厚生年金保険料を計算する基準となる「標準報酬月額」は、給与に応じて決まり、上限は月65万、ボーナス150万円。
65歳より遅くもらうことで、最後の最後に年金額を増やせる
この公的年金は繰り下げ年金といい、遅くもらい始めると増額される仕組みです。66歳まで1年遅らせると、65歳で本来もらえた年金水準から8.4%アップした金額を一生涯もらえます。1年を無年金で過ごした代わりに得た増額分は12年ほどで元が取れ、それ以上長生きすればお得という概算です。
繰り下げた期間に比例して年金額は増額され、70歳で42%アップ、75歳で84%アップまで増えます(現行では70歳まで。2022年4月に75歳までの繰り下げ制度がスタート)。
どの段階で受け始めても「無年金であった期間の年金額相当」と「平均余命に照らした増額相当分」がおおむね等しくなるので、長生きするほど有利です。
医療技術の進展を考えれば、日本人の寿命は上振れする可能性が高く(例えばガンが2040年に克服されたとしたら?)、自分の「長生きの可能性に賭けてみる」ことには合理的な分があります。
とはいえ、不確実な未来に年金をお預けすることの心理的不安は大きく、実際には標準的な年齢でもらう人が多いのが現状です。
そこで、投資経験者に一つの考え方を提案します。株式市場のリスクと日々向き合っている個人投資家であれば、長生きのリスクをしっかり見極めて、繰り下げを検討することができるのではないでしょうか。
WPP入門:投資経験者なら「資金を取り崩してでも繰り下げ受給」にチャレンジしてみよう
いま、年金業界で注目されているアプローチに「WPP理論」があります。Work Longer(長く働く)、Private Pensions(私的年金や個人資産の活用)、Public Pensions(公的年金)の頭文字を並べたものですが、これらを野球の継投策のように並べることで、公的年金の受け取り開始を遅らせてみようというものです。
もっともシンプルなWPPモデルは、「70歳まで働く」というケースです。生活に困らない程度の収入を得ながら70歳リタイア以降は42%増の年金をもらえば、生活に困ることはありません。楽々と増額を勝ち得ます。
「働きながら、かつ私的な年金を取り崩して受ける」という方法もあります。65歳以降働けるものの年収がガクンと下がってしまう場合は、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)や個人年金などの給付を加えることで生活に困らないような収入を確保し、可能な限り公的年金の繰り下げを目指します。
今までは「給与(下がった)」+「公的年金(在職老齢年金で減額されることもあり)」という当たり前のような発想があったのですが、あえて公的年金を遅らせるために、私的年金や手元の資金を活用してしまうというわけです。
究極的には「無職でもあえて取り崩し生活」→「増額された公的年金」という方法もありえます。
年金繰り下げを「資産運用」として考える
これからの世代は、60歳代前半の部分的な年金支給がないので、「基本的に65歳から」という発想で年金と向き合っています。会社が65歳まで働けることもそのイメージを強くしています。
一方で、70歳まで働くことについては選択的ながら多くの会社で導入が進み始めています。厚生労働省の統計では3社に1社というところまで広がっているそうです。
ある程度資産管理や運用のリスク管理をできる知識があれば、
- 65歳以降の雇用条件
- 65歳時点での手元資産額
- 65歳からもらえる私的年金額…企業年金、企業型DC(確定拠出年金)、iDeCo、個人年金
を勘案しつつ、繰り下げを検討してみてはどうでしょうか。
これはかなり冒険ですが「手元の財産をほとんど取り崩してでも、あえて75歳受給開始(84%増)」という選択もあっていいと思います。
むしろ75歳以降は、とにかく「国からたくさん年金をもらってそれを使って生きていく」というアプローチの方が心理的負担は軽く、楽しく毎日を過ごせるかもしれません。
75歳はともかくとしても、67~68歳くらいまでの繰り下げを行うことで、マクロ経済スライドの調整影響を取り戻すことにもなります。
年金繰り下げの話は資産運用と無関係のようですが、あえて「資産運用」と考えてみると新しい発見がありそうです。
(山崎 俊輔)
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