動けない日経平均、次は上?下?:ウクライナ、FRB、恒大、オミクロンへの不安続く
トウシル / 2021年12月27日 7時54分
動けない日経平均、次は上?下?:ウクライナ、FRB、恒大、オミクロンへの不安続く
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「ウクライナ・FRB・恒大・オミクロンへの不安続く 嵐の前の静けさ?日経平均膠着」
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上下とも大きくは動けなかった2021年の日経平均
先週(12月20~24日)の日経平均株価は1週間で236円上昇して2万8,782円となりました。強弱材料が拮抗し、上下とも大きくは動きにくい展開が続いています。
今年の10月まで順調に最高値更新を続けてきたNYダウ(ダウ工業株30種平均)も、オミクロン・パウエル・ショックで下がった11月以降は、上値の重い展開となっています。
【注】オミクロン・パウエル・ショック
南アで検出された新型コロナウイルス変異型オミクロンの感染力が強いこと、既に世界に感染が広がっていることがわかったことを受け、再び経済に重大な悪影響が及ぶ懸念が広がり、11月末にかけて世界的に株が下落しました。それがオミクロン・ショックです。ただし、12月以降、オミクロンの不安は低下しています。感染しても無症状か軽症が多いことがわかり、世界経済への影響は限定的との見方も出ています。
11月にもう1つ、不安が広がりました。パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)がタカ派に転じる不安です。米国のインフレ高進が続いていることに対し、「インフレは一時的」と言い続けてきたパウエル議長が「一時的ではない」と発言を撤回し、テーパリング(量的金融緩和縮小)を決定したことから、「金融相場が終わる」不安が広がりました。実際、パウエルFRBは12月にはテーパリングを加速して来年3月までに完了することを決め、さらに来年利上げ3回との予測(FOMC:米連邦公開市場委員会メンバーの予測中央値)を発表し、タカ派色をはっきり出しています。
日米とも、景気・企業業績は好調ですが、オミクロン・パウエル不安に加え、中国恒大のデフォルト処理、ロシアのウクライナ侵攻リスクへの警戒もあり、12月は上値が重くなっています。
NYダウと日経平均の推移:2020年末~2021年12月24日
日経平均は2021年1年間を通じて、上下とも大きく動きにくい展開でした。強弱材料が拮抗していたためです。ただ、経験則では、ボックス相場が1年間も続いた後は、ボックスを上または下へ抜け、大きく荒れる展開が待っていることがあります。来年初には、何らかの動きが出てくることを想定していた方が良いと思います。
強弱材料レビュー
日経平均が膠着しているのは、強弱材料が拮抗しているからです。その内容をレビューします。
強材料
【1】企業業績好調
企業業績予想の上方修正が続いています。東証一部3月期決算主要841社の今期(2022年3月期)純利益は、期初会社予想では19.1%の増益でした。その後、利益予想の上方修正が増えた結果、12月21日時点で、36.3%増益予想となっています。
【2】株価指標で割安との見方も
東証一部の予想PER (株価収益率)は15倍まで低下し、割安感が出ていると考えています。
弱材料
【1】米FRBタカ派色強める
テーパリングを加速、来年利上げを3回実施する予測を出していることに不安が広がっています。11月の米インフレ率が6.8%まで上昇したことが背景にあります。
ただし、市場では米インフレ率は来年には沈静化するとの見方があります。資源価格は既に下落しており、また、米国のモノ不足の原因となっている物流停滞も、来年には解消するとの見方があります。
こうした見方を背景に、米長期金利は足元1.5%と落ち着いた動きとなっています。今年3月には一時1.7%を超えて米景気過熱リスクが意識されましたが、その時と比べると、米景気過熱リスクは低下したと考えられています。
【2】ウクライナ情勢をめぐる地政学リスク
ウクライナ国境付近にロシア軍が集結、来年にもウクライナに侵攻する可能性があることが、株式市場の不安材料となっています。
ウクライナはもともと旧ソビエト連邦の重要な一部でしたが、ソ連邦崩壊後の1991年に独立しました。独立後も、ロシアの影響力の強い国として留まってきましたが、近年になってロシアの影響力を排除し、EU(欧州連合)に接近する動きを続けています。そうした中、ウクライナ東部で、ロシア系住民(親ロ派勢力)と親EU派との間で紛争が続いています。
2014年には、ウクライナがEU勢力に取り込まれることに焦りを感じたロシアが、ロシア系住民の多いクリミアに軍事介入しました。そして今、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構:欧州および北米30カ国による政府間軍事同盟)への加盟を検討し始めたことを受けて、「ウクライナのNATO加盟を阻止する」目的で、ウクライナへの侵攻を辞さない姿勢を見せています。
台湾海峡およびウクライナの地政学リスクが、株式市場にとって不安材料となっています。バイデン政権の対応力が試されています。
【3】中国リスク
実質デフォルト状態にある不動産大手、恒大集団のデフォルト処理がどうなるか、不安が高まっています。中国政府は、中国国内にショックが起こらないようなソフトランディングを模索していますが、中国のやり方に海外投資家は反発を強めており、すんなり決着しそうにありません。
恒大の処理を誤ると、中国の不動産市場全体のさらなる下落、他の不動産大手への信用不安の波及のリスクがあります。中国政府が中国のハイテク成長企業への締め付けを強化している問題も含め、中国景気の悪化リスクが意識されるようになっています。
【4】オミクロンのリスク
変異株オミクロンの感染拡大で、世界経済がもう一度、ダメージを受けるとの見方もあります。ただし、今のところ、オミクロンは感染しても無症状か軽症が多いので、世界経済に与える影響は限定的との見方が優勢となりつつあります。
割安な高配当利回り株「買い場」の見方は変わらず
さまざまな不安材料がありますが、それでもメインシナリオでは、来年も世界景気の巡航速度での拡大を予想しています。したがって、割安な高配当利回りは引き続き「買い場」と判断しています。
ただし、来年は、不安が顕在化する時に株式市場が短期的に急落するリスクは高まっています。短期的な急落・急騰リスクに注意しつつ、時間分散しながら割安な高配当利回り株を買っていくことが、長期的な資産形成に寄与すると考えています。
ファンダメンタルズ分析だけでは限界、テクニカル分析も重要
景気・企業業績の予想に基づいて売買するだけでは、大きな落とし穴にはまることがあります。誰も経験したことがない変化が起こってマーケットが大きく動く時、その理由を考える前に、まずチャートを見て動かないと間に合わないことがあるからです。
私はファンドマネジャー時代、テクニカル分析を非常に重視していました。毎週、週末に東証一部上場全銘柄の週足をチェックして、チャートに何か強いシグナルが出ていないか見ていました。私がファンドマネジャーとして長く好成績をあげられたのは、ファンダメンタルズ分析に頼り切らず、テクニカルを重視してきたからと思っています。チャートを見ることをけっして軽視すべきでないと思います。
テクニカル分析について、著書を出版しました。12月14日、ダイヤモンド社から発売された以下の書籍です。
「2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ」
私が25年の日本株ファンドマネジャー時代に得たテクニカル分析のノウハウを初心者にもわかりやすく解説しています。クイズ60問を解いて、トレーニングする形式です。株価チャートの見方がわからなくて困っている個人投資家にぜひお読みいただきたい内容です。
▼著者おすすめのバックナンバー
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(窪田 真之)
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