2022年の原油相場を予想する
トウシル / 2021年12月28日 5時0分
2022年の原油相場を予想する
株と原油は「一蓮托生」の関係
前々回は「プラチナ」、前回は「金と銀」。2022年の価格見通しシリーズの3回目は「原油」です。2022年の原油相場を予想するにあたり、まずは、2020年と2021年の株価と原油相場の推移を確認します。
図:NY原油先物とNYダウの価格推移 単位:ドル/バレル
米国の主要株価指数の一つであるNYダウと、世界の原油価格の指標の一つであるNY原油(WTI原油)先物の価格推移は、この2年間、「一蓮托生(いちれんたくしょう)」の関係だったと言えるでしょう。
株価が上昇すれば、景気回復期待が高まり、目先のエネルギー需要が増加する観測が浮上する。逆に、株価が下落すれば、景気回復期待が低下し、目先のエネルギー需要が減少する観測が浮上する。大局的にはこの2年間、このような事象が続いていたと言えそうです。
2021年秋ごろ、原油高が「インフレ懸念」を強め、株価を下落させている、と指摘される場面がありましたが、その後も、株高・原油高、株安・原油安、という状況が続いていることを考えれば、株と原油の主従関係は、あくまでも株が主で、原油が従だと言えます。
2022年は「コロナ・脱炭素」の「3年目」
では、株と原油が「一蓮托生」の関係にあった2020年と2021年は、長期的視点で見た場合、どのような年だったのでしょうか。以下は、2020年を中心に、その前後30年に起きた(起き得る)、主な社会的変化を示しています。
図:2020年の前後30年間の、社会情勢の変化(見通し込み)
1990年ごろから現在にかけて、人口、消費、格差、金融、情報技術、気象、米国情勢などの分野において、大きな変化が生じました。そして、変化が進行している最中の2020年に、新型コロナがパンデミック化したり、「脱炭素」が本格化したりしました。
このように、「コロナ&脱炭素」が本格化し、社会情勢の変化が「さらに」激しくなった2020年は、ある意味、「元年」であり、2022年はその3年目と言えるでしょう。では、こうした大局的な変化のゴールはいつなのでしょうか。
パリ協定で約束した、各国の温室効果ガスの削減目標の期限が2030年から2050年くらいで、国連で策定された持続可能な開発目標「SDGs」の期限が2030年であることを考えれば、「脱炭素」の点で言えば、大局的な変化のゴールは2050年くらいと言えるでしょう。
このように考えれば、2022年は3年目であり、まだ序盤と言えます。このため、2022年は急激な変化が生じるよりも、その前年である2021年を踏襲する可能性の方が、高いと考えられます。
このため、下記のような2021年に発生した事象が、2022年も引き続き、発生する可能性があると、筆者はみています。
図:長期視点をもとに得られた、2022年も起き得る事象( ≒ 2021年)
「コロナ」の特効薬が開発されて一般市民にも処方されるようになったり、「脱炭素」の動きが大気中の温室効果ガスの量を減少させ、かつ経済成長が同時進行できるようになったりして、両事象(コロナと脱炭素)が「安定期」に入るまでには、まだ相当の年月がかかると、考えられます。
黎明期・過渡期の「脱炭素」は原油相場を押し上げる
「脱炭素」がまだ、黎明期・過渡期だとすると、どのようなことが起きるでしょうか。以下は、2021年に見られた、黎明期・過渡期の「脱炭素」が与えた、社会への影響です。
図:黎明期・過渡期の「脱炭素」が社会に与える影響
黎明期・過渡期の「脱炭素」は、エネルギー、農産物、金属などの価格を押し上げ、電力価格高やコストプッシュ型のインフレを引き起こしたほか、覇権争いを激化させたり、生き残れない企業を増加させる不安を拡大させたりしました。
実際に、以下のとおり、年平均ベースでさまざまな分野の銘柄の価格が上昇しました。
図:年平均ベースの騰落率(2020年vs2021年 2021年は12月24日まで)
2022年に起き得る事象が、2021年を踏襲するのであれば、そうした事象からの圧力に影響を受ける価格動向もまた、2021年を踏襲し、2022年も、全体的な年平均ベースの上昇が発生する可能性があります。
多くの時間帯で、上昇圧力は下落圧力に勝る
「コロナ・脱炭素」3年目の2022年も、2021年と同様、全体的な年平均ベースの上昇が発生する可能性があると述べました。原油も例に漏れず、年平均ベースで上昇すると考えます。
「脱炭素」起因の上昇要因を含んだ、2022年に発生することが想定される、原油固有の上昇・下落要因は、以下のとおりです。
図:2022年の原油市場の環境(筆者予想)
株価の下落と上昇が、原油相場の下落要因と上昇要因になり得る点については、冒頭で述べました。また、週次で公表される石油在庫や、月次で公表・修正される需要見通しなども、下落と上昇、両方の要因になり得ます。ここに、「脱炭素」起因の上昇要因が加わるわけです。
このような構図が、2022年の原油相場の年平均ベースの上昇を支えると、筆者は考えています。
2022年の原油相場は大きなレンジで推移
「年平均ベース」で価格上昇、という条件を起点に、以下の要領で、2022年の原油相場の年間高値と年間安値を推定します。
図:2022年の予想レンジの立て方
上記の要領で推定した、原油相場の年間高値と年間安値は、以下のとおりです。
図:2022年のNY原油先物価格 年間高値・年間安値予想 単位:ドル/バレル
高値が約120ドル(100ドル超もあり得る)、安値が約56ドルでした。非常に幅広いレンジの中で、2022年の原油相場が推移すると、考えます。
米・ロ・サウジの供給制約は価格上昇をサポート
2022年の石油の需給動向に関わるデータを確認します。以下は、世界の石油消費量です。新型コロナがパンデミック化した2020年春に、世界中でロックダウンが発生したことなどを受け、急減しました。
しかし、その後は順調に回復しています。EIA(米エネルギー情報局)は、2022年の年末に、パンデミック化前の水準を上回るとの見通しを示しています。つまり、今のところ、世界全体の石油の需要は、増加し続けると考えられているわけです。
図:世界の石油消費量 単位:百万バレル/日量
「脱炭素」が世界的なブームとなっていても、石油の需要が増加している(今後も増加するとみられている)のは、先述のとおり、「脱炭素」が黎明期・過渡期にあるからだと、考えられます。将来的に安定期に入れば、石油の消費は減少する方向に向かうと考えられます(少なくともそのタイミングは2022年ではない、と考えられます)。
消費が増加するのであれば、価格動向を左右する主な要因になり得るのは、生産側と言えそうです。2021年11月時点で、世界の原油生産量の1位は米国(14.4%)、2位はロシア(13.5%)、3位はサウジアラビア(13.4%)です(カッコ内は生産シェア。ブルームバーグのデータより)。
主要3カ国で世界の40%超を生産しているわけですが、米国と、OPECプラス※に属しているサウジとロシアとでは事情が異なるものの、どちらも、供給に制約がかかる要因を抱えています。※OPEC(石油輸出国機構)加盟国13カ国と、ロシアなど非加盟国10カ国、合計23カ国で構成。2021年11月時点。
米国では、現政権が「脱炭素」を主導的に進めるべきだと自覚していたり、モノ言う株主が石油会社(メジャー・中小問わず)に対して環境配慮を要求したりしているため、石油開発(特に新規案件)が鈍化しています。こうした点は、世界No1産油国の足かせと言えます。
図:米シェール主要地区および米国全体の原油生産量 単位:万バレル/日量
サウジとロシアが属するOPECプラスの原油生産動向は、以下のとおり、米国や日本などが要求しても応じないほど、かたくなに、過剰な増産をしない姿勢を維持しています。過剰な増産は原油価格を下落させる要因になり得るため、OPECプラスは計画的に少しずつ、増産を実施しています。
図:OPECプラスの原油生産量と生産上限のイメージ 単位:万バレル/日量
世界の石油消費量は2022年末まで、増加し続ける可能性がある一方、米国も、サウジとロシアが属するOPECプラスも、供給に制約がかかる要因を抱えています。
これらの要因は、石油開発鈍化(米国)、産油国の態度硬化(OPECプラス)という点で、「脱炭素」起因であるため、「脱炭素」が2022年も継続する以上、これらの国における供給制約も継続すると、考えられます。
2022年は2021年と同様、新型コロナの変異株や、米国の金融政策、中国の政治・経済などの動向が、絶えず、株価を不安定化させる可能性があるものの、黎明期・過渡期の「脱炭素」起因の上昇圧力が、不安材料起因の下落圧力を多くの時間帯で相殺し、原油相場を年平均ベースで、堅調推移させる可能性があると、筆者は考えています。
2022年も、原油相場の動向から、目が離せません。
[参考]原油関連の具体的な投資商品
国内ETF/ETN
WTI原油上場投資信託 (東証)1690
NF原油インデックス連動型上場(東証)1699
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ブル2038
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ベア2039
投資信託
外国株
エクソンモービル(XOM)
シェブロン(CVX)
トタル(TOT)
コノコフィリップス(COP)
BP(BP)
(吉田 哲)
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