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北京ロックダウン秒読みか。中国経済さらに悪化の恐れ

トウシル / 2022年4月28日 6時0分

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北京ロックダウン秒読みか。中国経済さらに悪化の恐れ

 中国経済をめぐる不安要素の連鎖が止まりません。ウクライナ危機や上海市などにおけるロックダウン(都市封鎖)の影響は、供給網や物価、雇用、投資、消費などあらゆる分野に波及。足元では、人民元安や株式市場の混乱も生じています。中国政府もこの難局を乗り切るためにさまざまな施策を打ち出してはいますが、先行きは不透明なままです。

GDP成長率「5.5%前後」の目標設定は高すぎたのか?

 先週のレポートで扱ったように、2022年1-3月のGDP(国内総生産)成長率は物価の変動を除いた実質で前年同期比4.8%増でした。過去1カ月、私が中国の経済官僚や政府に提言をする立場にある経済学者らと行ってきた政策議論を総括すると、次の3点に要約できます。

(1)2022年度の成長率目標「5.5%前後」の達成は相当難しい
(2)今年の成長率は「前低後高」(前半低く、後半高い)という曲線を描く可能性が高い
(3)4~6月の成長率にも下振れ圧力がかかり、4期連続で5.0%に満たない可能性あり

 また、4月中旬、私が信頼する中国国有銀行の幹部が興味深い指摘をしてきました。

「従来、中国の国有企業の経営者や政府系シンクタンクの経済学者、大学教授らは、中央政府が発表するGDP成長率よりも高めの成長率を予測し、結果的にそうなってきた」

 例えば、政府は2021年のGDP目標を6.0%以上と設定し、結果は8.1%でした。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大直後ということで、成長率の目標設定はされませんでした。2019年は、6.0~6.5%と設定し結果は6.1%。2018年は6.5%前後と設定し結果は6.6%。2017年は6.5%前後と設定し、結果は6.8%。

 2018、2019年は「ギリギリ」の目標達成となりましたが、それでも政府自身が設定した目標は達成されています(ここで中国国家統計局が発表する統計の信ぴょう性は議論しません)。

 要するに、中央政府は往々にして「必ず達成可能な」保守的な目標を設定する、一方、企業家や経済学者は「そんな目標の達成は容易で、もっと高い目標を設定したほうが、市場の期待値向上につながり、経済成長をけん引できるのではないか」という視点から、中央政府の目標設定を眺めてきた、ということです。

 同幹部は続けます。

「ただ今回だけは状況が異なる。中央政府は2022年の目標を5.5%前後と設定したが、私を含め、多くの市場関係者や専門家は、その設定を高すぎると感じている。私自身も、5.0%以上程度に設定するのが現実的だと考えている。ウクライナ問題、新型コロナなど、多くの不確定要素やリスクを中央政府は制御できないどころか、予測すらできていないのだから」

 以前もレポートで言及したように、私も今年の成長率目標は「5.0~5.5%」程度に設定されると予測していましたから、この幹部の感覚に共感します。秋に党大会が行われ、習近平(シー・ジンピン)総書記にとっては「3選」がかかる重要な政治的局面であるだけに、経済成長がますます重要になり、ゆえに前のめりの目標設定となった点は否めないでしょう。

人民元安と株価下落に反映される景気の下振れリスク

 消費や雇用、物価、不動産投資などに陰りがみられる現状については、先週、先々週のレポートで検証してきたとおりです。ここにきて、人民元安と株式市場の混乱が一段と加速しており、市場関係者だけでなく中央政府もその対応に追われているように見受けられます。

 4月25日、上海総合指数は前日から5.13%安の2,928.51ポイントとなり、2020年6月以来、約1年10カ月ぶりの3,000割れとなりました。また、26日、中国人民銀行(中央銀行)は人民元基準値を対米ドルで6.5590元と発表、約1年ぶりの元安水準となりました。

 26日、中国人民銀行は、同行が発行する『金融時報』の取材に応えるという形で、株式市場の混乱を「主に投資家の期待値と自信の低下の影響」と説明した上で、足元の苦境を乗り越えるべく、次のような施策を発表しています。

・円滑な物流や供給網の安定を支持し、新型コロナが経済社会の発展に及ぼす影響を最小限に抑える

・大手プラットフォーム企業の再編作業を穏当に進め、一刻も早く終了させ、プラットフォーム経済の健全な発展を促す

・中央銀行として穏健な金融政策をとることで、実体経済への支持を強化する。特に、新型コロナの影響を深刻に受けている業界や中小企業、個人事業主を支持する。農業生産やエネルギー供給拡大を支持する。石炭の開発や消費、貯蓄増強に向けて、1,000億元(約2兆円)の追加借款で支持する

・流動性を合理的に担保し、金融市場の健全で平穏な発展を促す

 25日には、外貨の預金準備率を9%から8%に下げる(5月15日実施)と発表。金融機関が人民元を売って外貨を買う動きを弱めることで、資本流出に歯止めをかけ、元安に対応する姿勢を打ち出した形となりましたが、効果や先行きは依然として不透明と言えます。

 実際、今年1月、『金融時報』は人民元が2年連続の上昇を経て、今年は元安圧力に直面しているとの見解を示し、利回りに関する優位性の低下、ドル高、貿易黒字の縮小、世界市場の不確実性といった一連の要因が人民元に下落圧力をもたらす可能性があると指摘しています。

 従って、同行にとって足元の通貨安は決して「想定外」の事態ではないのでしょう。私自身、昨年末あたりから、米FRB(連邦準備制度理事会)による利上げは中国からの資金流出を促し、次第に人民元安に見舞われるという声を中国の金融当局や経済官僚から聞いていました。

 4月22日、国家外貨管理局副局長兼報道官の王春英(ワン・チュンイン)氏が記者会見を開き、足元の人民安について次のような立場を表明しています。

「歴史的に見ると、米FRBによる金融政策の調整、特に利上げは各国における資本流動に影響を与えるのが通常であるが、受けるショックが比較的大きいのは経済のファンダメンタルズが弱い国である。この点、中国の外貨市場における強靭(きょうじん)性は不断に増強しており、今回の利上げに適応できるだけの基礎と条件を備えている」

「人民元の為替レートに関してだが、引き続き元高、元安の双方向で、かつ合理的な均衡水準で安定的に波動すると見ている…中国の国際収支構造は安定していて、経常収支も合理的な規模で黒字を維持している。人民元資産には長期的に見て投資価値がある。これらの要素は人民元為替レートの基本的安定を支えている」

 実際に、2021年12月、中国人民銀行は元高対応で外貨の預金準備率を引き上げています。世界の主要国に先駆けてコロナ禍から経済回復し、2020年もプラス成長を遂げた中国に投資マネーが流入し、元高を促してきた経緯を受けての対応でした。約15カ月を経て、足元では当時と全く逆の状況が発生している、ゆえに、逆の措置で対応を試みるということなのでしょう。

 王副局長が指摘するように、中国人民銀行は引き続き、一定の範囲内における自国通貨の波動を容認しつつ、元高、元安それぞれの局面で対応策を施していくというスタンスなのでしょう。

北京のロックダウンは「秒読み」か?

 中国人民銀行を含めた金融当局は、足元の人民元安や株式市場の混乱に対しては「想定内」という観点から、現実的に対処が可能という立場を崩していないように見受けられます。

 一方、ウクライナ危機は硬直化し、ロックダウンに関しては、経済の首都・上海だけでなく、政治の首都・北京でも感染が拡大し、ロックダウンまで「秒読み」とさえ言われています。

 党大会まではまだ約半年の時間が残されていますが、中国共産党指導部としては、上海の二の舞をほうふつとさせるような、感染拡大が首都北京を襲う事態を何としても避けたいでしょうし、避けようとするでしょう。

 4月26日、上海における新規感染者1万3,562人に比べ、北京では34人と限られてはいますが、感染者が三桁、四桁になれば、ロックダウンは必至でしょう。私が本稿を執筆している4月27日午前(日本時間)現在、北京では上海で行われてきたように、市民への大規模なPCR検査が始められており、それに伴い、市民はロックダウンに備えて地元のスーパーマーケットなどで「爆買い」を始めています。

 北京がロックダウンとなれば、供給網や個人消費への影響は言うまでもなく、人民元安や株価下落に如実に反映されているように、中国経済全体への期待値がさらに低下し、景気の下振れ圧力はさらに増大するという悪循環を促さずにはいられないでしょう。

 中国は5月1日に3大祝日の一つ労働節(他は春節と国慶節)を迎え、4月30日から5月4日まで5連休となります。 例年であれば、故宮や天安門広場、万里の長城などは観光客でいっぱいになりますが、現状、北京市当局はロックダウンを検討している以外に、外地からの流入を制限しようとするでしょう。連休に期待される消費増加にも不安要素が立ち込めているのです。上海でも同様でしょう。

 先週のレポートで2022年1-3月のGDP成長率を分析しましたが、その後、各地方の成長率に関する統計結果も続々と出てきています。数値が高かったのが江西省、福建省、湖北省で、全国平均4.8%に対し、6.7~6.9%を達成。その主たる要因として、コロナ禍の経済活動への影響が小さかった点が挙げられます。

 一方、この期間新型コロナへの対応に見舞われた上海市と天津市はそれぞれ3.1%、0.1%と落ち込み、コロナ禍と経済成長の相関性が見て取れます。上海ではロックダウン開始から一カ月がたとうとしており、4~6月の景気悪化が懸念されます。

 ちなみに、北京市は全国平均と同水準の4.8%でした。仮に同地でこれからロックダウンが起こるのだとすれば、こちらも4~6月の景気悪化は必至でしょう。政治と経済の二大巨頭である北京と上海がそろってロックダウン、マイナス成長のような事態に陥れば、「中国経済は大丈夫か」という投資家心理を逆なですることになり得ます。

 中央政府は昨今、中国経済は「供給制約、需要縮小、期待値低下」から成る三重圧力に見舞われているという見解を披露してきましたが、状況次第では、三重圧力が掛け算で膨らんでいくリスクも否定できないと見るべきです。大型連休を挟み、中国経済の動向からますます目が離せません。

(加藤 嘉一)

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