困難なソフトランディング、ECBの方針にも注目
トウシル / 2022年6月29日 15時28分
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困難なソフトランディング、ECBの方針にも注目
ソフトランディングとハードランディング
先週22日の上院銀行委員会での議会でジェローム・パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、「ソフトランディングは難しい」と証言しました。「ソフトランディング」とは、好景気からの調整局面で、大きなショックを与えることなく成長の速度を少しずつ低下させることを表します。
逆に下降や減速が激しくなることを「ハードランディング」といいます。ちなみに、「リセッション」とは、景気後退局面のことで、一般的にはGDP(国内総生産)が2四半期連続マイナス成長となった場合をリセッションとみなしています。
パウエル議長がソフトランディングは難しいと証言したことは、ソフトにしろハードにしろ、景気減速を認めたということになります。しかし、このこと自体は驚く話ではありません。
FRBは今月のFOMC(米連邦公開市場委員会)のGDP成長率見通しで、すでに3月の見通しから下方修正しているからです。3月の時点では今年の成長率見通しは2.8%でしたが、6月には1.7%に大幅に下方修正しています。2023年も2.2%から1.7%に下方修正しています。
相次ぐ景気後退見通し
パウエル議長の発言だけでなく、先週から今週にかけて景気後退を示す経済指標や見方が相次ぎました。
23日に発表された欧米のPMI(購買担当者景気指数)は軒並み低下し、景況感に陰りが出始めています。PMIは企業の景況感を表す指標で、50が好不況の分かれ目となります。米国の6月PMIは51.2となり、3カ月連続で低下し、オミクロン株が猛威を振るっていた1月(51.1)以来、5カ月ぶりの低水準になりました。
ユーロ圏のPMIも悪化しました。6月PMIは51.9と2カ月連続で悪化し、1年4カ月ぶりの低水準となりました。その中でも製造業のPMIは1年10カ月ぶりの低い水準です。
さらに、24日発表の米国の6月ミシガン大学消費者信頼感指数(確報値)は50.0と速報値(50.2)から下振れし、前月(58.4)から急低下し、統計開始以来の最低水準となりました。高インフレに直面し、消費意欲が減退していることを示しています。
マーケットが速報値として注目しているアトランタ連邦準備銀行のGDPナウによると、米国の4-6月期GDP見込みは1カ月前の5月25日時点では+1.8%でしたが、6月27日時点では+0.3%と、消費の伸び悩みなどを背景に大きく低下しています。
米国1-3月期GDPの▲1.5%からの回復はかなり遅れる印象です。今後の展開によってはFOMCの見通しの1.7%がかなり遠い水準になるかもしれません。
米国の大手の金融機関も景気後退の確率を引き上げています。
ゴールドマン・サックスは景気後退の確率は来年が30%、その後の2年間には50%近くまで上昇すると予想しているとのことです。モルガン・スタンレーは来年の景気後退の確率は35%、S&P500種指数は現在の水準からさらに20%下落すると見込んでいるとのことです。
ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーに続き、シティグループも景気後退の確率が50%との予想を発表しています。また、景気後退は年内にも始まるとの見方も広がり始めています。
このように世界的な景気減速への懸念が強まったことから6月の株は下落しています。先週24日のNYダウ(ダウ工業株30種平均)は823ドル(2.7%)高となりましたが、6月に入って3,000ドル近く下落していた反動の域を出ず、「bear market rally」(弱気相場の中での反発)との見方が多いようです。
28日のNYダウは、400ドル超上げた後、一時500ドル近く下げており、値幅でみると900ドルを超える急落となりました。背景は、コンファレンスボードが発表した消費者信頼感指数が予想を下回ったことです。
このような景気後退の見通しを受けて、28日、ニューヨーク連邦準備銀行のジョン・ウィリアムズ総裁は、「経済は堅調なため景気後退は想定していない」と述べています。
2022年の経済成長率は1.0~1.5%に鈍化の見通しを示しましたが、「景気後退ではない。インフレ率の低下に必要な経済の減速だ」と述べ、次回7月のFOMCでは「0.5%または0.75%の利上げが議論されることは明らかだ」とも述べ、タカ派姿勢を崩していません。果たしてFRBの思惑通りの展開になるのかどうか注目です。
利上げ後のクロス円の動きに注目
為替市場の動きはどうでしょうか。22日のパウエル議長の議会証言ではソフトランディングは難しいとしながらも、「インフレ2%目標への回帰に強力にコミットする」「米経済は非常に強く、引き締め策への対処は可能」と発言したことからドル/円は上昇しています。
ただ、24日のミシガン大学消費者信頼感指数の中の、パウエル議長が注目していたインフレ指数が予想を下回ったことから、金利が低下しドル/円も頭の重たい展開となっています。
為替市場では米経済の足踏みは続くとの見方が増え、金利低下とともにドル/円の頭が重たい地合いが続いています。
135~136円台の高値水準ではありますが、先日利上げしたポンド/円やスイス/円の頭が重たい動きとなっており、今後利上げが予定されているユーロ/円の上値が重たく推移するのであれば、ドル/円の上値は限定的であり、下値を切り下げる展開が予想されます。
ECB(欧州中央銀行)は7月の理事会で利上げの方針を打ち上げていますが、ユーロ圏のPMIが急速に悪化する中では、利上げによって景気がさらに悪化する可能性があります。
ECBは方針を変えずに、7月、9月と連続利上げをしてマイナス金利から脱却するのか、あるいは急速な景気悪化を避けるために連続利上げは避けるなど、ややハト派的な方針に変わるのかどうか注目です。
28日、クリスティーヌ・ラガルド総裁はECB年次フォーラムで、7月のECB理事会で0.25%の利上げを行うと再度明言しました。0.5%の大幅利上げではないとの失望からユーロは売られました。
総裁は、「インフレ抑制に必要な場合には、より踏み込んだ行動を取る用意がある」と発言しましたが、7月の理事会で、9月の大幅利上げに含みをもたせるのかどうか注目です。連続利上げと大幅利上げに注目ですが、少しでもハト派色が漂うとユーロは売られ、ユーロ/円も売られ、ドル/円の売り圧力になることも予想されるため、注意が必要です。
7月もインフレ高進と景気減速との綱引き相場が続きそうですが、「景気減速」の材料の方が強まれば、株も金利もドルも、場合によっては原油も低下するシナリオが浮上してくることが予想され、6月とは違った展開になりそうです。
(ハッサク)
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