135円台へドル/円反発、CPIまで様子見
トウシル / 2022年8月10日 14時38分
135円台へドル/円反発、CPIまで様子見
予想外の強い結果となった米雇用統計
5日に発表された米雇用統計は弱い結果が見込まれていましたが、予想外の強い結果となりました。
NFP(非農業部門雇用者数)は52.8万人の増加と予想(25万人)を大きく上回り、過去2カ月分も上方修正、失業率も3.5%まで低下、平均時給も、上方修正された前回を上回る0.5%(前月比)と、どの点から見ても強い結果となりました。
この結果を受けて9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)での0.75%利上げ期待が急速に高まり、米金利が急伸する展開にドル/円は135円台半ばまで一気に2円以上の急騰となりました。
米雇用統計発表後、週末を控えていることから利食いやポジション調整によって135円前後に下落して越週となり、前回お話しした反発のめどである135円近辺で様子見となっています。135円は、7、8月の円高の値幅(139円台前半から130円台前半まで約9円)の半値の水準です。
「半値戻しは全値戻し」といわれるように、135円を超えた後、135円が割れにくくなると再び円売りの流れが続く可能性が高まりますが、米雇用統計後は135円を割れた動きもしていますので、まだ、「全値戻し」への円売りエネルギーは感じられません。
今週に入っても、ドル/円は円売りの流れが続くというよりも135円近辺をさまよっているという感じです。10日に発表予定の米国7月CPI(消費者物価指数)を見るまでは様子見となっているようです。
前回6月のCPIは40年半ぶりの高水準(前年比+9.1%)となりましたが、今回は資源価格の下落から低下予想(前年比+8.7%)となっています。前月比の予想は、前回の+1.3%から大きく低下し、+0.2%の予想となっています。
しかし、予想通り低下したとしても、低下は予想されていたことからあまり金利は低下せず、ドル売りに大きく反応しないかもしれません。むしろ、予想を上振れた場合や前月を上回った場合には、大きくドル買いに反応し、再び135円を超えてくる可能性がありそうです。
また、生鮮食品とエネルギーを除いたコアCPIの予想は、前年比で拡大予想となっています。CPIが低下してもコアCPIが拡大となると、コアCPIの方が重視されるため注意が必要です。
ただ、利上げ幅の思惑が強まることになっても今月はFOMCが開催されず、9月20~21日の次回FOMCまで1カ月半近くの間があるため、その思惑や期待は長続きしないかもしれません。その間を埋めるために、何らかのヒントを示すかもしれない8月25~27日のジャクソンホール会合でのジェローム・パウエル議長の講演まで待つことになる可能性があります。
過去最高の雇用者数に疑義?!
ドル/円が米雇用統計後、一気に2円超急騰しましたが、その後134、5円でさまよっているのは米雇用統計の数字が過大に出ている可能性があるとの見方が浮上していることにも関係があるかもしれません。
7月に非農業部門雇用者数は1億5,253万人と、2020年2月の1億5,250万人を超えて過去最高になりました。雇用統計発表後、ジョー・バイデン大統領は「歴史上、最も多くの人々が働いている」と誇らしげにコメントしましたが、この記録に疑義があるとゴールドマンサックスのチーフエコノミスト、ヤン・ハチウス氏は分析しています。
数字が過大になっているのは、雇用者数が複数の仕事を掛け持ちするパートタイマーの急増によって、企業からの集計では一部がダブルカウントになっているのではないかとの指摘です。家計サイドから就業者数を集計すると、4月以降7月までの雇用者の伸びは止まっている状態とのことです。
それでは雇用者数が頭打ちならなぜ失業率が下がったのかという疑問については、同氏は職探しをしない人は失業者として扱わず非労働力人口として数えるため、7月の非労働力人口の増加によって失業率が低下していると分析しています。
7月の労働参加率(62.1%)は0.1%の低下となりました。これは労働市場からの退出者が増えている(非労働力人口の増加)ことを表しており、つまり、失業率は下がっても雇用情勢が改善しているわけではないとの見方ができます。
まとめますと、「雇用者数がコロナ前の水準に戻ったが、ダブルカウントしている可能性があり、雇用者数はこの半年は頭打ちの傾向となっている。失業率が低下しているのは非労働力人口が増えているからであり、雇用情勢は文句なしの強い数字を示しているわけではない」という分析になります。
雇用統計は遅行指標でもあるため、雇用の実態をつかみ損なえば、金融政策の判断を誤りかねず、足元の景気に悪影響を及ぼしかねないということをマーケットは何となく感じているのかもしれません。
米国景気は2四半期連続のマイナス成長にもかかわらず、足元の雇用は強く、物価は高止まりという状況に対して、株式市場も金利市場も為替市場も、一方向に傾いているというわけではなく気迷っている感じです。CPIが高くても景気悪化懸念の方が高まれば長期金利は上がらず、相場の気迷いは続き、相場を見極めるのにはまだ時間がかかるかもしれません。
ドル/円は135円以上で定着するのか、135円以下で定着するのか、9月のFOMCまでには決着している可能性もありますが、それまでに一山も二山も難所を越えていく必要があります。その間、下記のような指標が待ち構えており、そして思惑と期待が交錯するため相場が翻弄(ほんろう)される点にも留意しておく必要があります。
- 8月10日 米国7月CPI
- 8月25日 米国4-6月期GDP(国内総生産)(▲0.9%)改定値
- 8月25~27日 ジャクソンホール会合でのパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長講演
- 9月2日 米国8月雇用統計
- 9月13日 米国8月CPI
- 9月20~21日 FOMC
(ハッサク)
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