中国小売、8月5.4%増。党大会まで一カ月で経済回復の兆し?
トウシル / 2022年9月22日 6時0分
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中国小売、8月5.4%増。党大会まで一カ月で経済回復の兆し?
2年8カ月ぶりの外遊を経て党大会に集中する習近平
5年に1度の党大会まで1カ月を切りました。先週、習近平(シー・ジンピン)国家主席は2年8カ月ぶりに2泊3日の日程で外遊、カザフスタンとウズベキスタンを訪問しました。ロシア・ウクライナ戦争が依然収束しない中、ウラジーミル・プーチン大統領とも会談を行い、連携を続行していく旨を確認し合いました。
9月16日午後、無事北京に帰ってきた習氏は、ちょうど1カ月後に迫った党大会に向けて、内政に全精力を注ぎこむことになるでしょう。党大会自体は1週間程度ですが、その前後、特に開幕前は中央、地方、議事、人事を含め、現役指導層、高級官僚、党、政府、軍、そして長老などありとあらゆる「大会関係者」との意思疎通に忙殺されます。
11月15~16日にはインドネシアでG20首脳会議が予定されています。党大会を経た新指導体制における習主席の「初外遊」も注目されます。ジョー・バイデン大統領との、対面では初となる米中首脳会談に向けての準備も行われています。党大会を経て、米中関係はいずこへ。
9月と11月の外交行事に挟まれる10月の内政。鍵を握るのは後者であり、党大会をうまく乗り切り、新時代を象徴する新政権、その最高指導者として再び北京を飛び立ち、世界全体にその姿をお披露目することができるかどうか。見どころ満載と言えます。
党大会まで一カ月。鍵を握る経済に回復の兆し?
党大会まで一カ月、習主席として諸外国との関係は可能な限り平穏に管理する前提で、本腰を入れて取り組みたいのが、新型コロナウイルスの感染拡大を可能な限り抑えた上で、経済指標を改善することです。その作業が、党大会に向けて自らの権力基盤を維持し、新指導体制の人事を有利に進める局面を促すからです。
では、足元の経済情勢はどうなっているのでしょうか?
9月16日、中国国家統計局が最新の主要経済指標を発表しました。過去の数値と比較しつつ、主要な数値を以下の図表に整理してみました。
2022年4~8月の中国主要経済指標
前年同月比 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 |
工業生産高 | ▲2.9% | 0.7% | 3.9% | 3.8% | 4.2% |
小売売上高 | ▲11.1% | ▲6.7% | 3.1% | 2.7% | 5.4% |
調査失業率(除く農村部) | 6.1% | 5.9% | 5.5% | 5.4% | 5.3% |
同16~24歳 | 18.2% | 18.4% | 19.3% | 19.9% | 18.7% |
前年同期比 | 1-4月期 | 1-5月期 | 1-6月期 | 1-7月期 | 1-8月期 |
固定資産投資 | 6.8% | 6.2% | 6.1% | 5.7% | 5.8% |
不動産開発投資 | ▲2.7% | ▲4.0% | ▲5.4% | ▲6.4% | ▲7.4% |
数字は前年同月比または前年同期比。▲はマイナス。中国国家統計局の発表を基に筆者作成。 |
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今回発表されたのは8月と1-8月の統計結果ですが、まず目につくのは工業生産高と小売売上高です。上海市が二カ月以上のロックダウン(都市封鎖)に見舞われた4月、5月に極端に低迷し、解除後の6月には顕著に回復、7月の横ばいから8月には再び上昇しています。大方の市場予想も上回っており、中国政府がこの期間投じてきた景気支援策が一定程度効いてきたのだと思われます。失業率が徐々にでも好転してきている経緯は、雇用の悪化が社会不安のまん延につながる局面を懸念する中央政府としては好材料と言えるでしょう。
一方、固定資産投資に顕著な回復が見られず、特に不動産開発投資は引き続き悪化の一途をたどっています。不動産関連に関して、1-8月期における住宅の販売面積、販売額を見ても、それぞれ前年同期比で23.0%減、27.9%減と下げ幅を拡大させています。これらの数値がどのタイミングで好転するかが、中国国民や国内外の市場関係者の中国経済への自信と期待値が回復を示唆する一つの目印になると言えるでしょう。
中国経済の現在地と見通し。政府高官の見方は?
これらの数値を発表した国家統計局は、中国経済の現状をどう認識しているのでしょうか。政策の市場に対する影響が強い中国において、当局者の現状認識を知ることは、当局がこれからどのような対策を取るのか、景気がどう展開されるのかを見通す上で極めて重要です。
9月16日、同局の付凌暉(フー・リンフイ)報道官は8月の経済情勢について、次のように述べています。
「8月、我が国の経済発展が直面する情勢は依然として複雑で深刻である。国際的にみると、コロナは世界中で感染拡大しており、産業・サプライチェーンは滞っている。エネルギー、食糧供給は緊迫しており、コモディティ価格も高止まりしている。主要先進国ではインフレが進行し、欧米などが金融政策の引き締めを加速させたことで、世界経済の下振れ圧力は高まっている」
「国内を見ると、コロナの感染拡大が散見され、猛暑や干ばつといった不測の要素が与えるショックは比較的大きい。一部地域の生産、投資、消費が一定の影響を受けている。市場における需要不足という矛盾も突出しており、企業の生産経営が直面する困難も少なくない。経済の安定的回復の制約要因となっている」
中央政府として、経済情勢の現状と先行きを決して楽観視していない姿勢が明白に垣間見れます。今年に入ってから特に強調している「需要の収縮×供給制約×期待値低下」という三重圧力が引き続き随所で顕在化しており、「経済を回復させるための基礎は強固ではない」と言い切っています。
とはいえ、上記で検証したように、中央政府としてこの期間打ち出してきた景気刺激策の効果が生産や消費に表れていることもあり、引き続きこれらの対策を効果的に景気改善につなげるためのモニタリングとメンテナンスに注力していくでしょう。同時に、供給制約の除去、需要回復に向けたテコ入れを通じて、特に雇用と物価の安定(8月の消費者物価指数は前年同月比2.5%上昇で、7月に比べて0.2ポイント下がっている)を確保すべく奔走するのでしょう。
次に経済の主要指標が発表されるのは10月18日、すなわち党大会開幕(10月16日)の2日後です。その時どんな数値が出てきて、市場や世論の「党大会後の中国」に対する印象や評価にどう影響するのか。党大会まで残り1カ月。経済が鍵を握る「政治の季節」が続きます。
(加藤 嘉一)
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