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中国、「ゼロコロナ」には戻らない?第2波到来も、景気回復を優先

トウシル / 2023年6月1日 7時30分

中国、「ゼロコロナ」には戻らない?第2波到来も、景気回復を優先

中国、「ゼロコロナ」には戻らない?第2波到来も、景気回復を優先

中国で新型コロナ第2波到来。株式市場は「ゼロコロナ策」を警戒

「中国はまたゼロコロナ政策に戻るんですかね?」

 この1週間、中国の経済動向に注目する機関投資家や実業家の方々から、最も頻繁に受けた質問です。

 事の発端は、5月22日、中国における感染症対策の権威で、新型コロナ対策政府専門家チームのトップを務めた鍾南山(ジョン・ナンシャン)氏の発言です。鐘氏はコロナ禍で一躍「時の人」になり、中国のコロナ対策への貢献度の高さから「共和国勲章」を受章している人物です。

 鐘氏は、広東省広州市で行われたバイオテクノロジー会議に登壇し、現在新型コロナの第2波が押し寄せており、1週間当たりの感染者が5月末に4,000万人、6月末には6,500万人に達するとの見通しを述べたのです。

 この発言が日本メディアによって報道されると、多くの市場関係者の間で、中国政府が新型コロナの感染拡大を徹底的に封じ込めようと実施した「ゼロコロナ」策のことが脳裏をよぎったことでしょう。特に、2022年3月下旬から5月末にかけて、国際経済都市・上海市全域で取られたロックダウン(都市封鎖)によって、世界経済やマーケットは大きな打撃を受けました。それが冒頭の質問につながっていったと思われます。

 そんな投資家心理を如実に反映するかの如く、5月24日、アジア株は全面安、特にインバウンド関連株は急落しました。中国発の新型コロナ第2波の到来と動向は、日本を含めた株式市場にも深い次元で影響していくものと思われます。

中国が「ゼロコロナ」策に戻ることはない

 冒頭の質問に対する、私の回答は以下の通りです。

「中国が、ゼロコロナ策に戻ることはない」

 中国政府の政策、政府や市場関係者との意見交換を経て、私なりに出した現段階における結論です。

 鐘氏は、前述の会議で、6月末までに週間の新規感染者数が6,500万人に上るとの見込みに対して、「予想の範囲内」という見解を示しています。鐘氏は「中国の新型コロナ感染拡大防止策はすでに、以前の感染予防型から、現在の重症化予防へと移行している。なぜなら、感染自体を防ぐことは困難だからだ」とも続けています。

 2020年初頭から2022年末まで、約3年間続いた「ゼロコロナ」というのは、文字通り「感染自体を防ぐこと」を目的とした、「感染予防型」の政策にほかなりません。それはもはや困難であり、国民が今現在中国国内で第2波として流行しているオミクロン変異株XBBに感染すること自体は問題視しない、言い換えれば、中国政府として、当時の「ゼロコロナ」策を復活させるような措置は取らないということです。

 そもそも、年末年始を跨いでの「ゼロコロナ」策の実質解除を受けて、中国政府は従来のように、無症状者を含めた新型コロナへの感染者数を統計することも、発表することもしていないですし、私の中国の知人たちが指摘するように「そもそもどこでどうPCR検査を受けるのかも定かではない」というのが、コロナフリーと化した中国社会の現状なのです。

 今年年初、感染を徹底的に封じようとする「ゼロコロナ」策から、感染していない人はいないというほど感染がまん延した「フルコロナ」状態へと大転換する中、中国では「陽康」という造語がはやりました。新型コロナに感染し、陽性となることで初めて健康になる、という中国人らしいユーモアというか、皮肉りでした。それに続いて、第2波が到来している現状下では「二陽」、すなわち二回目に感染する状況を表す造語が出回っています。

 鐘氏は「『二陽』の症状のほとんどは比較的軽いとされるが、少数、特に基礎疾患を持っている方の症状は重いようだ」とし、心臓病や神経系疾患、腎臓病などを患っている患者が「二陽」となれば、重症化して死に至るリスクを指摘しています。

 前述した「感染予防型」から「重症化予防」という方針転換にも反映されているように、昨今の中国政府のコロナ対策の対象は、基礎疾患を持った国民、特に高齢者に向けられており、医療資源などもそこに注力すると思われます。中国では現在、オミクロン変異株XBBへの感染を予防するためのワクチン開発が急ピッチで進められており、近いうちに2種の国産ワクチンを使用開始する見込みです。

中国政府にとっての優先事項は、コロナ感染拡大防止よりも景気の回復

 習近平(シー・ジンピン)総書記率いる共産党指導部、李強(リー・チャン)首相率いる政府首脳部が、昨今の新型コロナ第2波の到来をどう認識しているかを把握する上で、参考になるのが、党や政府が定期的に開催する重要会議です。この問題が議題になっているか、その中で現状認識や対策がどう描写されているかに注目することが大切です。

 参考までに、李首相が主催する国務院常務会議の直近の議題を整理してみます。

日時 議題
4月7日 対外貿易の安定化と最適化の推進
4月14日 雇用安定に向けた政策の調整と最適化
5月5日 ハイテク製造業の推進/充電インフラ建設加速/新エネルギー車の農村普及
5月19日 全国統一大市場の構築/医療保障基金使用の常態化
国務院の発表を基に筆者作成

 この一覧表からも伺えるように、4月から5月にかけて、中央政府(内閣)である国務院が、新型コロナ第2波の到来への対処を政策の優先事項に据えた形跡は見られません。また、私が把握する限り、習氏や李氏が公の場で第2波の到来にどう備えるかに関して言及、説明した経緯もありません。国家の責任者として、当然現状は把握しているでしょうが、それを本人たちがどう言語化し、発信していくかは全く別問題です。

 習氏や李氏がこの問題について発言するということは、中国共産党、政府としてそれだけ深刻に捉え、現状を懸念しているという、言ってみれば1種の「弱み」を露呈してしまうことになります。そうはせずに、現状を実質「スルー」しているというのは、私たちが中国の現状を理解する上で極めて重要なシグナルになります。

 要するに、少なくとも現時点においては、党・政府指導部として特別に対処する必要はない、「ゼロコロナ」策を再び持ち出すこともしない、ということです。それよりも、足元の最重要課題は、4月の経済指標が軒並み市場予想を下回り、深刻な需要不足が悩ましい景気の回復と促進にどう向き合うか、です。先にあげた会議の議題にも、李首相のこうした立場が如実に体現されていると考えます。

 2022年4-6月期の実質GDP(国内総生産)は、上海市におけるロックダウンなどの影響を受け、前年同期比0.4%増と低迷しました。この反動で、2023年4-6月期はどのくらい回復できるか。足元の経済動向は、2023年の中国経済を占う重要な試金石となります。

(加藤 嘉一)

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