山崎元がホンネで回答「今のプロ棋戦の戦法、どのように追いついていますか?」
トウシル / 2023年7月4日 12時29分
山崎元がホンネで回答「今のプロ棋戦の戦法、どのように追いついていますか?」
トウシルはこのほど、読者の皆さまから山崎元に聞きたいテーマを募集しました。たくさんの投票をいただき、ありがとうございました。自由回答でいただいた疑問・質問は、全て本人に届けております。この記事では、いくつかの質問に回答します。(トウシル編集チーム)
【質問】山崎さんと同世代で東京六大学の将棋部に在籍していました。入社して将棋部に入り、20年くらい指していましたが、指さなくなって20年近くになります。今はネット観戦です。今のプロ棋戦の戦法、戦い方(考え方)などは以前とかなり変わりましたが、どのように理解していますか。どのようにして追いついていますか。
【回答】将棋はスマホで観るのが一番いい
私も、近年、人間とは殆ど将棋を指さなくなりました。専ら、将棋モバイル中継を観ています。将棋の盤面はほどよく小さいので、スマホの画面と相性がいい。最高の暇つぶしです。将棋をやっていて良かったとつくづく思います。
実は、藤井聡太七冠が人気を博する前の時期に、楽天証券ないし楽天グループが将棋のタイトル戦の主催社に名乗りをあげたらいいのに、と思っていたことがあります。あの時期なら、格式のあるタイトル戦の主催社に格安でなることができたのではないか。直接比較するものではないかも知れませんが、経済規模的には日本将棋連盟の年間の全売り上げよりも、イニエスタ選手1人の年俸の方が高かったのです。
私は大学時代にそれほど熱心な将棋部員ではありませんでしたが、卒業後も将棋には関心を持ち続けていて、プロの将棋を観続けていました。一時は新聞、雑誌で、そして、今はスマホでです。この事情は、質問者も同じではないかと拝察します。棋力は、「強くないアマ四段」と自称しており、得意戦法は横歩取りや相懸かり、苦手は矢倉です。
さて、プロの将棋を観て楽しむだけでも、手の意味を理解するためには、戦法や手筋の知識が必要です。
卒業後20年くらいの間は、『将棋世界』という雑誌を読んでいました。一時、横歩取りの後手番が8五飛車と構えるようになった時に、横歩取りがサッパリ分からなくなり、この際には大いに助けられました。また、矢倉で先手が4六銀、3七桂、3八飛車と組んで、後手の金銀四枚の矢倉を攻める将棋もどの条件なら攻めが成立するのかが分からず、解説を読み込んだ記憶があります。
投資の世界でも新しい考え方が出て来て、これを理解するために海外の雑誌の論文を読むことがありますが、そんな感じでしょうか。
しかし、自分で将棋を指さなくなると、『将棋世界』は戦法の解説が細かすぎて自分には過剰であると思うようになりました。
今は、モバイル中継と、詰め将棋文化の応援を兼ねて購読している『詰将棋パラダイス』だけが、主な将棋関連支出です。他人事ながら、私のようなそこそこに熱心なファンに、たったこれだけしかお金を払わせていない将棋連盟はビジネスとして大丈夫なのかと心配です。
現在は、プロ棋士間にソフトを使った研究が普及した関係上、指し手が整理されてきたように思います。角換わり、相懸かり、雁木などの主流戦法は、毎日のようにモバイル中継を観ているだけで、そこそこに知識が貯まります。仕掛けの辺りまでは、藤井聡太七冠と変わらない手が指せるような気になります。
藤井聡太七冠といえば、彼の将棋だけは、一度ライブで観た後に、改めて初手から最終手迄、モバイル中継の画面で復習することにしています。「なるほど、将棋とはこうやって勝つものなのか」と毎度感心しています。この復習は、戦法の記憶定着のために有効かも知れません。
余談ですが、藤井七冠の強さは興業上少々問題かも知れませんね。トップ棋士を相手に毎年8割を超える勝率は、昔風に言うと、「手合いが平手ではない」ことを意味するように思います。かつて賭け将棋の世界では「角落ち三層」という言葉があり、手合いが角落ちなら「平手で3勝と1敗の組み合わせでイーブン」という意味ですが、この場合の上手の勝率は7割5分です。藤井七冠の勝率はこれをはっきり超えています。
ソフトでの研究が普及して、プロ同士の相居飛車の定跡形の将棋は「ここまでは研究してきました」という点が時間の使い方で分かるような、「少し味気ない」、そしていくらか「息が詰まる」感じのものになりました。終盤までにお互いが間違えて、スリルのある混沌が生じるようなら、以前と変わらない楽しみがあるのですが、そうでない将棋もある。
この息が詰まるような感じに対する気分転換を提供してくれるのが、実は、女流プロの将棋です。第一人者2人が共に振り飛車党であるせいか、一方ないし両方が取りあえず飛車を振って、あとは攻めっ気八分の力比べで決着がつく、昭和の町の道場の将棋を髣髴とさせる世界がそこにあります。
但し、女流プロの上位層の終盤力はかつてと比較にならないくらい上がっているので、昔の女流将棋のイメージではありません。昔なら「平手でチャレンジしてみたい」と思わなくもなかったのですが、今は「大駒を一枚落として指導して欲しい」、「でも、きっと勝てないだろうなあ」と仰ぎ見るような終盤戦が展開されています。
何はともあれ、将棋モバイル中継は、安くて便利です。「まるで楽天証券のようだ」と申し上げておきましょう。
(山崎 元)
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