「スーパーエルニーニョ」が世界と投資家を揺さぶる
トウシル / 2023年6月27日 7時30分
![「スーパーエルニーニョ」が世界と投資家を揺さぶる](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushiru/toushiru_41850_0-small.jpg)
「スーパーエルニーニョ」が世界と投資家を揺さぶる
「スーパーエルニーニョ」発生予報
6月9日、気象庁は、「エルニーニョ現象」が発生しているとみられる、今後、秋にかけて続く可能性が高いと、発表しました。エルニーニョ現象は、世界規模の異常気象の原因とされています。
今年は47年ぶりに、冬に発生したラニーニャ現象に続き、夏にエルニーニョ現象が発生しました。エルニーニョは、スペイン語の「男の子」の意味です。ラニーニャは「女の子」です。
以下のグラフは、この半世紀に起きたエルニーニョ現象とラニーニャ現象を示しています。気象庁は、エルニーニョ監視海域の海面水温の過去5カ月平均が、6カ月以上連続で基準に対して+0.5℃以上となることを「エルニーニョ現象」、−0.5℃以下となることを「ラニーニャ現象」としています。
緑色がエルニーニョ現象、オレンジ色がラニーニャ現象です。過去最大となった1997年春~1998年夏にかけて発生したエルニーニョ現象は、基準に対して一時3℃以上も高くなりました。
データを入手できた1949年から現在まで、基準に対して2.5℃以上高くなり(5カ月平均)、「スーパー」を冠したエルニーニョ現象は3回(1982年春~1983年秋、1997年春~1998年夏、2014年春~2016年春)のみです。
4月時点で、太平洋の赤道域に蓄えられた熱量が、過去最大となった1997年春~1998年夏と同程度まで上昇していたと気象庁や専門家が述べています。今回のエルニーニョ現象が再び「スーパー」となる可能性が高くなっていると言えそうです。
図:エルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差(5カ月平均)
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/0/1/-/img_015782fa92816357c40579505826ad8626964.png)
以下は、スーパーエルニーニョが発生することで生じる懸念(一例)です。
図:スーパーエルニーニョがもたらす懸念(一例)
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/2/e/-/img_2e697321de0e81a45a831ef89910e74028714.png)
今年、これまでカナダ、イスラエル、ロシアなどで大規模な山火事が発生しました。また、バングラディシュ、インド、タイなどで熱波、地中海周辺の欧州や北アフリカで異常な高温に見舞われたと報じられています。
これら全てが「極端気象」が原因だとは言えないかもしれません。しかし、世界全体で年々増え続ける「極端気象」が、当該地域の市民の生活、政治・経済、関わりがある国・企業・人へのマイナスの影響をもたらしていることに留意しなければなりません。
「スーパーエルニーニョ」。冬にピークを迎え、その後も影響が続くとの指摘があります。わたしたちは今、大きな試練に直面しているのかもしれません。
エルニーニョ現象の発生過程を確認
規模が大きくなるかどうかは、さまざまな条件(該当水域の熱量など)が関わっていますが、そもそも、エルニーニョ現象はどのような過程を経て発生するのでしょうか。以下は、太平洋の赤道付近、やや東側を示した図です。
図:エルニーニョ現象(通常)と発生時の影響
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/8/4/-/img_84f0cf79cb317ec5059dcc76f84d11e726222.png)
エルニーニョは、赤で示した海域の海面水温が上昇する現象です。逆に低下する現象がラニーニャです。通常のエルニーニョ現象の際に生じる影響は、春(3~5月)高温、夏(6~8月)低温・多雨、秋(9~11月)低温、冬(12~2月)多雨とされています(日本の場合 気象庁の資料より)。
以下は、エルニーニョ現象の発生過程をイメージしたものです。赤道付近で東から西に吹いている「貿易風」が弱まると(1)、東南アジア付近に押しとどめられていた温かい海水が太平洋の東側に流れ込み(2)、太平洋の赤道付近の東側の海域の海面水温が上昇してエルニーニョ現象が発生します(3)。
図:エルニーニョ現象の発生過程(主因)
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/8/5/-/img_85cdf8e84fee28229b2de946b79fae4329030.png)
「貿易風」の強さを推し測る手掛かりに、「南方振動係数」があります。フランス領ポリネシアに属する「タヒチ」とオーストラリア北部の「ダーウィン」の地上気圧の差を指数化したものです。値がプラス(マイナス)の場合、貿易風が強い(弱い)ことを示します。以下は、南方振動係数と先述のエルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差です。
図:南方振動係数と先述のエルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/a/c/-/img_ac886a6471f27bcf3456eddc3cc8a4dd32071.png)
グラフ内の期間の相関係数※は、およそ-0.8です。二つの値は逆に動く(片方が上がる(下がる)時、片方が下がる(上がる))傾向があります。足元、南方振動係数が低下しています(グラフ内の赤矢印)。これは東のタヒチ側の気圧が相対的に低下、西側のダーウィン側の気圧が同上昇し、貿易風が弱まっていることを示唆しています。
※相関係数:二つの数値の関係が似通っているかどうかの目安の一つ。+1から-1の間で決定し、+1に近づけば近づくほど同じように動く傾向があり、-1に近づけば近づくほど逆に動く傾向があることを示す。0は全く関わりがないことを意味する。
貿易風の弱まりは、先ほどの図「エルニーニョ現象の発生過程(主因)」で示したとおり、温かい海水が太平洋の東側に流入するきっかけをつくるため、エルニーニョ現象の主因になり得ます。
今後、さらに南方振動係数が低下すれば(貿易風が弱まれば)、エルニーニョ現象はさらに目立つと考えられます。同指数は、エルニーニョ現象の動向を考える際のヒントになり得ると考えます。
エルニーニョでも農産物価格が下落する場合も
ここまで、スーパーエルニーニョや、エルニーニョが発生する過程について述べてきました。ここからは、農産物価格とエルニーニョ現象の関係について述べます。
「エルニーニョ現象発生→農産物価格高騰」という連想をいだく市場関係者は多いように感じますが、実際のところ、2000年ごろ以降は、エルニーニョ現象が農産物価格を急騰させた例はあまりありません。
以下のとおり、2000年ごろ以降、主要な穀物である大豆やトウモロコシ、主要な農産物に分類されるコーヒーやカカオの価格は、エルニーニョ現象が発生していなくても、急騰する場面が何度もありました。
図:エルニーニョ現象とトウモロコシと大豆の価格推移 単位:ドル/トン
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図: エルニーニョ現象とコーヒーとカカオの価格推移 単位:ドル/キログラム
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/4/e/-/img_4e8606994635485d03e8d6fc903c96bc24090.png)
「2000年ごろ以降」と書いたのは、それ以前の時代は、「エルニーニョ現象発生→農産物価格高騰」という連想が、しばしば現実になったことがあったためです。「2000年ごろ」を境に市場の構造を揺るがす大きな出来事があったと、考えるのが妥当でしょう。
この半世紀で起きたコモディティ市場の変化
以下は、筆者が考える、この半世紀で起きた、コモディティ(国際商品)相場の見方の変化です。
30~50年前はおおむね「エルニーニョ現象発生 ≒ 価格急騰」と言えたわけですが、現在は、エルニーニョ現象が起きていなくても、急騰し得ます。2000年ごろ以降、市場構造を揺るがした出来事とは、「コモディティ(国際商品)銘柄の金融商品化(ETF[上場投資信託]などで)」、そして「欧米などによる大規模な金融緩和(危機時)」です。
これらにより、大量の投機マネーが投資対象の垣根を超え、縦横無尽に行き交う環境が出来上がりました。こうした大きな変化は、コモディティ(国際商品)市場に「独自材料の(相対的な)影響度低下」という、土台をほんのわずかにずらす、目立たなく、かつ甚大な変化をもたらしました。
有事でも金(ゴールド)価格が上がらない場合がある、OPEC(石油輸出国機構)が減産をしても原油価格が上がらない場合がある、エルニーニョ現象が発生しても穀物価格が上がらない場合がある...。2000年以前の相場環境に詳しい人にとって、釈然としない相場展開がこの20年余り、続いているのは、こうした背景があったためだと、筆者は考えています。
図:コモディティ(国際商品)相場の見方の変化
![](https://media.rakuten-sec.net/mwimgs/1/4/-/img_145c57a84463d86c22c75ab6e11b787829647.png)
「スーパーエルニーニョ」は、もしかしたら、穀物・農産物価格を大暴騰させるかもしれません。しかし、何も起こせないかもしれません。「なぜこれだけのエルニーニョ現象なのに、暴騰しないのだ!?」と、過去の常識で説明できなくなった相場と対峙(たいじ)し、心が揺れるかもしれません。しかし、それが「今どきの相場」なのです。
少なくとも次の三つ、(1)周辺材料(株や通貨などとの関係)、(2) 独自材料(従来の変動要因)、(3)これまでにない新しい材料(環境・人権関連など)を俯瞰(ふかん:全体を一望)することが欠かせません。
「有事だけ」「減産だけ」「エルニーニョ現象だけ」が、コモディティ相場を動かす材料ではありません。「過去の常識にとらわれない柔軟な発想が、正しい分析を手繰り寄せる」。筆者はこの言葉に従い、情報配信を行っています。
こうした考え方に基づけば、「エルニーニョ現象にとらわれない価格上昇シナリオ」を描くことができるようになります。
[参考]コモディティ関連の具体的な銘柄
投資信託
iシェアーズ コモディティインデックス・ファンド
ダイワ/「RICI(R)」コモディティ・ファンド
DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Aコース(為替ヘッジあり)
DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Bコース(為替ヘッジなし)
eMAXISプラス コモディティインデックス
SMTAMコモディティ・オープン
ETF
iPathピュア・ベータ・ブロード・コモディティETN (BCM)
インベスコDB コモディティ・インデックス・トラッキング・ファンド (DBC)
iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN (DJP)
iシェアーズ S&P GSCI コモディティ・インデックス・トラスト (GSG)
(吉田 哲)
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