山崎元がホンネで回答「自社株買いなどの搾取とも言える手法に、反対の立場です。山崎さんの意見を聞かせて下さい」
トウシル / 2023年9月23日 11時0分
![山崎元がホンネで回答「自社株買いなどの搾取とも言える手法に、反対の立場です。山崎さんの意見を聞かせて下さい」](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/toushiru/toushiru_42697_0-small.jpg)
山崎元がホンネで回答「自社株買いなどの搾取とも言える手法に、反対の立場です。山崎さんの意見を聞かせて下さい」
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【質問】
企業の自社株買いについては、山崎元さんからも折に触れておられたと思いますがとりわけ4/25付のレポート(リスクプレミアムは「リスクを取りたくない人」が払ってくれている)の解説、この労働者タイプBが会社の資本を食い物にしている現状、私個人もかねてより腹に据えかねていました。折しも日本取引所がPBR1倍以上となるよう企業へ努力義務を課すこととなり、今後ますます自社株買いが横行するものと推察されます。不肖私一応は会計学を修めた者であり自己資本を食いつぶす(ドブに捨てる)自社株買いというものへは、合法とは承知しておりますが反対の立場です。さらに申せば、株主総会では経営陣へのストックオプション付与へは常に反対票を投じております。これら一連の労働者タイプBによる搾取ともいえる手法、道徳倫理的に許容しがたいです。
本来、経営者は損益取引により企業価値を高めるのが王道であり、小手先の資本取引で株価・ROEを上昇させるような手法は邪道にしか見えません。これを御子息様や読者にお薦めになったのも残念でなりません。反論をお待ち申し上げております。(※ 質問文を一部編集しています)
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山崎元がお答えします。
ご質問の「労働者タイプB」は、以下の図の資本を食い物にしている労働者ですね。
(図)資本を巡る利害関係
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典型的には近年の米国の強欲な経営者達がイメージできますが、日本でも「IPOゴール」レベルのベンチャー経営者や、スットックオプションをたっぷり抱えた「CxO」達(CEO、COO,CFO、CTO、など)が該当することがあります。
さて、そもそもこの図は、「株式のリスクプレミアムは、そもそもその源泉となっている企業の利益は、どこから発生して、誰が払っているのだろうか?」という問題意識から作成したものです。
ちょうど、「まんがで読破 資本論」(学習研究社=現Gakken )1という書籍の解説文を書いていたので、遠くかのマルクスの「資本論」を参考にしています。
ここで「資本」は、ビジネスに使える会社の財産全般で、再投資されることもあれば、無駄遣いされることもあり、主に「資本家」がその処分を決めます。マルクスの解釈者の多くが間違えるように資本自体に意志があって常に成長を目指すような代物ではなくて、リスクに見合う良い再投資先がなければ、配当や自社株買いのような形で資本家の消費に消えますし、「債権者(≒銀行)」が強くて金利をごっそり持っていくような力関係になることもあり得ます。
この全体像の中で、圧倒的に大きな利益を資本に提供しているのは、「雇用が確保されていて、収入が安定しているなら、ありがたい!」と強く願うリスク回避的で且つお互い同士がよく似ていて競争させられる「労働者タイプA」です。
視覚イメージ的には、就職して入社式に臨むリクルートスーツを着た新入社員の集団をイメージするといいでしょう。画一的に、会社の言いなりに働いているだけでは、彼らの将来は明るくありません。可哀相ですが、「工夫せずに、人と同じ『取り替え可能な立場』にいる」のだから、不利で当然です。
彼らのような、リスク回避的な主体が安く働くことから利益が提供されて、これを企業が資本の利益の形でリスクを取って掬い取って経済が回っています。「リスクを取らない人が、リスクを取る人に利益を払う」。経済というものは、大まかには、そのようなもののようです。
「資本家」、「債権者」、「労働者(A、B共に)」いずれにあっても、大事なのは、(1)適切に「リスクを取る」こと、(2)他人と同じにならないように「工夫する」こと、の2つです。
因みに、自社株買いは、配当と同様に、企業が資本の一部をお金の形で資本家に渡す行為です。自己資本をドブに捨てる行為ではなく、投資に使わない資本を資本家に返す行為だと考えるのが、多くの場合妥当な解釈ではないでしょうか。
もっとも、米国の強欲経営者のような「労働者タイプB」が、ストックオプションを自分に付与しながら借り入れを行ってでも自社株買いに及ぶようなケースは、資本家を利する(確かに短期的には利する)ように見せかけつつ、自分の報酬を増やすために行うダーティー・ワークです。
さて、人は「資本家」、「債権者」、「労働者タイプA」、「労働者タイプB」の何れをも目指すことが出来ますし、複数のタイプを兼ねることが出来ます。こうした力関係の相関図にあって、どのプレーヤーも善くも悪くもありません。ここで強調したいのは、どの立場にあっても、適度にリスクを取って、工夫しない人は、カモられても仕方がないのだ、という善し悪しを超えた「経済の現実」です。
たとえば、積立投資を始めたサラリーマンは、その中身として「労働者タイプA」が大半ですが、一部が(始めはごく一部かも知れませんが)「資本家」になります。
あるいは、IPOに成功した起業家は「資本家」である一方で、同時に経営や技術をブラック・ボックスにしつつ将来に期待を抱かせて、株価を通じて多くの投資家・株主から価値を吸い上げる「労働者タイプB」でもある場合が少なくないでしょう。
一方、資本家、株主も例外ではありません。経営やファイナンス、技術などを、自分が分からないブラックボックスのままで放って置いて、株主としての利益だけはMAX取る権利があるはずだと思うのは無理な相談です。株主は、それほどまでに偉い存在ではありません。ブラックボックスを潰して、経営者を監視するなどの手間を惜しむと、「労働者タイプB」に吸い上げられる利益が増えていくのが仕方のない現実です。
今や資本家も油断するとカモになるのだという事実は、是非マルクスに教えてあげたい。案外喜ぶかも知れないと想像します。
さて、こうしたゲーム盤を前にした場合、例えば自分の息子に対してなら、あるいは架空の話ですが自分が若いとしたら、どのようなポジションを選びたいと思うでしょうか。
結果的に圧倒的な多数は「労働者タイプA」になるのですが、100%そうはなりたくない。できれば「資本家」或いは「労働者タイプB」の要素を増やした方が、有利で且つ面白いのではないでしょうか。
因みに、筆者・山崎元自身は、ビジネスマンとしてB級以下だったので、せいぜい「他人と少しちがう働き方の労働者タイプA」のようなビジネスマン人生を送ってきました。「資本家」でも「労働者タイプB」でもありませんでした。仮に、現代にあって人生をやり直す機会があれば、もう少し経済的に要領のいい位置に立ちたいものだと思います。
1 30ページ超の解説文を書きました。労働者よりでも、資本家よりでもない「まんがの資本論」の解説で、われながら会心の出来です。かつての上下本が一冊にまとまって、私の解説が付いて、税込み990円の「プロレタリア価格」(?)です。ご興味のある方は、是非読んでみて下さい。
(山崎 元)
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