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ファイナンシャル・ウェルビーイング(幸福)視点で考える投資の効果

トウシル / 2023年10月24日 11時0分

ファイナンシャル・ウェルビーイング(幸福)視点で考える投資の効果

ファイナンシャル・ウェルビーイング(幸福)視点で考える投資の効果

個人の幸福度(ウェルビーイング)を左右する「お金の問題」

 昨年の11月に「『ファイナンシャル・ウェルビーイング』視点のお金と幸せ」というコラムを本連載でアップしたのですが、このコラムを出発点にしてそのまま「ファイナンシャル・ウェルビーイング」という本を出させていただきました。

 直訳すれば「よい状態」を意味するウェルビーイングですが、幸福あるいは健康を幅広く捉える考え方として、政府の行動指針や企業の人的資本経営の指針としても取り上げられるようになっています。

 個人の視点、特に「お金と幸せ」という視点でこれを考えてみたいというのが、ファイナンシャル・ウェルビーイングのテーマです。

 ちなみにOECD(経済協力開発機構)の定義では、ファイナンシャル・ウェルビーイングのことを「客観的および主観的な要因に基づいて、自分の現在および将来の財政を管理し、安全であると感じ、自由を持つこと」としています。

金融庁ホームページ G20/OECD金融消費者保護ハイレベル原則に関する理事会勧告(仮訳) 

 かみ砕いていえば、「現在と未来のお金の問題がクリアされていて、不安がなく、また選択の自由があること」というような感じでしょうか。

高いモノが買えるから幸せ、ではない

 定義は難しく表現していますが、私たちの「お金と幸せの関係」というのは複合的です。基本的には「うまい、早い、広い」のようなキーワードに代表されるようにぜいたくを極めるほうが満足度は高まります。同じ工業生産品なら値段の高いほうが満足度も高いでしょう。

 これはある程度の年代までは機能します。学生時代よりは社会人になってから、新卒社会人よりはアラサー世代になってからのほうが、より多く稼げるようになるので、より多くの出費をもって幸せを買い求めることができるようになります。

 ファミレスで誕生日を祝うのではなく、三つ星レストランをちょっと背伸びして予約することができるようになったりします。学生時代はバスに乗って日帰りでスキーに行っていたものを、温泉のあるホテルで宿泊して食事も楽しめるようになります。

 しかし、こうしたぜいたくも一定の限界を迎えます。年に1、2度、おいしい食事をすることはできても、毎週楽しむことは普通に考えて無理でしょう。それよりは、安い焼き鳥を居酒屋でつまみながら、仲の良い友人と2時間過ごすほうが楽しかったりします。

 先ほどの誕生日だって、本質的にはレストランのクオリティではなく「誰に祝ってもらえるか」のほうが幸福度を左右するからです。

 社会の成熟も、値段だけを幸せのバロメーターとしなくなります。iPhoneの新機種が高いといっても、100万円するわけではありません。宝石や高級時計のような金持ちと一般人の価格差はないものを誰もが利用するようになります。また一定程度の豊かさを手にしたあとは、「ほどほど」でもいいと感じるようになったりします。

 実際問題として、お金の多寡は幸福度を決定づけるわけではありませんが、日々の生活が困窮しているような状態、そして未来の経済的不安がくすぶっている状態では、私たちはなかなか幸せを感じにくいといえます。

 投資そして投資を通じた資産形成への取り組みは特に、未来の幸せを獲得するために重要な手段というわけです。

投資は2つの意味であなたを幸福にする

 それではなぜ、投資があなたを幸せにしてくれるのでしょうか。2つの意味があると私は考えます。ひとつは「未来の不安を解消する」効果があるからです。

 将来の経済的不安というのは先進国の国民にとっては避けようがない難問です。そもそも、今日や明日の生命の安全が確保されていない国、あるいは現在はまだ豊かでないが成長が著しい国に過ごす人たちは、将来の経済的不安は実感することができません。

 日本でも、団塊世代の人たちは老後の不安、それこそ「公的年金以外にも2,000万円程度の資産形成をしておくと安心だろう」というような不安を持っていませんでした。

 そもそも長生きを実感できませんでしたし、20年以上先の経済的状況など想像もできませんでしたし、国の社会保障制度に不信も抱いていないと同時に期待も理解もしていなかったからです。

 社会が安定し成熟するほど「目の前のお金の不安」の解消だけではなく「将来のお金の不安」をも解消していく必要がでてきます。そうしなければトータルのウェルビーイングを高めることはできないのです。

 iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を通じて、自身の資産残高を増やしていくことで、私たちは未来の経済的不安を軽くすることができます。少なくともNISAが残高ゼロであるより、120万円(つみたてNISA3年分)あるほうが心理的余裕が生まれます。そしてその付随効果として安心をベースにした幸福感が生まれます。

 それでは、もうひとつの投資からもたらされる幸福とはなんでしょうか。

もうひとつ、「心地よい投資」で自分の幸福度を高めてみよう

 投資について「残高が多いほど幸せになる」とだけ考えるのはちょっとつまらない話です。できることなら、資産形成のプロセスそのものも、もっと私たちの幸福度に資する仕組みとしたいところです。

 投資によって得られる値上がり益はなんでしょうか。もう一度、思いを巡らしてみてください。

 あなたの投資資金が、たくさんの企業のイノベーションの原資となり、世の中を豊かにする一助となります(債券なら国や地方自治体も含まれ、この場合は社会インフラの充実などの原資となる)。つまり投資資金は世の中をより豊かにしていくために使われているわけです。

 どんな企業経営者だって、世の中の役に立たなければ売上を高めることはできません。そして企業の成長を通じた株価の上昇や配当の実施が、私たちの投資資金を成長させることにつながります。

 新興国への投資は高い経済成長率を背景にした高成長が期待できますが、これはすなわち、その国の豊かさの獲得があなたのリターンの一部ということです。

 世界が豊かになったら、結果として自分の資産も豊かになった、というようなイメージを持てると、投資から得られるウェルビーイングはさらに高まるのではないかと思います。

 これは、指数連動型の投資信託「インデックスファンド」への投資であっても、個別企業への投資や、指数を上回る成績を目指す投資信託「アクティブファンド」への投資であっても同様に得られますが、個別株やアクティブファンドのほうがよりダイレクトに企業の成長を感じやすいのは確かです。かといってインデックス運用が経済の成長と対立しているわけではありません。

 そしてもうひとつ、こうした視点で投資を考えると、基本的には長期投資になります。企業のイノベーションが起きたり売上を軌道に乗せたりするためには一定の時間が必要となるからです。

 投資スタンスを、自分だけの短期的な利殖に位置づけるのではなく、経済成長のシェアだと考えてみると、投資を通じた幸福度の向上は一層高まるのではないでしょうか。

(山崎 俊輔)

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