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「永遠のゼロ」終わる可能性も、日銀政策修正は来年春闘が焦点 門間一夫日銀元理事

トウシル / 2023年10月24日 11時0分

「永遠のゼロ」終わる可能性も、日銀政策修正は来年春闘が焦点 門間一夫日銀元理事

「永遠のゼロ」終わる可能性も、日銀政策修正は来年春闘が焦点 門間一夫日銀元理事

 日本銀行の金融政策決定会合が10月30、31日に開かれます。物価上昇が長引き、日銀の大規模金融緩和政策の修正に市場関係者の関心が集まっています。日銀で金融政策担当理事を務め、*2%の物価安定目標の作成にも携わったみずほリサーチ&テクノロジーズの門間一夫エグゼクティブエコノミストに話を聞きました。

10月政策決定会合で物価見通し引き上げあっても見どころなし

──10月の金融政策決定会合では会合後に、四半期ごとの「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」が公表されます。物価見通しが上方修正されるとの見方も報じられています。

 正直に言って、今回の会合に見どころはあまりありません。2023年度の物価見通しは報道にもあった通り上方修正されると思います。ただ、2023年度の見通しだけでは2%物価目標が実現するかどうかは判断できず、2024、2025年度といった先々の見通しが重要です。今年度はどんなに上方修正になっても政策に全く関係ありません。

*2%の物価安定目標 物価が持続的に下落するデフレから脱却するため、日銀が2013年1月に、物価安定の目標として消費者物価の前年比上昇率を2%と定めたもの。政府と日銀の共同声明として公表され、安倍政権の経済政策の柱となった大規模金融緩和を日銀が進める根拠となった。日銀の植田和男総裁は、実現が見通せる状況になれば、政策修正を検討するとしている。

政策修正するか焦点は来年春闘、4%近い賃上げ実現にかかる

──2024年度以降の物価見通しは何によって決まりますか?

 日銀が最も重視しているのは賃金です。今の物価上昇がどうして政策に関係ないかというと、ほとんど海外の影響だからです。企業が海外から輸入する商品の値動きを示す輸入物価指数がひところ2020年平均との対比で約9割まで上がりました。それだけ上がったら、国内の物価が前年より3、4%上がるのは当たり前です。輸入物価が上がったので、企業が販売価格に転嫁しただけの話です。

 日銀はもともとこんなに転嫁できないと思っていたので、物価見通しの上方修正を繰り返しています。ただ、あくまでコスト上昇分の価格転嫁なので、それが一巡すれば物価上昇も止まってきます。

 

 日銀の目標は海外の影響と関係なく、国内だけで自律的に物価が上昇するメカニズムが働くようになることです。賃金が上がるから物価が上がる、物価が上がるから賃金がまた上がる、そうした物価と賃金の相互作用で上がり続ける。

 そのペースが大体、物価は前年比2%。賃金は物価より少し高い2%プラスα(アルファ)くらいです。そういう状況を日銀は目指しています。日本の賃金は春闘がベースなので、来年の春闘が一番の見どころです。

──来年の春闘でどのくらいの賃金上昇があるかポイントになりますか?

 今年の春闘での主要企業の賃上げ率は3.60%で、1993年以来の30年ぶりの高さでした。ただ、今年限りではだめです。

 来年の春闘で4%かそれに近い賃上げができると、輸入物価に関係なく、日本国内で賃金と物価の両方が上がるメカニズムが働き始めている、という判断ができる可能性があります。その判断に基づいて、日銀は政策を変えることになります。来春くらいにそういう状況が生まれる可能性が高まっている、という感じだと思います。

 ただ春闘が仮に良くても、中小企業の賃金が上がりそうにないとなれば、日銀も慎重に判断せざるを得ません。米国が来年、景気後退に入ったり、中国経済が不動産問題などでさらに調子が悪くなったりすれば、日本にも波及してくるので、日銀も政策修正に踏み切ることができないかもしれません。

マイナス金利解除とYCC撤廃の同時実施も

──マイナス金利の解除やYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)の撤廃、QT(量的引き締め)など緩和政策からの出口戦略について、日銀はどうやって進めていくと思いますか?

 恐らく日銀が最初に手を付けるものはマイナス金利解除とYCC撤廃の二つですね。どっちを先にやるか、日銀も決めていないと言っています。ただ、どちらも2%物価目標の実現が見通せる状況になったら検討することになっていて、条件は同じです。同時に両方ともやめてしまうのが一番すっきりするように思います。

 

──両方ともですか?

 はい。マイナス金利もYCCも、これまで物価目標を実現するための異例の手段として用いてきたわけです。物価目標を実現できるとなると、続ける意味がありません。どっちかだけ続けてもう片方を残すというのは理屈が立たないので、両方とも同時にやめるのが一番すっきりします。

 細かいことを言えば、その時の長期債市場の動向を勘案して、YCCをやめるのを少し後ずれさせるとか、逆にYCCを早めにやめた方がいいと考えるかもしれません。そこは市場の状況次第の面もありますが、基本的にやめるタイミングにあまり差はないとみています。

 

10月会合でも長期金利上昇なら、YCC一段の柔軟化はあり得る

──米国の金融引き締めが長期化するとの見方から、日本の長期金利が0.8%台まで一時上がりました。​長期金利がYCCでの事実上の上限である1%を超える可能性はないでしょうか?

 ないとは言い切れません。特に米国の金利情勢によっては、日本の長期金利も1%近くまで上がる可能性があります。日銀は、2%物価目標の実現だけではなく、マーケット機能の維持も重視しています。

 長期金利の市場実勢がどんどん上がっているのに、日銀が無理やり低いところに金利を抑え込もうとすると市場機能が壊れていきます。そのため、物価目標が実現できる前でも市場の機能にある程度配慮して、YCCは続けるがその修正をする、ということはあり得るわけです。

 昨年12月や今年7月にYCCの修正をして、長期金利が以前よりもう少し上がっても良い形にしたわけですね。昨年12月は、変動幅の上限を0.25%から0.5%に上げました。今年7月は0.5%から1%まで上限を事実上一気に上げたわけです。

 ただ7月の上限引き上げは本当に1%まで上がると想定したわけではなく、念のため高い上限を設けました。あまり急激に変動する場合は日銀が国債の買い入れオペ(公開市場操作)をして金利を抑えにいく形に修正したわけです。

 そういう観点からすると、来年の春闘結果が分かる前でもYCCの修正はあり得るわけです。さすがに今は長期金利の上限が1%と高いので、修正の可能性が高いとは思いません。

 しかし、米金利が上昇したり、市場が日銀よりも先んじて2%物価実現を織り込みにいったりすると、1%の上限でも守り切れない可能性が出てきます。10月末の会合まで何が起こるか分かりません。場合によってはYCCをもう1回修正する可能性はあります。毎回ライブ会合なんです。

──オーストラリア準備銀行がYCCと似た政策を2020年3月に導入してその後、インフレ加速による金利上昇を抑えられず、金利操作を撤回せざるを得ない状況に追い込まれました。日銀もそうした事態に陥る可能性はありますか?

 日銀は事前にオーストラリア中央銀行の失敗例を見ることができたわけです。日銀はそこから教訓を学びながら、YCCで抑える長期金利水準が市場実勢とあまり乖離(かいり)しないように、徐々に変動幅の上限を上げてきました。もし今、上限が昨年の0.25%のままだったら、本当にオーストラリア準銀みたいなことが起きた可能性があります。

短期金利「永遠のゼロ」終わる可能性も、変動金利は「賭け」に

──短期金利のマイナス金利を解除したり、YCC撤廃で長期金利を低く抑えることをやめれば、住宅ローンの金利が上がったり、企業が借り入れる際の利率が上がったりする恐れがあります。経済への影響はどう考えたらいいでしょうか?

 マイナス金利解除とYCC撤廃だけなら、それほど大きな影響は出ないと思います。問題はどれくらい長期金利と短期金利がその後、上がっていくかということです。

 日銀がマイナス金利を撤廃しても、マイナス0.1%から0%にわずかに上がるだけです。しかも、マイナス金利が適用されているのは民間銀行が日銀に預ける当座預金のごく一部だけで、銀行の貸出金利のほとんどに影響しないと思います。

 日銀がマイナス金利解除後に、短期金利を0.0%から0.25%、0.5%、場合によっては1.0%、2.0%と上げていけば、銀行の住宅ローンの変動金利にも影響が出てきます。

 住宅ローンの固定金利は長期金利にほぼ連動しているので、既にちょっと上がり始めています。どのくらい上がるかは最終的には日銀が短期金利をどれくらい上げるかにかかっています。長期金利は10年金利なら、向こう10年の短期金利がどうなるかについての市場予想によって決まります。

 日銀が短期金利のマイナス金利をやめても、マーケットがその後もずっと0%だと予想すれば、長期金利もほとんど上がりません。だから、日銀が結局、短期金利を今後2、3、5年の期間でどのくらい上げるかによって、全然違います。今から正確な予想はできません。まさにそこが変動金利のリスクですね。

 変動金利が2年後、3年後、5年後に何%なのか誰も分かりません。はっきり言えば、変動金利でお金を借りるのは「賭け」ですよね。賭けに勝つ場合もあれば、負ける場合もある。賭けをするなら、負けても仕方ないと割り切ってそのゲームに参加する心構えが大事になるわけです。

──いままで低金利に慣れ過ぎていたから、マインドチェンジが必要ということですか?

 私は2年くらい前まで、「永遠のゼロ」と言っていたんです。金利はずっとゼロだから、変動金利は全くリスクがないと。でも、状況が変わってきました。今の時点で必ず上がると言い切れませんが、永遠のゼロと言えない可能性がかなり出てきています。

 どちらに転ぶか分かりませんが、日本に2%のインフレが定着すると、金利がそれより低いのはおかしいので少なくとも2%には上がると思います。日銀が決める政策金利が2%になれば、住宅ローンの変動金利が2.5%や3%になる可能性があります。

 日銀がマイナス金利を解除するのは、2%物価目標の実現を見通せるようになったと判断した時ですが、来年や再来年になったら経済の弱さが露呈したり、物価がまた上がらなかったりすることも十分あり得るわけです。そうなると物価上昇率も1.5%や1%と、小さなプラスにとどまることもあり得ます。

 日銀としては物価を毎年2%上昇させることが一番の目的です。目標より低ければ、なるべく金融緩和を続けて、物価が上がりやすい環境を維持しようとします。マイナス金利をやめても、そこから金利を上げる理由がありません。

 逆に、2%目標をクリーンに達成すると、その後インフレが3%、4%と進んでしまうリスクもあります。その場合は金利を引き上げて、景気への悪影響をある程度覚悟の上で、物価を抑えざるを得なくなるわけです。

 中央銀行は景気を悪くしたいと思っているわけではありません。金利の上昇で借り入れコストが上がって困る人が出てほしくないし、上げなくていいなら上げません。ただ、物価が2%を超えて高い状態が続くと、金利を上げて物価を抑えないといけない。その可能性が今はゼロではなくなってきているということです。

──これまで物価が下振れするリスクが大きかったと思いますが、これからは上振れするリスクも意識されつつあるということですか?

 今後は両方あります。かつては物価の上振れリスクは心配する必要がなかったわけですけど、物価上昇が2%を超えた状態が続き、金利を2%かそれ以上にしなければならないリスクも出てきています。

 日銀はマイナス金利を解除した後も、ずっと2%物価目標に沿って政策を決めるので、2%よりも高いインフレが続くのか、低いインフレが続くのかによって、金利水準は全然違ってきます。2%近くでも2%より下のインフレが続くなら、金利は0%からそれほど上がらないことも十分ありえます。

 過去1年半くらいの米国や欧州の状況は参考になります。米国は昨年初めまで政策金利はゼロでした。欧州に至っては、民間銀行がECB(欧州中央銀行)に預ける際の金利(中銀預金金利)は昨年7月までマイナス0.5%でした。

 ECBは日銀よりもっと深いマイナス金利をしていたのに、マイナス0.5からプラス4.0%まで、一年ちょっとで上げてきました。こうした例が世界にあるわけです。日銀もプラスに上げる可能性が出てきたことは無視できない変化です。

──日銀がこれまで大量に買い入れた国債やETF(上場投資信託)はどのように市場に放出していきますか?株式相場の下落など影響は出ませんか?

 国債の保有残高をどうやって落とすか、日銀からまだ何の情報発信もないので分かりません。米国も欧州も金利を上げ始めてしばらくしてQT、国債の保有残高を落としているので、日銀も同じようにする可能性が高いと思います。

 ただ、他の中央銀行もそうですが、マーケットへの影響をあまり与えないよう緩やかにバランスシートを小さくしていくので、大きな意味があるものではないと思います。

 むしろその手前でどれくらい金利を上げられるかの方がはるかに大事で、米国のFRB(連邦準備制度理事会)もECBも政策の主要ツールはあくまで政策金利だと言っています。QTはあまり気にすることはないですね。

 それから、買い入れたETFはどうするか、永久に持っていても問題ないもので、もしかすると永久に持っているかもしれません。もしくは徐々にマーケットに戻していくことが素直なやり方ですね。

 ただ、相当なスピードで買い入れたので簿価で40兆円近い残高になっています。時価ではもっと高いですけど、それを年2,3兆円のペースで売っていくとマーケットインパクトが出る可能性がありますから、もっとはるかに緩やかに進めるとすれば、残高を全部落とすのに数十年、百年単位かかる話になります。

 ETFは持っていても非常にまずいわけではないので、それでいいと割り切る可能性がありますね。追加的な買い入れはマーケットをゆがめる問題が途中から起きてきたので、今はマーケットが前場で大きく下がった時にごく限定的に実施しています。フローではほとんど買っていないので、今の状態がほぼ最終形だと思います。

植田総裁が最も避けたいのは「早すぎる緩和停止」

──植田総裁は日銀の審議委員だった2000年8月の政策決定会合でゼロ金利解除に反対しました。当時は慎重に見極めたいとの立場でした。慎重さが今回の政策修正の判断に影響しませんか?

 日銀がなぜ慎重かというと、これまで10年間異次元緩和をして、ほぼゼロ金利だった期間も含めると25年くらい金融緩和をしてきました。25年間かかって、ようやく2%物価目標が実現できるチャンスが初めて巡ってきたんです。これに失敗すると、チャンスはあと25年来ないかもしれません。日銀は絶対に失敗できないと考えています。

 金融緩和をやめるのが早すぎる失敗と、遅すぎる失敗があり得るわけです。早すぎると、2%物価目標は実現できるはずだったのに実現できない、ということになります。逆に遅すぎると、2%を超えるインフレが続いてしまうリスクが大きくなります。

 植田総裁は、どっちのリスクを小さくしたいかという質問に対して、早すぎる緩和停止の方をより避けたいと答えています。早すぎる失敗だけはしたくない。遅すぎる失敗はしてしまったらごめんなさい。そこは非対称なんです。

 

 総務省が発表する全国CPI(消費者物価指数)の生鮮食品を除く総合指数は昨年4月以降、前年と比べた上昇率が2%を超えています。

 それでも植田総裁が2%物価目標に距離があると言っているのは、緩和を早くやめる間違いだけは絶対にできない、という面もあるのです。25年間やって初めてつかんだチャンスです。仮にものにできないにしても、最大限の力は尽くした、ということにしたいわけです。

 中央銀行がなぜ2%の物価目標を掲げているかというと、景気が悪くなった時の利下げの余地を確保するためです。インフレがずっとゼロだと金利もほぼゼロにしないといけなくなります。日本は過去25年間、そういう状態だったので、金融政策をうまく使えませんでした。

 日銀が過去10年の金融緩和を「異次元」という言い方をしたのは、本当は金利を下げたいのにもう下げる余地がなかったので、仕方なくそういう言葉で緩和の効果を大きく見せようとした、ということなのです。

 棋士の藤井聡太さんの才能は異次元、という時の文字通りの異次元とは違うのです。異次元の金融緩和という時の異次元は、最も効果が期待できる「利下げ」という選択肢がない中で、苦し紛れにひねり出された一種の演出だったわけです。

 そして、日銀がそういう苦し紛れの政策を行わなければならなくなる、というのがゼロインフレの問題点なのです。

 もし、普段からインフレが2%ぐらいあれば、金利も2%あるいはそれ以上にしておけますから、景気が悪くなった時に1%、さらには0%まで下げて、景気刺激効果を生むことができます。それが日銀の2%物価目標の狙いであり、その点は他の中央銀行も同じです。

「待つことのコスト」小さければ待つ、ゼロ金利解除反対時から変わらず

──年内の衆議院解散・総選挙も取り沙汰されていますが、選挙時期が日銀の金融政策に影響することはありますか?

 あまり影響はないと思います。もしインフレがものすごく進んで、早く金利を上げないといけない状況になったら、日銀は選挙と関係なく金利を上げると思います。

 ただ、今のインフレはそういう状況ではありません。2%物価目標の実現が見通せる状況かどうか、その上でマイナス金利を解除するか、日銀は微妙な判断をしようとしているわけです。その判断を今しても、2、3カ月後ろにずらしても大した影響はなく、いつが良いかベストの判断をしよう、という状況に今の日銀はあるわけです。

 昨年の米国や欧州のように利上げを1回でもし損なうと手遅れになるという状況なら別ですが、今の日本でそこまで一刻を争う必要はありません。

「待つことのコストが小さい」ということが、2000年のゼロ金利解除決定の時に反対した植田さんのキーワードでした。待つことのコストが小さいのだから、今焦ってゼロ金利を解除する必要はない、もう1回待とうと主張して反対しました。植田さんは今も、待つことのコストを頭に入れながら、手遅れになるのかならないのかをじっくり考えていると思います。

政府・日銀のデフレ脱却宣言、「需給ギャップ解消」がラストピース?

──「需給ギャップ」について、政府(内閣府)の推計だと2023年4‐6月期がプラス0.1、日銀の推計ではマイナス0.07でした。いずれにしても需要が供給を下回る状況は改善してきています。政策金利の決定に関するテイラー・ルールでは需給ギャップが縮まると、緩和の必要がなくなると考えられますが、どう見たらよろしいですか?

 需給ギャップは、いろいろな前提を置いた上で粗い推計しかできない概念です。日銀と政府で使う式が異なるので数字も違います。政府はプラス0.1%、日銀はマイナス0.07%ですが、過去の改定幅などを見ても、これは完全に誤差の範囲内です。

 プラス1%と推計されていても、本当は0%かもしれない、というぐらいの幅のある指標なので、0.1%の次元でプラスかマイナスか議論する意味は全くありません。

 需給ギャップが強い時は理論的にはインフレになりやすく、弱い時はデフレになりやすい。だから日銀も一応見ているけど、精度が高い指標ではないので、何%になったらどのくらい金利を上げる、という機械的な使い方はしていません。

 ただ、一つ大事な点は、政府は今もデフレ脱却とちゃんと宣言していないことです。政府はリーマン・ショックの翌年2009年11月にデフレ宣言を出していますが、今も出たままです。政府が、デフレ脱却と言う時は四つの指標で判断すると公表していて、CPI、GDPデフレーター、単位労働コスト、需給ギャップです。需給ギャップ以外の三つは完全にクリアしています。

 需給ギャップもクリアして全部そろうと政府はデフレ脱却宣言を出しやすくなるわけです。私は、需給ギャップは信頼すべき指標ではないので、大事な宣言の判断に使ってほしくないのですが、政府は参考にして決めると言っているので、需給ギャップがプラスにならないとデフレ脱却宣言を出せない可能性が高いわけです。

 さらに言うと、「デフレ脱却」と「2%物価目標の実現」はほぼ同義です。なぜかというと日銀の2%物価目標は2013年に政府と日銀の共同声明という形で決まったわけです。

 デフレ脱却に向けて政府と日銀が政策を連携していく一環として、2%物価目標が導入されたわけです。だから、それが実現できたと日銀が判断する場合、政府のデフレ脱却宣言と足並みをそろえることが恐らく必要になります。

 日銀にとって来年の春闘が一番の焦点ですが、政府もその時に、賃金がこれだけ上がったのだからもうデフレ脱却だ、と認識をすり合わせてくれないと困るわけですね。政府と日銀が10年間、政策連携をしてきたのに、最後の最後で連携が乱れるのはまずい。最後も「デフレ脱却」「2%物価目標実現」と認識をそろえる必要があります。

 そういう意味からすると、政府が推計する需給ギャップは日銀の政策にも影響してしまいます。これから半年くらい注意深く見る必要がありますね。(インタビューは10月16日に行いました。聞き手はトウシル編集チーム・田嶋啓人)

門間一夫(もんま・かずお)氏  1957年生まれ。1981年日本銀行。2007年6月から調査統計局長として、リーマン・ショックや東日本大震災に見舞われた日本経済を分析。2011年4月から企画局長、2012年5月から金融政策担当理事を務め、2%物価安定目標の宣言に至る局面を担当。2013年3月から国際担当理事として、日米欧の先進7カ国(G7)や20カ国・地域(G20)など国際会議に出席。2016年6月から、みずほリサーチ&テクノロジーズエグゼクティブエコノミスト。著書『日本経済の見えない真実』(日経BP、2022年9月)

(トウシル編集チーム)

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