米FRB議長タカ派姿勢緩め年内利上げ断言せず、ドル上値重い展開も
トウシル / 2023年11月8日 16時0分
米FRB議長タカ派姿勢緩め年内利上げ断言せず、ドル上値重い展開も
米FRB、2会合連続利上げ見送り
米国の中央銀行に当たるFRB(米連邦準備制度理事会)は10月31~11月1日のFOMC(連邦公開市場委員会)で市場予想通り、利上げ見送りを決定しました。2会合連続の見送りとなり政策金利は5.25~5.50%を維持しました。
利上げ見送りの背景として、FRBのパウエル議長は「昨年から今年にかけての利上げの効果は確実に表れている。今、ペースを緩めることで追加利上げが必要か判断の精度を高められる」と説明し、「金融環境はここ数カ月、長期金利の上昇が主導する形で大幅に引き締まった。今後の不確実性などを考慮しながら慎重に政策を進めている」と説明しています。
この金融環境の引き締まりについては、FOMCでの声明文にも盛り込まれています。声明文では、経済活動が「力強いペースで拡大」との文言が追加された一方、「金融環境の引き締まりが経済活動の重しとなる可能性がある」との表現も加えられました。信用状況や長期金利の上昇に非常に強い関心を持っており、重視する方針を示しています。
パウエル議長年内利上げ断言せず、ドル安円高に
パウエル議長は、今後の利上げについて「2会合連続で見送ったからといって、次回の12月会合でも利上げしないとは限らない」と述べ、追加利上げの可能性に含みを残しました。その上で、経済指標などを幅広く分析し、判断する考えを改めて強調しました。
しかし、9月時点の2023年末金利見通しは5.625%だったため、見通し通りだと年内あと1回、つまり12月に利上げする必要があるため、その前の会合である今回、次回利上げを示唆するのが作法ですが、次回利上げについては断言しませんでした。
この慎重な言い回しによって、市場は総じてパウエル議長のタカ派姿勢は緩んだと捉えたようです。また、利下げについては「現時点では全く考えていない」と否定しました。
まとめてみますと、
- 2会合連続の利上げ見送りの背景は、利上げ効果が表れており、最近の金融環境引き締まりで利上げ代替効果が出ているため、慎重に政策運営を進める。
- 次回利上げについては含みを残したが、FRBの見通し通りなら今回示唆する必要があった が、次回利上げを断言しなかった。
- 利下げについては「現時点では全く考えていない」と否定。
- 金融環境の引き締まりが経済活動の重しとなる可能性があると、足元の金利上昇による景気への悪影響について正式に言及。
となりますが、金融環境の引き締めによる「経済活動の重し」が11月1日の米10月ISM製造業景況指数や3日の米雇用統計によって確認されました。
11/1(水) 米10月ISM製造業景況指数の低下(9月の49.0から46.7、予想49.0からも低下)
11/3(金) 米10月ISM非製造業景況指数の低下(9月の53.6から51.8、予想53.0からも低下)
11/3(金) 米10月雇用統計(非農業部門雇用者の増加数の低下(前月29.7万人から15万人に低下、予想18万人からも低下、過去2カ月分も10.1万人減)、失業率の悪化(3.8%から3.9%)、平均時給の鈍化(前月比0.3%増から0.2%増)
そして、米財務省が11月1(水)に発表した、11月から来年2月にかけての長期債発行予定額が抑制的であったことから米長期金利が低下しました。
パウエル議長のタカ派姿勢が緩んだことや、米経済指標の伸び鈍化、米国債発行計画は抑制的なものだったことによって、FOMC発表前の10月31日には4.9%台だった米10年債利回りが、11月3日には4.5%台に低下しました。外国為替市場ではこの米長期金利低下を背景に、ドル相場は31日終値1ドル=151円台後半から、3日には1ドル=149円台前半まで下がり、ドル安円高となりました。
米つなぎ予算期限間近、政府機関の閉鎖懸念で市場混乱も
今週に入って、米長期金利の低下が一服し、戻している状況(利回り上昇)となっています。この動きに伴って、ドル相場も1ドル=150円台に上昇しています。米長期金利が再び5%を目指すなら、1ドル=152円を目指す勢いが出てくると思いますが、米景気の先行き不透明感からそこまでの金利上昇は難しそうです。7日の米10年債利回りは再び4.5%台に低下しています。
米国2023年7-9月期GDP(国内総生産)は前期比年率換算で4.9%増と伸び率が加速しましたが、今後は減速するとの見方が大勢となっています。これまでの利上げの影響や金融環境引き締まりによってどの程度「経済の重し」となるのか注目です。速報性があることから市場が注目しているアトランタ連邦準備銀行のGDPナウは、2023年10-12月期GDPを2.1%増と予測しています(11月7日時点)。
また、11月17日は米国つなぎ予算の期限を迎えます。17日までに歳出関連法案が可決されるのかどうかがポイントです。連邦議会が混乱すると、再び米政府機関閉鎖や米国債の格下げが懸念され市場も混乱します。ドル安、債券安(金利上昇)、株安のトリプル安にならなければ良いのですが。
米利下げ期待、景気後退で高まる可能性も、ドル上値重く
一方、ユーロ圏の7-9月期GDPは実質年率0.4%減と3四半期ぶりにマイナスとなりました。ユーロ圏のGDPの3割を占める最大の経済国ドイツは前期比0.1%減となっており、先行きも低迷を続ける予想となっています。
ドイツがこういう状況ですから、ユーロ圏の回復は遠いかもしれません。インフレが急低下していることから(9月4.3%→2.9%)、米国よりも早く利上げ打ち止めから利下げモードに入ってくるかもしれません。
また、中国は景気後退から回復傾向が見られましたが、もたついている状況が続いています。7日には、中国の原油需要の先行き不透明感から、国際的な取引指標となるWTI原油先物は急落し、1バレル=80ドルを割れました。
10月末から11月初めの日米それぞれの金融会合では年内の日米金融政策の方向が再確認されたことから、方向の違いによる円安の構図は11月も続きそうです。ただ、世界経済の先行きの不透明感が高まっていることが波乱材料になることが予想されます。
景気の減速はFRBの金融政策にも影響を与えるため、FRBの関心も今から年末、来年にかけて、インフレ抑制から景気全体に移ってくるのではないでしょうか。
市場の焦点もFRBによる追加利上げの有無から、どの程度の期間高金利を継続するのかに移っていくと考えられます。市場予想以上に米景気が後退すれば、この期間が短縮される可能性や、パウエル議長が否定する利下げ期待が高まる可能性があります。ドルの上値も重くなることが予想されます。
日本政府の為替政策の実務を取り仕切る財務省の神田真人財務官の「スタンバイ」発言もあり介入警戒感もくすぶり続けることから、一方向の円安というよりも上下に乱高下しながら徐々にドルの頭が重たくなってくるのではないでしょうか。
(ハッサク)
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