12月、日銀サプライズは再来する?「債券市場サーベイ」と「多角的レビュー」のワークショップ(愛宕伸康)
トウシル / 2023年12月6日 8時0分
12月、日銀サプライズは再来する?「債券市場サーベイ」と「多角的レビュー」のワークショップ(愛宕伸康)
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著者の愛宕伸康が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「12月、日銀サプライズは再来する?~「債券市場サーベイ」と「多角的レビュー」のワークショップ~」
日本銀行は12月1日、「債券市場サーベイ(2023年11月調査)」を発表しました。ちょうど一年前、このサーベイが市場機能の大幅低下を示した結果、日銀は直後に開催した2022年12月の金融政策決定会合で、長短金利操作の運用を柔軟化するという措置をサプライズで決定しました。
今回は通常のサーベイに加え、特別調査まで実施しています。さらに4日には、これまでの金融政策を検証する「多角的レビュー」の第1回ワークショップも行われました。今回も日銀は動くのか。債券市場サーベイの結果やワークショップの情報とともに考えてみます。
昨年12月のイールドカーブコントロール修正は債券市場サーベイが材料だった
まず、昨年12月の政策変更から簡単に振り返っておきましょう。昨年の債券市場は年始から波乱含みでした。3月からFRB(米連邦準備制度理事会)の利上げが開始され、急ピッチで上昇する米長期金利につられる形で日本の長期金利(10年)も上昇し、3月下旬には日銀が上限とする0.25%に張り付く状況となりました。
それ以降、海外勢を中心とする国債売りに日銀が「連続指値オペ」で買い向かうという構図が続き、国債の市場流動性が極端に低下することとなりました。イールドカーブが歪み、先物のヘッジ機能が低下。裁定取引が滞っただけでなく、契約期限内に国債の受け渡しができなくなるフェイル(決済不成立)が多発するなど、さまざまな副作用が強まりました。
こうした状況を受けて、「イールドカーブコントロールのもとで金利を引き上げるつもりは全くないし、±0.25%というレンジも変更するつもりもない」(7月金融政策決定会合後の記者会見)とかたくなだった黒田東彦総裁(当時)の態度が変わります。
9月金融政策決定会合後の記者会見で、「8月の債券市場サーベイを見ると、債券市場の機能度判断DIは前回5月の調査との比較でマイナス幅が拡大している。日本銀行としては、従来から国債市場の機能度に配慮してさまざまな手段を講じてきた。債券市場の動向については引き続き注意深くみていきたい」と表明しました。
その言葉通り、12月1日に発表された債券市場サーベイ(2022年11月調査)の結果がさらに悪化したことを受けて、日銀は12月金融政策決定会合で、それまで±0.25%としていた長期金利(10年)の変動幅を±0.5%に拡大しました。この決定を多くの市場関係者はサプライズと受け止めましたが、実は9月の段階で黒田総裁はヒントを出していたのです。
今回の債券市場サーベイは日銀を動かすような結果ではない
日銀は、債券市場の機能が低下するたびに、異次元緩和の持続性を高めるためという理由で、イールドカーブコントロールの修正を行ってきました。図表1は、債券市場サーベイの「貴行(庫・社)からみたビッド・アスク・スプレッドについてご回答下さい」という質問に対する回答の比率が、3カ月前と比べどう変化したかをグラフにしたものです。
ビッド・アスク・スプレッドとは、債券の売り手が売りたい価格と、買い手が買いたい価格との乖離(かいり)のことで、その拡大は流動性が低下していることを意味します。グラフでは、マイナス幅が拡大すると国債の流動性が3カ月前と比べ低下したことを示しています。
<図表1 ビッド・アスク・スプレッドに対する質問(3カ月前と比べた変化)>
グラフから、確かに国債の流動性が低下したタイミングで、日銀が動いていることが見て取れます。マイナス金利政策を採用した2016年1月の後、流動性が大幅に低下するとともにイールドカーブの平坦化が過度に進行したため、その対応として同年9月にイールドカーブコントロールが採用されました。
また、2018年7月や、前述した昨年12月の長期金利変動幅拡大のときも、流動性が低下していたことが確認できます。こうした観点から今回の2023年11月調査を見ると、日銀に対応を迫るような結果ではなかったと言えそうです。
正常化へのステップI(イールドカーブコントロールの形骸化)は完了している
日本銀行の正常化への道のりは、2段階に分けて考えることができます。最初のステップはイールドカーブコントロールの形骸化、すなわち長期金利の決定メカニズムを市場に戻すという作業です。それをステップIと呼ぶとすれば、前述した昨年12月の長期金利変動幅拡大からその動きは始まっていたとみることが可能です。
さらに、植田和男総裁になって、今年7月と10月にイールドカーブコントロールの運用を柔軟化し、長期金利の上限を1%超まで段階的に引き上げてきました(図表2)。
筆者の推計によると、ファンダメンタルズから見た10年金利の理論値が1%弱であることや、足元の10年金利が0.7%程度まで落ち着いてきていることを踏まえると、10月に行った柔軟化でステップIは完了したとみることができます。
4日に非公開で行われた「多角的レビュー」の第1回ワークショップも、政策変更に直接影響するような議論はなかったようですので、12月18~19日に開催される金融政策決定会合で、また政策修正が行われる可能性は極めて低いとみています。
ステップIを完了した今、現在の政策スキームを修正する段階は終わり、次なるステップII、すなわちマイナス金利政策の解除に向けて、着々と準備を進めている段階に移っているとみています。
<図表2 日本の10年金利>
正常化へのステップII(マイナス金利解除)への「特別調査」のインプリケーション
今回の債券市場サーベイで追加的に実施された「特別調査」を見ると、ステップII(マイナス金利解除)に向けた本気度が少し伝わってきます。特別調査では、25年にわたって続けてきた非伝統的金融政策が、国債市場にどのような影響を及ぼしたかについて、以下の局面ごとに尋ねています。
局面I: 1990年代後半~2013年4月(量的・質的金融緩和<QQE>導入前)
局面II: 2013年4月~2016年1月(QQE導入後)
局面III: 2016年1月~2016年9月(マイナス金利導入後)
局面IV: 2016年9月~2021年12月(イールドカーブ・コントロール導入後)
局面V: 2022年~(足もと)
中でも目を引いたのが、円債取引に係るリソース(人材面、システム面、資本配賦面)への影響に関する質問です。2006年の量的緩和解除のときも、それまで日銀の金融調節が量で行われてきたことから、人員やスキルの観点から金利を目標とする金融調節に戻したときに、金融機関がスムーズに対応できるかどうかが懸念されました。
そのことから連想すると、今回の人員面やシステム面に関する質問も、正常化を見据えた調査の一環だと考えられます。その結果を示したものが図表3と図表4です。
<図表3 債券市場サーベイ特別調査(異次元緩和後のリソースの変化)>
<図表4 債券市場サーベイ特別調査(リソースが十分かどうか)>
回答した70先のうち44%、31先が異次元緩和以降、円債部門の人員を削減したと答え(図表3)、43%の30先は人員が不十分だと答えています(図表4)。
ここから得られるインプリケーションは、マイナス金利の解除とともにいきなりイールドカーブコントロールを撤廃するのは危険だということです。長期金利が跳ね上がることを防ぐため、10年金利の上限を参照レートとして残すなどの慎重な措置が望まれるということではないでしょうか。
(愛宕 伸康)
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