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<7>投資で儲けたカネは汚い?ハイブリッド社員とは

トウシル / 2024年9月21日 11時0分

<7>投資で儲けたカネは汚い?ハイブリッド社員とは

<7>投資で儲けたカネは汚い?ハイブリッド社員とは

 

※この記事は2018年3月30日に掲載されたものです。

 

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第2章 資本主義に飲み込まれるか、味方にするか?

<第3話>投資で儲けたカネは汚い?ハイブリッド社員とは

 今度は、「稼ぐ」という言葉が隆一の頭の中でグルグル回り始めた。自分も、もっと稼がなきゃいけないのかなと思う半面、稼ぐばかりが人生じゃないとも思う。

 週末にはゆっくり寝たいし、家族とショッピングモールにも行きたい。妻は週末も資格の勉強などをして、もっと私に稼いでもらいたいと思っているかもしれないが…。

「稼ぐというと、『もっと、働け!』と言われているように聞こえるかもしれません。特に長時間労働が習慣のようになっている日本人にしてみれば、『たくさん、長時間働け!』となりそうで抵抗があるでしょう。もちろん私は、そんなことを言っているのではありませんよ」

 それを聞いて、隆一は少し安心したが、<副業するようなパワーはないな>とも思っていた。

「資本主義では確かに『稼ぐことは善』ですが、でも、資本主義での稼ぎ方は、勤労ばかりではありません。所得を生み出す生産には、店舗や工場などの生産設備を調達したり従業員を雇ったりするために資本が必要です。そこから生み出された利益は、資本の提供者である株主とそこで働く労働者とに分配されます。しかし、投資を通じて株主になれば資本の提供者にもなるわけですから、資本の対価と労働の対価の両方を受け取れます。つまり、<ハイブリッド社員>になるのです」

「ハイブリッド社員?はじめて聞きました」

「そう、ハイブリッド車がガソリンと電気の2つで動くように、あなたも給与と投資の両方で資産を増やすのです」

 隆一は、そのハイブリッドという言葉の持つ、自分にはどこか縁遠いと思っていた響きが気になった。

お金に働いてもらう。その金は、汚いか?

 さらに、先生は続けた。

「経済成長とともに働く人の所得も増加した高度成長期とは違い、いまの日本は、賃金が上がらないという現象が顕著です。一方で、配当金を増やしたりや自社株買いによる株主への還元は増加しています。<株主資本主義>になりつつあるのです。これはこれで問題ですが、自身の対処として、雇用と労働を通じてだけ、所得を得るのではなく、投資をして資本の対価をもらう株主側になる手があるわけです。個別の企業の株を買ったり、それらの株を束ねた<投資信託>を長期で持ったりするというのは、まさに株主側に立つことを体現しているわけです。私たちにとって、投資を通じて自分も社会も豊かになれることが資本主義の最大の魅力です」

「そういえば、会社の上司が『おカネにも働いてもらう』と言っていたことを思い出しました。銀行の普通預金に置いていてもおカネは働いてくれないので、やはり投資を通じておカネに働いてもらいたい、銀行に置いておくものはもったいないという気持ちが湧いてきました」

 隆一がそう言うと、先生はうなずき、コーヒーをうまそうにひと口飲み、続けた。

「日本人の中には、汗水たらして働いて得たおカネは貴いが、投資で得たおカネはあぶく銭、あるいは不労所得のように言う人がいましたが、まったくの勘違いです。どちらで得たおカネも貴いおカネです。ただ、この勘違いには文化的な背景だけでなく、投資での収益がリスクに挑んで得た報酬だという理解が欠けているのです」

儲けた金で、いい生活をしたい。どんな動機でもいい


 話が核心に迫ったとみえ、先生の口調は熱を帯びてきた。

「では投資を通じて、経済的に豊かになろうとすることの意味を考えてみましょう。多くの人は、大金持ちになりたいというのではなく、もう少しおカネがあれば、もう少し余裕のあると生活をしたい、と思って暮らしているのだと思います。あなたもそういう人ではないですか?」

 先生との会話の中でようやく我が意を得たと「その通りです!」と隆一は答えた。

「それで結構!自分を卑下する必要はまったくありません。資本主義では、おカネを欲しがることは決して恥ずかしいことではありません。自分が稼ぐことが世の中のためになるというのが資本主義の発想です。裏を返せば、自立しよう、社会に役立とう、という倫理観が先にあるはずだ、ということです。その倫理観がないと、投資も単なる小遣い稼ぎになります。」

「急に倫理観なんて話が出てくると、ちょっと混乱します」

「資本主義は金儲けをする人を当然否定はしません。ただ、近江商人のいう“三方よし”に代表されるように、自己の利益、顧客の利益、社会の利益が一致しないとそのビジネスは永くは続かないのも事実です」

 隆一は確かにその通りだと思った。先生から小遣い稼ぎの方法だけを学ぶよりも、長期投資をすることで、それが社会に役立ち、自分の資産も増える仕組みがあるならば、知りたいと感じた。このように思ったこと自体、隆一にとっての静かな変化だった。

 とはいえ、“人はパンのみにて生きるにあらず”という言葉もある。単なる金儲けの勉強という動機だけで、「一杯どう?」という誘いを振り切って毎週金曜日の夜にここに通い続けられるか自信が持てない、というのが彼のいまいまの本音だろう。

人生の選択肢を増やすために、お金を増やす

「投資は単なるカネ儲けではないといったのは、投資でも、働くことでも、資本主義では、稼ぐことは自由を得ようとすることでもあるからです。福澤諭吉も『経済的な自立なしに人格的な独立も自由も達成できない』と言っています。実際、年収がアップしたおかげで人生の選択肢が増えたという人は少なくありません。おカネがあれば、趣味も広がりますし、子供の教育におカネをかけることも、家族サービスも、ボランティア活動もできます。逆に、おカネがなければ、家庭を持ちたくとも結婚もできない、のが現実です。投資も、おカネの心配から解放されて安心を得るとともに、人生の選択肢を増やすという、自由を得る手段になります。人間の自由になって自己実現を達成したいという強い欲求、アニマルスピリッツが経済を活性化させるのです」

「人生の選択肢を増やし、自由を得る手段、ですか。先生、それはありがたいです。新橋で千ベロばかりでなく、美人女将のいる銀座の小料理屋に通ったり、一流シェフのいるフレンチで食事ができたりしますね」

「もちろんそのような動機も否定するものではありませんが」と先生は、まあこんなものかとひとりごちた。

第8話:「ほどよい格差が資本主義を安定化させる?」を読む

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(中桐 啓貴)

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