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<11>ご機嫌いかが?Mr.マーケットとバブルとマグロ

トウシル / 2024年9月22日 11時0分

<11>ご機嫌いかが?Mr.マーケットとバブルとマグロ

<11>ご機嫌いかが?Mr.マーケットとバブルとマグロ

 

※この記事は2018年4月27日に掲載されたものです。
 

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第3章 バブル崩壊は、投資タイミングのヒントになるか?

<第2話>ご機嫌いかが?Mr.マーケットとバブルとマグロ

「それでは次にMr.マーケットの話をしましょう」と先生が話を切り替えた。
「Mr.マーケット? ミスターということは、長嶋茂雄?」

「ふむ。さて、Mr.マーケットとはバフェットが株式市場のことを言う際に好んで使う言葉です。なぜミスターとつけるかと言うと、株式市場(マーケット)というのは、まるで人の感情の起伏のように、上がったり、下がったりするからです」

「そういうことですか。私の嫁も朝はとても機嫌が悪く、ほとんど話しかけられる状態ではないのですが、夜、お気に入りのワインを飲んでいるときは不気味なくらい機嫌が良く、『あなたも仕事がんばっているわね』なんて言葉をかけてくれたりするんですよね。なんでしょうね、あの振り幅は。その真ん中くらいがいいんですけど。」

「Mr.マーケットもあなたの奥さんに勝るとも劣らないほど、気性が激しいのです。ではまず、とっても機嫌がいいときの話をしましょう。つまりバブルのことです」
「えっ、バブルですか?」

「そうです、バブルを理解すると相場の特徴も理解できます。株式市場では、好景気で市場が活況を呈して、株価の値上がり基調が続くことがありますが、そうしたブームもバブルとは紙一重で、日本も1980年代の不動産バブル、1990年代後半にアメリカで起こったITバブルなどがあります。そして、ある日突然やってくる相場の暴落はバブルの後遺症です。よく気を付けないとね」

「気を付けろ、と言われても・・・。」

マグロの初セリ。1億5,000万円から700万円に大暴落

「大丈夫。傾向と対策です。あなたが奥さんとひとまずうまく付き合っているように、きちんと理解すれば、気を付けられるようになります。それに、バブルを理解すると、なぜ、長期で投資に臨むほうが、あるいは、積立投資のように長期にわたって時間を分散する投資のほうが、結局は成績がよいのか、リターンを得やすい理由が腑に落ちるはずです」

<リターン>という言葉で、隆一は身を乗り出した。

「では、どこから話を始めましょうか。まず、株式や不動産への投資に限らず、モノの値段は、その時々の市場での需要(買い)と供給(売り)によって決まっていきます」

「先生、さすがにそこは私もわかります。モノの値段が、需要と供給が一致したところで決まることくらい、高校生でも知っていますよ。どの教科書にも書いてあるじゃないですか」

「失礼。さて、ここからが肝心です。その需要と供給の特徴です。需要は、実際に消費するための<実需>からだけ、生まれるわけではありません。何かの理由でどうしても欲しければ、どんな値段でも買うかもしれません。ここで私たちが説明に使うのが、『価値(Value)と価格(Price)とは違う』という言葉です。ところで、マグロは好きですか?」

「そりゃ、好きです。特に中トロなんて最高ですね。もっぱら回転寿司ですが」

「ええ。私も好物です。そのマグロですが、市場のセリで値段が決まりますよね。覚えているかもしれませんが、2013年の初セリで大間のマグロに1尾1億5,540万円の高値が付いて話題になりました。すしチェーン『すしざんまい』と香港資本の『板前寿司』が競い合った結果でした。しかし、翌年の初セリでは同様のマグロが1尾736万円でした」

「ありましたね、そんなこと。同じマグロでも、その時々によって、値段は大違いですね」
 隆一は、当時のニュースをぼんやりと思い出しながら、ぼんやりとした返事をした。

「この価格差に、違和感を覚えませんか? 翌年のマグロが前年に比べて、大きさや味で極端に劣っていたわけではないはずです。20倍以上の差がつくほどにはね。つまり、実質的な価値とは別に、価格というのは市場で決まる、ということです」

「味は食べてないのでわかりませんが、大きさが20倍も違うなんてことはないでしょうしね。話題づくりとはいえ、ずいぶん釣り上げたもんですね」

「釣り上げる、という表現はおもしろいですね。欲しい人の熱量次第で価格というものは変化していきます。株価も同様です。対象となる会社の収益力や保有する財産などの価値だけで決まるわけではありません」

「なるほど、マグロのセリと同じというわけですね」

期待と期待と期待がバブルを作る

「セリの話から始めたのは、株式、外国為替、不動産、あるいは仮想通貨といった投資商品は、マグロよりも、もっと価格が大きく変動するということを伝えたかったからです。」

「えっ、もっと大きな変動ですか?」

 隆一の食いつきを見て、先生のコーヒーカップを握る力も強くなった。

「投資の場合、今すぐに消費したり利用したりするわけではないけど、将来、値上がりするかも、という<期待>から生まれる需要が加わるからです。こうした需要を<期待需要>と呼びましょう」

「期待需要か。覚えることが多いな」という隆一のぼやきを無視して先生は続けた。

「株式投資を例にとると、創立して間もなく、いまだ利益を生んでいない会社や、あるいは足下の業績は赤字の会社でも、将来性がありそうと人気が出れば、多くの人に『値上がりするかも』という期待が生まれ、買う人が増えて、実際に値上がりする場合があります。アメリカでネットバブルが起きたときは、名前にドットコムを付けるだけで投資家が殺到し株価が急騰しました。逆に、業績順調な会社でも、何かの理由で失望され、将来への期待が萎めば、売られて株価が暴落する場合もあります。」

「えぇ。それじゃあ、良し悪しの基準がわかりません。何を信じて買えばいいのか」

「それが、相場の難しさでもあり、醍醐味でもあります。そこで、投資家の期待や失望がどのように生まれてくるのか、を理解することが重要になります。」

「期待と失望の生まれ方ですか。そんなものにもメカニズムがあるんですね」 

「ここで、バブルの話に戻るのですが、言葉の説明からすると、バブルとは『bubble』、つまり泡の意味です。そして、財やサービスの生産・販売や設備投資などの実体経済による需要や供給に関わりなく、価格が暴騰することをバブルと呼んでいます」

 どうやら先生はこのあたりの細かい話が好きそうで、話が長くなりそうだと思った隆一は、なんとか自分で結論を作って、ショートカットを試みてみた。

「さっき、期待需要とおっしゃいましたよね。それが、バブルなのですね」

「似てはいますが、少し違います。バブルは、期待需要そのものから生まれるというより、それを背景として、売りや買いを仕掛けて儲けようという人々の思惑、つまり投機の対象となるが故の価格変動が加わって膨らんでいきます」

株は食べられない。金融商品の値動きが大きくなる理由

「どういうことですか?」

「君が初めて訪ねてきた頃、投資とギャンブルとの違いを説明しましたね。そのとき、トレードという用語を使って、私の言う『投資』が、株式やFX(外国為替証拠金取引)の短期回転売買とも違うと、話しました。投資は、企業の成長を資金で応援して、その果実を自分も得る、という営みだから、成長企業や安定して利益を生んでいく優良企業を見つけて資金を投じる。結果として、投資の期間は中長期になる。一方、株式のトレードでは、需給で決まる株価に着目して、株価が値上がりしそうなら買い、値下がりしそうなら売る、という売買を繰り返して利益を上げようとする。価格差で利益を得るのが狙いだから短期勝負に向いている、という話です」

「ええ、先生、バッチリ覚えています。僕は、トレードよりも投資を身につけたいと思っています」

「よろしい。トレードそのものは投機とは違いますが、需給による価格差を利用して利益を得ようとする点は同じです。ちなみに、『投機』にはさまざまな定義がありますが、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズは『投資とは資産の利回りをその資産の存続期間の全体にわたって予想する活動』であるが、『投機とは市場の心理を予想する活動』である、という言い方をしています。相場は、市場参加者の心理で決まるという説ですね。言うまでもなく、市場参加者というのは、人間ですから、理屈はどうあれ、儲かりそうなら一斉に買い、損しそうなら一斉に売る、という行動をとります。これが、バブルの背景になります。あなたもそうでしょう?」

「もちろん、長いものには巻かれますよ」と隆一は堂々と言った。

「でも先生、いくらなんでも100円のものが、1000円になったら、みんな気づくのではないですか?」

 先生は頷いた。

「いい質問です。日々の、食品や衣服の代金、あるいはスマホ代や飲み代といった財やサービスの支払いには実際の消費需要があり、生産という供給能力の制約もあります。だから、一時的な需給のアンバランスで値段が上下することはあっても、時がたてば価格変動は収束しますし、それほど幅も大きくなりません。一方、株式、債券、外国為替、あるいは仮想通貨などの取引では、極端にいえば帳簿上で数字のやり取りがなされるだけで、株や債券を消費するわけではありませんから、パソコンやスマホのクリックやタップだけで、瞬時に何回でも売買できます」

「なるほど、確かに株式もビットコインも食べるわけじゃないですよね。だから、何度でも回転売買できるのか」

 隆一は、少しずつバブルが起こる本質に近づきはじめていた。先生はそれを察して続けた。

「どんな値段でも、その価格で売る人が存在し、買う人が存在すれば、取引は成立します。金融資産の売買には、消費者や利用者は存在しません。あるのは、金融資産の売買で儲けたいという市場参加者の心理、つまり、思惑と欲望だけです。だから、『そんな高値で仕入れたら、採算が取れないのでは』などという心配はしません。ある人には高値と思えても、別の人に『もっと高い値段になるはず』という心理が働けば、売買は成立します。だから、投機の対象となり、バブルが発生するのです。実はあのアイザック・ニュートンでさえもMr.マーケットに翻弄され、バブルに巻き込まれて大損をしているのです」

第12話:「繰り返されるバブル。資本主義はバカなのか」を読む

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(中桐 啓貴)

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