2023年の中国経済を振り返る。一年で最も重要な経済会議は何を語ったか
トウシル / 2023年12月21日 7時30分
2023年の中国経済を振り返る。一年で最も重要な経済会議は何を語ったか
足元の主要経済統計が物語る中国経済
2023年の中国問題を振り返るとき、最大の焦点の一つが、新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に封じ込めるために取られた「ゼロコロナ」が3年ぶりに解除された後、経済活動がどれだけの速度と規模で正常化するか、より世俗的に言えば、景気が戻るか、でした。
私は今年3年半ぶりに2回中国に出張し、現地視察を試みました。6月と10月です。前者で実感したのが「ゼロコロナが中国経済と国民生活にもたらした影響は想像以上に大きいな。景気回復は簡単ではない」ということ。後者で実感したのが「とはいえ、そろそろ底打ち感はあるな。最悪の状況からは脱出したのだろう」ということ。
中国国家統計局は12月15日、11月(1~11月)の主要経済統計結果を発表しました。
11月 | 10月 | 9月 | 8月 | 7月 | 6月 | 5月 | 4月 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
工業生産 | 6.6% | 4.6% | 4.5% | 4.5% | 3.7% | 4.4% | 3.5% | 5.6% | |||
小売売上高 | 10.1% | 7.6% | 5.5% | 4.6% | 2.5% | 3.1% | 12.7% | 18.4% | |||
固定資産投資 | 2.9% (1~ 11月) |
2.9% (1~ 10月) |
3.1% (1~ 9月) |
3.2% (1~ 8月) |
3.4% (1~ 7月) |
3.8% (1~ 6月) |
4.0% (1~ 5月) |
4.7% (1~ 4月) |
|||
不動産開発投資 | ▲9.4% (1~ 11月) |
▲9.3% (1~ 10月) |
▲9.1% (1~ 9月) |
▲8.8% (1~ 8月) |
▲8.5% (1~ 7月) |
▲7.9% (1~ 6月) |
▲7.2% (1~ 5月) |
▲6.2% (1~ 4月) |
|||
調査失業率 (除く農村部) |
5.0% | 5.0% | 5.0% | 5.2% | 5.3% | 5.2% | 5.2% | 5.2% | |||
同25~59歳 | 4.1% | 4.1% | 4.2% | ||||||||
同16~24歳 | 21.3% | 20.8% | 20.4% | ||||||||
消費者物価指数(CPI) | ▲0.5% | ▲0.2% | 0.0% | 0.1% | ▲0.3% | 0.0% | 0.2% | 0.1% | |||
生産者物価指数(PPI) | ▲3.0% | ▲2.6% | ▲2.5% | ▲3.0% | ▲4.4% | ▲5.4% | ▲4.6% | ▲3.6% | |||
以上、中国国家統計局の発表を基に作成。数字は前年同月(期)比 ▲はマイナス |
工業生産は市場予想を上回る伸びを見せましたが、小売売上高はそれを下回りました。固定資産投資は横ばいで、不動産開発投資は今年に入って最大の下げ幅を記録。若年層を含め他年齢別の失業率(調査ベース)の発表再開は依然として先送りにされています。
私が一番気になったのはやはりデフレ動向。CPI(消費者物価指数)が近年では最大の0.5ポイント下落。PPI(生産者物価指数)も低迷したままです。潜在成長率が約5%あるとされる中国経済において、デフレスパイラルが固定化してしまうと、成長の阻害要因となってしまう恐れがあります。少子化、不動産バブル崩壊リスクと並んで、中国経済の「日本化」(ジャパナイゼーション)は引き続き不確定要素であり、来年も注意して見ていく必要があるでしょう。日本経済、株式市場への影響も必至だと思います。
1年に1度の中央経済工作会議が開催
中国経済が「迷走」するなか、12月11~12日、毎年師走に開催される中央経済工作会議が開催されました。経済の分野では1年で最も重要な恒例会議で、その年の経済情勢を振り返り、翌年の経済政策を審議します。習近平総書記以下、中央政治局常務委員(トップセブン)全員が出席するという事実も、その重要性を物語っています。
会議は、景気の現状を楽観視していません。
「景気回復をより一層促すためにはいくつかの困難と課題を克服しなければならない。それらは主に、有効な需要の不足、一部業界に存在する過剰生産、社会全体における期待値の弱さ、依然として残るリスクである。国内大循環にはブレーキ要因が存在し、外部環境の複雑性、深刻性、不確実性は上昇している」
その上で、2024年は財政出動を適度に強化、金融緩和も必要に応じて実施、そしてこの二つの主要マクロ政策の精度と有効性を向上させると主張しています。これらの政策を打ったとしても、然るべき効果をもたらさなければ意味がないという危機感がにじみ出ています。
また、来年の経済政策を巡るミッションとして9つ挙げましたが、最初の2つに来たのが、「科学技術イノベーション主導による現代産業システムの構築」と「国内需要の着実な拡大」です。
前者では「バイオ製造、商業宇宙飛行、量子科学、生命科学、デジタルスマート技術、グリーン技術」などが、
後者では「スマートハウス、文化・レジャー観光、スポーツイベント、中国製トレンド商品、新エネルギー車、電子製品」が特に重視、推進する具体例として示されました。
そして、経済成長だけでなく、構造改革も同時に実行していくスタンスも表明されました。持続可能な経済発展を遂げるためには「成長」と「改革」という両輪を同時に回していかなければならないというのが、引き続き中国経済にとっての最大の課題だと私は見ています。
中国経済に漂う不透明感
今年3月の全国人民代表大会(全人代)で、中国政府は2023年の経済成長率目標を「5.0%前後」に設定しました。実際、1~9月の成長率は5.2%で(統計の信ぴょう性は置いておいて)、通年の成長率が目標を達成する可能性は低くないと私は見ています。
一方、昨年度は「ゼロコロナ」がもたらした阻害要因も作用し、目標の「5.5%前後」を下回る3.0%に終わりました。今年はそれと比較した場合の成長率ですから、達成は比較的容易、むしろ勝負は来年だといえるでしょう。来年3月の全人代で、中国政府が成長率目標をどの程度に設定するのかは見ものです。
市場や世論からの見え方としては、やはり中国経済に漂う不透明感をどう払しょくしていくかがカギを握るでしょう。例えば、図表の空白になっている若年層の失業率や、従来であればすでに開催されている、中国共産党中央委員会が1期5年のうちに経済政策を審議する三中全会が未開催のままで、スケジュールも発表されていないといった状況。
私自身は、中国(経済)にとって最も必要であり、欠けているのは「信用」だと思っています。そして、信用は天から自然に降ってくるものではなく、透明性の向上、予測可能性の担保、説明責任の徹底など、絶え間ない努力と行動によってのみ確証されるものでしょう。
リスクばかりに目が行きがちな中国経済ですが、中国政府は「やれることは全てやった」と誇れる次元まで政策レベルを高め、その上で、マーケット側は、そんな中国経済を公平に評価する。そんな健全な均衡点の創出が、かつてないほどに求められていると思います。
(加藤 嘉一)
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