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「センター試験はいつも雪」から考える投資術

トウシル / 2024年1月16日 7時30分

「センター試験はいつも雪」から考える投資術

「センター試験はいつも雪」から考える投資術

共通テストの日はいつも雪が降る?

 1月12日(金)は大学入学共通テストの一日目の前日でした。この日、筆者は知人との会話の中で「センター試験の日はいつも雪が降る」という話を耳にしました。テスト本番の日に日本海側、関東地方などで降雪予報が出ていたことについての発言でした。会話のさなか、素通りしそうになったものの、「いつも」とはどういうことなのかと疑問に思い、後に詳しく調べました。

 1979年(昭和54年)、国公立大学を受験する際の一次試験として共通一次試験が始まりました。

 1990年(平成二年)にセンター試験(大学入学者選抜大学入試センター試験)となり、2021年(令和三年)に社会情勢の変化に対応すべく思考力、判断力、表現力などを量ることを重視した大学入学共通テストになりました。現在の同テストは一部の私立大学の入試の役割をも担っています。今も昔も、受験生にとって大変重要なテストです。(以降、共通テスト)

 共通テストの日に「いつも」雪が降るといわれています。冒頭で書いた彼の発言だけでなく、大手ポータルサイト内の降雪に警戒するよう呼びかけたニュース記事に対し、個人より「毎年共通テストの時に雪の予報が出る」という趣旨のコメントが寄せられていました。そしてこのコメントに「共感した」が1,000以上押されていました。

 以下の図は、共通テスト期間中の主要地域の降雪実績です。共通一次試験開始当初より、毎年1月のいずれかの土日に試験が行われてきました。気象庁のデータをもとに、この両日のいずれかあるいは両方で1センチ以上の降雪があったかどうかを確認しました。

 データを確認できた1961年から1978年までを期間(1)、1979年のテスト開始から2001年までを期間(2)、2002年から2024年までを期間(3)とし、それぞれの期間で降雪がみられた年がどの程度あったかを示しています。

図:大学入学共通テスト(共通一次試験・センター試験含む)期間中の降雪実績

出所:気象庁のデータおよび文部科学省の資料をもとに筆者作成

 豪雪地帯である札幌や新潟では毎年のように共通テスト期間中に降雪が確認されているものの、図内右に示した変化のとおり、全国的にみれば同テスト期間中の降雪は確認されにくくなっています。

 共通テスト開始前の期間(1)において、仙台では44%(2年に1回程度)、松江では39%(5年に2回程度)の頻度で同テスト期間中に降雪が確認されていましたが、期間(3)になると、ともに17%(10年に2回程度)まで頻度が低下しています。

 また、期間(1)(2)で降雪が確認された福岡では、期間(3)での降雪は確認されていません。大阪と高知では期間(2)で降雪が確認されたものの、期間(3)での降雪は確認されていません。

 東京の同テスト期間中の降雪頻度は上昇しましたが、それでも期間(3)の頻度は期間(2)よりも低く、かつ4.3%と25年に1度程度です。豪雪地帯を除けば、全国的には「いつも」からかけ離れているようにみえます。

 冒頭で述べた「いつも」とは、東京を中心とした地域で降雪予報が毎年のように出ることを指しており、かつ実際に雪が降るかどうかは想定していないのだと思われます。なぜそれでも、「いつも」が人の耳になじんでしまうのでしょうか。

「いつも」の裏に大規模な負の出来事

 この場合の「いつも」は、「わりと」「ちょくちょく」「よく」のように出現頻度が高いことを強調する時に用いられる言葉です。頻繁であるというイメージを作り出した上で、話を盛って聞き手にインパクトを与える、大げさに表現して耳目を引く、聞き手を誘導する時などに用いられます。

 こうした言葉が盛り込まれた会話にはデータが盛り込まれていない場合があることに気を付けなければなりません。

 なぜ、このような言葉が広く使われているのでしょうか。共感を得るのに都合が良いからだと筆者は考えています。「いつも」と聞くと、本当にいつもなのだと思う人は少なからずいるでしょう。

 いつもではないにせよ、高い頻度でそれが起きると感じる人はさらに多くなるでしょう。頻度は聞き手次第であるものの、「いつも」と聞くと聞き手の頭の中では発言者の意図通り「起きやすい」というイメージが固まります。

「いつも」を口にする人と、その発言を「起きやすい」と受け取る人をつないでいるのは、過去に小頻度で発生した大規模な負の出来事です。反対の意味を持つ正の出来事は、幸せ、うれしい、楽しい、おいしい、暖かい、心地よいなどを増幅させた出来事です。負の出来事は、これらの逆の要素を増幅させた出来事です。

図「いつも」が浸透する背景

出所:筆者作成

 人間は元来、正の出来事よりも負の出来事に心と頭を奪われる性質を持っているといわれています。このため大規模な負の出来事が起きると、その出来事がそれを目の当たりにした多くの人の心と頭に強く、深く刻み込まれ、それらの人のあいだで暗黙の共通の認識が出来上がります。

 こうした状況の中で誰かが当該出来事について「いつも」と口にすると、暗黙の認識が顕在化して多くの人が共感を示すようになります。

小頻度でテスト当日に都市部で大雪

「いつも雪」における大規模な負の出来事とは、共通テストの日に大都市で見られた大雪です。大勢の受験生を抱える大都市で大雪が降り、電車などのダイヤが乱れ、それまで勉強にいそしんできた受験生がその成果を発揮できない可能性が生じたことがありました。

 2005年1月16日の共通テスト二日目の午後、仙台で9センチ程度、雪が降りました。2006年1月21日の一日目のほぼ終日、東京で10センチ程度、2011年1月16日の二日目の午後、名古屋で11センチ程度、2017年1月14日の一日目から15日の二日目にかけて名古屋で3センチ程度の降雪が確認されました。

図:大学入学共通テスト(共通一次試験・センター試験含む)期間中の最大降雪量 単位:cm

出所:気象庁のデータおよび文部科学省の資料をもとに筆者作成

 上の図のとおり、これらはいずれも期間(3)の2002年から2024年の間で起きました。このことで、仙台、東京、名古屋の期間(3)の最大積雪量は、三つの期間を通じてそれぞれ最大になりました。

 先述のとおり豪雪地帯を除けば、全国的には共通テストの日に降雪は確認されにくくなっていますが、大都市での大雪が小頻度で見られるようになっています。(札幌と新潟の最大降雪量が減少した点は、全国的にテスト期間中に降雪が確認されにくくなっていることと方向性が同じである)

 テスト当日に大都市が大雪に見舞われたという大規模な負の出来事が「いつも雪」というイメージを作ったと考えられます。小頻度であるため、「いつかまたテスト日に大雪が降るかもしれない」という危機感が保持されています。

 この危機感の保持が「いつも」のイメージを持続させていると考えられます。受験生に注意を促す意味でなされる報道もまた、イメージ持続の要因になっている可能性があります。

金(ゴールド)市場にも負の出来事

 小頻度の大規模な負の出来事の影響を受けた経験がある市場があります。金(ゴールド)市場です。戦争という負の出来事が発生し、資金の逃避先として注目を集め、価格が一時的に急騰しました。1970年代後半の出来事です。このことで多くの人が知る「有事の金買い」というイメージが生まれました。

「いつも雪」は共通テスト日の大都市での大雪、「有事の金買い」は世界を驚かせる規模の戦争という、ともに小頻度の大規模な負の出来事によって醸成されました。イメージを醸成するきっかけとなった出来事が小頻度であるため、危機感が保持され、イメージが持続しています。

「いつも雪」も「有事の金買い」も、それらを醸成した大規模な負の出来事が、それを目の当たりにした多くの人の心と頭に刻み込まれているため、現在でも否定されることはほとんどありません。

 情報網が極限まで発達した現代社会では、良くも悪くもイメージが拡散しやすい状態にあります。このため、一度醸成された強いイメージは社会に居座る傾向があります。

 全国的に共通テストの日に降雪が確認されにくくなっていても「いつも雪」が支持されているのと同じように、市場環境が変化して有事だけが価格動向を左右する要因だと言い切れなくなっても「有事の金買い」は支持されています。確かに有事は今でも重要なテーマですが、現在は同時に有事以外にも注目しなければならないテーマが複数あることに留意しなければなりません。

図:小頻度の大規模な負の出来事が生んだイメージと実態

出所:筆者作成

 以下の図のとおり、現在の金(ゴールド)相場の動向は、有事だけで説明することはできません。戦争という過去に起きた小頻度の大規模な負の出来事が生んだイメージである「有事の金買い」は、1970年代後半は金(ゴールド)相場を説明するのに十分な効果がありました。

 しかし現在は、戦争が目立っていなくても、米国の金融緩和や新興国の台頭、中央銀行の買いなどが目立てば金(ゴールド)相場は勢いよく上昇することがあります。それが何よりの証です。今、有事は金(ゴールド)相場の全部ではありません。一部です。

図:ドル建て・円建て金(ゴールド)価格の推移(過去およそ半世紀)

出所:LBMAおよび国内大手地金商のデータをもとに筆者作成

「今ここ」が重要、安易に過去に頼らない

「いつも雪」と「有事の金買い」は、きっかけが小頻度の大規模な負の出来事であるという共通点を持っています。それ以外の共通点に、シンプルで連想しやすいことが挙げられます。これは前回のレポートでまとめた「昭和」の考え方です。

「脱昭和」がこれからの投資スタイルになじむという趣旨で書きました。その意味では「脱いつも雪」そして「脱有事の金だけ」は、社会人として、そして投資家として目指すべき像であると、筆者は考えます。

「脱昭和」を目指すための具体的なアクションの一つに、「以前はどうだった?という考えを減らす」ことが挙げられます。時代の変化が激しい昨今においては、過去を振り返ることで分析を誤ることがあります。

 2022年のように有事が勃発しても金(ドル建て)価格が上昇しなかった例を見れば、過去に頼り切ることがリスクになり得ることが分かります。いったん頭の中をゼロにして、目の前で起きている今の事象と向き合うことが大変に重要です。このことは金(ゴールド)投資に限ったことではありません。

 仮に金(ゴールド)相場を分析する際は、有事ムードをその一つとし、投資スタイルに合わせて以下のテーマに注目するとよいでしょう。短中期であれば「有事ムード」「代替資産(株の代わり)」「代替通貨(ドルの代わり)」の三つ、中長期であれば「中国・インドなどの宝飾需要」「中央銀行」「鉱山会社」の三つ、超長期であれば「見えないリスク」の一つです。

 短期売買の際に四半期に一度公表される「中央銀行」の金(ゴールド)保有量を参照することは、なじまないといえます。

図:金(ゴールド)に関わる七つのテーマ(2024年 筆者イメージ)

出所:筆者作成

 以下は貴金属関連の投資商品の例です。用途に応じ、ご注目いただけましたら幸いです。

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

長期:

純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)
純金積立・スポット購入
投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。新NISAに対応)
ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド

中期:

関連ETF(新NISAに対応)
SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
iシェアーズ ゴールド・トラスト(IAU)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)

短期:

商品先物
国内商品先物
海外商品先物
CFD
金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム

(吉田 哲)

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