2023年の中国経済成長率5.2%増。「若年層の失業率」発表再開の「内側」
トウシル / 2024年1月25日 7時30分
2023年の中国経済成長率5.2%増。「若年層の失業率」発表再開の「内側」
2023年の中国経済成長率が5.2%と発表
中国国家統計局が1月17日、2023年の実質GDP(国内総生産)成長率を5.2%増と発表しました。中国政府が設定した目標は5.0%前後だったので、とりあえず目標達成という結果になりました。統計の信ぴょう性を含めて、中国政府による発表は往々にして物議を醸しますし、私も「中国政府が目標未達成を認めることはない」「中国は設定した目標に実際に達していなくても、数値を操作し、達成したことにして発表する」といったコメントを受けることが多いです。そういう側面や見方を否定するものではまったくありません。
一方、2022年、中国の実質GDP成長率は3.0%増で、中国政府が目標に設定した5.5%に達しませんでした。中国でも目標未達成という局面は出てくるということです。もちろんそれには理由や背景があり、おととしのそれに関しては、新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策によって、経済活動が厳しく制限されたことが最大の原因だったといえます。私自身は、中国政府が従来以上に前向き、率直に目標未達成を認める、政策ミスを自ら公表するといった言動を取るようになれば、中国が抱える「信用力の向上」という課題に対してより主体的に向き合えるようになるのではと思っています。
以下に、コロナ禍を挟んだ過去6年間のGDP実質成長率を整理してみました。こうして改めて振り返ってみると、中国政府による経済成長率の目標設定は独特で、2018年のように6.5%と明記することもあれば、その他の年次に見られるように一定の幅をもたせることもあれば、あるいは新型コロナウイルスの感染拡大が湖北省武漢市から拡大するという非常事態を受けて、目標を設定しないという手法もあります。
年次 | 1-3月期 | 4-6月期 | 7-9月期 | 10-12月期 | 通年 | 目標 |
---|---|---|---|---|---|---|
2018 | 6.9 | 6.9 | 6.7 | 6.5 | 6.7 | 6.5 |
2019 | 6.3 | 6 | 5.9 | 5.8 | 6 | 6~6.5 |
2020 | ▲6.9 | 3.1 | 4.8 | 6.4 | 2.3 | 設定なし |
2021 | 18.7 | 8.3 | 5.2 | 4.3 | 8.4 | 6以上 |
2022 | 4.8 | 0.4 | 3.9 | 2.9 | 3 | 5.5前後 |
2023 | 4.5 | 6.3 | 4.9 | 5.2 | 5.2 | 5.0前後 |
中国国家統計局の発表に基づいて筆者作成。▲はマイナス。単位は%。前年同期比。 |
昨年の5.2%増という結果をどう評価するかに関して、私自身、5.1~5.2%増くらいだと予測していたので、想定内だと受け止めています。一方、目標未達成に終わった昨年が3.0%増と低迷した経緯もあり、その「反動」という側面も重要だと思います。要するに、ある程度達成が見込める中で、言い換えれば、目標達成が比較的容易だった中での結果だということです。
その意味で、より困難が予想されるのは今年、2024年だと思います。これから中国は春節休み(2月10~17日)に入り、その後3月5日に全国人民代表大会(全人代)が開幕します。この日、初めて首相として政府活動報告を読み上げる李強(リー・チャン)氏の口から、どんな目標設定が発表されるかに注目したいと思います。私の現地点での予測は「昨年と同程度」です。
引き続き警戒すべき中国経済の「日本化」
その他の指標を見ると、工業生産、小売売上高はそれぞれ前年比4.6%増、7.2%増となり、国家統計局がコメントした「経済は回復の方向に向かっている」という経緯を一定程度反映しているといえます。一方、固定資産投資は前年比3.0%増、特に不動産開発投資は9.6%減となり景気回復の遅れを象徴する統計となりました。
私が今年注目しているのは不動産市場で、不動産開発投資や主要都市における住宅価格が昨年と比べて回復するかどうか、どれだけ回復するか、そして恒大集団や碧桂園を含めて、会社清算、デフォルト危機に見舞われてきた関連企業がどんな動きを見せるかです。中国において、不動産市場は、株式市場と比べても景気の浮き沈みをより現実的に反映している、故に注視すべきと考えています。
また、貿易の統計結果が0.2%増(輸出0.6%増、輸入0.3%減)ということで、世界経済の影響も中国経済にとってますます軽視できない状況になっている。中国経済と世界経済はますます不可分の関係になっているという点は、日本経済にとっても重要な現実だと思います。
昨年注目が集まった「中国経済の日本化(ジャパナイゼーション)」も引き続き警戒すべきでしょう。前述した、不動産バブルの(一部)崩壊以外に、デフレと少子化が懸念材料ですが、それらは先日発表された統計にも如実に表れていました。
直近の3カ月マイナスで推移していたCPI(消費者物価指数)は通年で前年比0.2%上昇となり、名目GDP成長率が実質成長率を下回った点にも表れているように、中国経済におけるデフレはもはや傾向ではなく、現象だと見るべきでしょう。
さらに、中国の総人口は14億967万人で、前年から208万人減りました。年齢別に見ると、全人口に占める割合は16~59歳が61.3%、60歳以上が21.1%、65歳以上が15.4%となり、少子高齢化現象が着実に進行しているといえます。中国政府も生育政策を緩和し、3人目まで産むことを許可していますが、現時点で功を奏しているとはいえません。中国政府が、少子高齢化が経済成長や社会構造に与える影響をどう解決しようとするかに注目しています。
「新・若年層の失業率」が発表。中国政府の意図は?
中国国家統計局による先日の発表で、私が最も注目したのが、昨年8月以降(7月分から)発表が停止されていた若年層の失業率、より厳密に言えば、年齢別の失業率の「再発表」です。
従来は、失業率(調査ベース、農村部除く)を、
(1)全体、(2)16~24歳、(3)25~59歳
という3つのカテゴリーで発表していましたが、今回からは
(1)全体、(2)在校生を含まない16~24歳、(3)25~29歳、(4)30~59歳
とより詳細なカテゴリーに分けて発表されます。
この新たな調査方法に基づいて、昨年12月は(1)5.1%、(2)14.9%、(3)6.1%、(4)3.9%と発表されました。国家統計局は調査方法と統計発表の変更について個別に説明をしています。市場の警戒心が極めて強い問題だと中国政府が認識している証左だといえます。
それによると、(a)16~24歳の人口のうち在校生(筆者注:高校、短大、大学、専門学校など)が6割強、6,200万人近くいて、それ以外は3割強、3,400万人いる。在校生にとって主な任務は学習であり、兼職で仕事をすることではない。さる状況下、学校で勉強しながら仕事をしている若者と、すでに卒業して社会に出ている若者を同じカテゴリーに混入する従来の方法では、若年層の失業率を巡る実態を反映できないこと、(b)一方で、24歳という年齢期は、多くの若者にとって大学を卒業したばかりであり、30歳くらいまでは職業を選択していく過渡期であること、という2つの理由から、「在校生を含まない16~24歳」「25~29歳」という区分に変更したという説明がなされました。
私自身、中国政府内部でコロナ禍前から失業率の調査方法や発表形態に関してさまざまな議論が行われており、状況次第では変更する必要があるという問題意識が持たれてきた経緯を把握しています。その意味で、特に昨年に入り、16~24歳の失業率が20%を超えて高止まりする中で、突如発表停止された背景には、どうせなら、見栄えが良くない結果が続いているこのタイミングでいったん停止、長年の課題だった調査方法と発表形態の変更に取り組もうという、中国政府の「下心」が作用していたと見ています。
年始、2023年の統計結果を発表するタイミングで、カテゴリーを変更して発表を再開したのは私から見れば想定内であり、サプライズではありませんでした。今回発表された「新・若年層の失業率」は14.9%とのことですが、私の周りの企業人や投資家の間では、早くも「そんなに低いわけない」といった反論や疑念が出始めていて、問い合わせも来ています。
中国政府が今後、自国経済を巡る内外からの期待や不信にどう応えていくのか。引き続き注目していきたいと思います。
(加藤 嘉一)
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