山崎元さんが教えてくれたこと~個人投資家の環境はどう変わったか
トウシル / 2024年2月13日 17時15分
山崎元さんが教えてくれたこと~個人投資家の環境はどう変わったか
山崎元さんが数十年かけて訴えてきたことは実現したのか
山崎元さんが1月1日にお亡くなりになったことは皆さんもご存じのことと思います(トウシルでのご報告のページはこちら)。
私がトウシルで記事を書くきっかけをいただいたのは山崎さんであったりします。この業界で20年以上にわたっていろいろなご縁をいただき、また教えをいただいた方の訃報に接するのは辛いことです。
(ちなみに、名字は同じですが、たまたまです。山崎さんは区別するのによく、「にごらないほうのヤマサキくん」と私を呼んでいました。山崎さんの視点や世界観が濁っているはずもなく、呼ばれるたびに恐縮していたことを思い出します)
山崎元さんの果たされた役割はとても大きいものがありました。執筆活動の当初はファンドマネジャーや機関投資家への啓発から始まり(「年金運用の実際知識」などは企業年金担当者のレベルアップに大きく寄与しました)、その後は個人投資家のレベルアップのためにたくさんの情報発信をされてきました。
個人投資家向けだけではなく、金融機関に対して切磋琢磨を求め、またミスリードを伴う営業アプローチを戒める情報発信も多くなされました。
山崎元さんの取り組んできたことは四半世紀をかけて実現したのか、これからの「新NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)世代」の個人投資家はその環境をどう生かしていけばいいのか、ちょっと振り返ってみたいと思います。
ステップ1:個人投資家が投資を行う環境の改善
山崎元さんが個人投資家に情報発信を始めた2000~2001年ごろは、まだ「金融ビッグバン」を通じた規制緩和が動き始めたばかりでした。
インターネットによる情報通信システムの発展、ADSL(今からすれば激遅だが当時は超高速回線だった)などの普及により、個人が運用を行う環境ができ始め、これを受けてオンライン証券のようなサービス(個人がネットで取引をダイレクトに行える)もスタートしました。
DLJディレクトSFG証券の解説記事を雑誌から依頼され、山崎元さんと分担して執筆寄稿をしたこともあります。そう、現在の楽天証券です。
四半世紀を経て、投資環境は個人向けに大きく開かれました。楽天証券の口座数が昨年12月に1,000万を達成しましたが、これだけの個人投資家が誕生することはかつては考えられないことでした。
またその背景として個人向け国債(変動10年)やNISA制度が創設されたことも、個人の資産運用環境を大きく改善しました。もちろんiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の存在も見逃せません。
私たちはこうした時代の恩恵を、自身の資産形成に役立てていきたいところです。
ステップ2:個人投資家が低コスト投資を行う環境
もうひとつ、この四半世紀で個人投資家に最大のメリットが生じたのは、運用コストそのものも低廉化したことでしょう。
山崎元さんの古い本を読んでいた方々には、「各アセットクラスのインデックスファンドを4本買うほうが、バランス型ファンド1本を買うより低コストになる」という説明は強く刻まれていると思います。当時はバランス型ファンドといえば「おまかせで複数のアセットクラスに投資をしてあげるのだから、高コストになるのは当然」というスタンスでした。
しかし、今ではバランス型ファンドの低コスト化も進みました。運用管理費用が年0.1~0.2%台のバランス型ファンドなどがありますが、20年前の単体のアセットクラスでの投信運用コストを下回っているほどです。
もちろん、アセットクラスごとに単体で運用する投資信託において低コスト化が大きく進展したことは皆さんもよく知っていると思います。確定拠出年金制度のスタート時、iDeCoスタート時、つみたてNISA創設時など、何段階ものコスト引き下げ競争が行われました。
楽天オールカントリーやeMAXIS Slimオールカントリーなど、全世界株式への年間投資コストが0.05%台に達するとは25年前には思いもつきませんでした。
これは国の年金運用ほどではなくとも、民間の確定給付企業年金の運用コストと比べて遜色がないところまで来ています。全て個人投資家にとってのメリットであり、今の時代に、これを使わない手はありません。
ステップ3:個人投資家が長期積立分散投資を行う環境
山崎元さんが訴えてきたことのひとつに、セールストーク的に役立つよう、安易に投資の説明を行うことへの戒めもありました。
長期投資はリスクが下がる、ドルコスト平均法でリターンが高まる(元本割れしなくなる)のような言説を、投資信託を売るための文句としてイージーに利用することへの注意喚起は、金融機関に対しても、個人に対しても刺さるアドバイスだったと思います。
一方で、長期積立分散投資は、現実的な個人の資産形成手法としてベターな選択肢であることも踏まえて(長期積立分散投資をベターな選択肢だと理解した上で選んでいるなら、それを否定はしていない)、「ほったらかし投資」の提案に至りました(水瀬ケンイチさんとの共著)。
今世紀の長期投資環境は、企業型確定拠出年金の創設、個人型確定拠出年金制度のiDeCoとしてのリニューアル、NISA制度の創設と拡充などを踏まえて徐々に整いつつあります。ざっと計算しても年間3兆円規模の積立投資が行われるようになっています。新NISAを踏まえ、さらなる拡充が確実です。
長期積立分散投資の流れは、これからも加速し、それは多くの国民の資産形成に寄与していくことになるでしょう。それは、たくさんの人たちの努力の積み重ねがあって得られた環境であることも、少しだけ心にとどめていただければと思います。
NISA制度が新しいNISA制度となって、さらなるステップを踏み出す2024年を、山崎元さんのいない世界として見るのは残念ですが、私たちは、私たちの資産形成を着実に歩んでほしいと思います。
あなたが未来において経済的安心を確保することができれば、それこそ四半世紀にわたって山崎さんが取り組んできたことが、実を結んだ証になるのです。
(山崎 俊輔)
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