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日銀総裁「緩和的な金融環境続く」発言などで1ドル=150円に、米早期利下げ観測後退も円安材料

トウシル / 2024年2月14日 15時32分

日銀総裁「緩和的な金融環境続く」発言などで1ドル=150円に、米早期利下げ観測後退も円安材料

日銀総裁「緩和的な金融環境続く」発言などで1ドル=150円に、米早期利下げ観測後退も円安材料

日銀総裁らの「緩和的な金融環境続く」発言で円安に

 1ドル=147円台、148円台で動いていたドル相場は、先週、149円台へと円安に大きく動きました。その背景は、8日、日本銀行の内田真一副総裁が奈良市の金融経済懇談会で、「仮にマイナス金利を解除しても、その後にどんどん利上げをしていくようなパス(道筋)は考えにくく、緩和的な金融環境を維持していく」と、緩和縮小に慎重な姿勢を示したことです。

 国内長期金利がこの発言によって低下し、株は大幅高。1ドル=148円台前半で推移していたドル相場は円安に動き、海外市場で149円台半ばまで上昇しました。

 さらに、植田和男日銀総裁が翌9日の衆議院予算委員会で、「先行き、マイナス金利解除を実施したとしても、緩和的な金融環境が当面続く可能性は高い」と、同様の見解を述べています。

 市場では、日銀の政策修正は3月か4月との観測が多かったのですが海外の投資家を中心にマイナス金利解除後も利上げが続くとの見方が優勢だったこともあり、総裁・副総裁の緩和維持発言によって円買いの巻き戻しが一気に出た感じです。

 ただ、植田総裁は緩和縮小に慎重な姿勢は1月の金融政策決定会合後の記者会見でも、「政策修正後も金融市場を混乱させるような政策の非連続は起こさないようにする」と繰り返し述べていました。

 つまり、3月か4月にマイナス金利を解除し、政策金利をその後小幅なプラスに引き上げたとしても、いきなり高い金利に引き上げるのではなく、金融緩和環境を維持しながら、緩和を縮小していくという主旨を、9日の植田総裁らが改めて強調しただけにすぎません。日銀の方針変更を示しているわけではなく、これまでと変わらない方向性を示したと考えられます。

 しかし、内田副総裁の発言が従来の日銀の姿勢と変わらなかったとしても、日銀材料は内田発言をきっかけに仕切り直しになったようです。先行きの緩和縮小に慎重だとの見方が広がったことから、3月の賃上げの程度が明確になるまでは日銀要因はかなり後退しました。

 別の言い方をすれば、3月に賃金と物価の好循環が確認されれば、再び、マイナス金利解除や追加利上げ期待が浮上してくる可能性があることも留意しておく必要があります。

 3月には、日本の物価にも新たな動きがあるかもしれません。日本の物価は政府の電気・ガス料金抑制策によって0.5%ほど押し下げられていますが、2月は政府の電気・ガス料金抑制策から1年がたち、押し下げ効果が弱まってくると同時に、サービス価格の上昇は続いているため、最近鈍化していた物価の伸びが再び拡大する可能性があります。

 3月5日には、全国CPI(消費者物価指数)を先行して2月分の東京都区部CPIが発表されます。そして3月22日には2月分の全国CPIが発表されます。日本の物価動向にも注目です。

 また、今月15日には日本の2023年10-12月期GDP(国内総生産)速報値が発表されます。予想よりも強ければ、日銀の政策修正への期待が高まることが予想されるため注目です。

IMF、日銀に段階的な利上げ促す

 IMF(国際通貨基金)は、9日、年に一度の対日経済審査を終え、声明を公表しました。その中で、日銀の大規模金融緩和策について、インフレ期待を引き上げるといった本来の目的を「すでに成功裏に達成している」との見解を示しました。

 その上で、YCC(長短金利操作)を即時撤廃し、「QQE(量的・質的金融緩和)を終わらせ、その後は短期政策金利を段階的に引き上げることを検討すべきだ」と提言しています。

 また、生鮮食品とエネルギーを除いた物価上昇率は、「2025年後半までは物価目標の2%を上回る水準で推移する」と見通しています。日銀は1月の展望レポートでは、2025年度は2%を下回るとみており(1.9%)、IMFは日銀より強気の見方を示しています。そして予測が実現する場合、日銀は3年間にわたって段階的に利上げをすべきだと提言しています。

 海外勢は、この審査レポートを参考にして、再び日銀の政策修正期待を強めるかどうかに注目です。

米利下げ時期めぐる市場観測は後ろ倒しに

 円安ドル高の要因は米国材料もあります。米国の中央銀行に当たるFRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長らから市場の早期利下げ期待をけん制する発言が相次ぎました。足元の米経済指標や米企業の四半期決算も良かったことから米株は高値を更新し、ドルも上昇しました。

 ただ、2022年のCPI年次改定が大幅改定されたことから2023年の年次改定が注目されていましたが、小幅改定だったことや13日公表の1月CPIも上昇率が鈍化するとの予想だったことから、金利は上昇一服から低下気味となったため、1ドル=149円台で足踏みしていました。

 ところが、13日公表の米国1月CPIの上昇率が前月比0.3%、前年同月比3.1%と予想を上回ったため、米10年債利回りは急上昇し、3カ月ぶりの1ドル=150円台になりました。

 ただ、CPIは予想を上回りましたが、前年同月比で鈍化傾向(12月3.4%→1月3.1%)を示したことから、米国の利下げ期待は大きく後退していません。3月利下げ期待はすでに後退し、市場の5月利下げ確率は、CPI発表前は五分五分でしたが、CPI発表後は40%以下に低下しました。

 そして6月利下げ確率は50%を超えています。市場の利下げ時期の見方は3月→5月→6月と徐々に後倒しになってきています。

 パウエル議長は今年の利下げは適切だと述べています。市場の利下げ期待も維持されていますが、年初の年6回利下げ期待から年4回の利下げ期待へとなってきており、FRBの年3回の見通しに近づいてきています。

 市場は今回のCPIの動きをインフレ再燃とまではまだみていませんが、この先のCPIも上昇が続けば、利下げ時期はさらに後ろ倒しになることが予想され、場合によっては利下げ回数が減っていく可能性があります。

米インフレ鎮静化せず高金利続けば実体経済や株式相場に悪影響

 一方で、利下げ時期が後ろ倒しになればなるほど、金利高止まり期間が長くなり、その悪影響をより警戒する必要があります。

 1月末にみられた米国の地方銀行経営不安が再燃したように、金利高止まりによる時間差の悪影響が商業用不動産を抱える地域金融機関だけでなく、中小企業、個人の住宅ローンや自動車ローン、カードローンに及ぶのかどうか一層注視する必要があります。

 AI(人工知能)バブルで高値を更新している株式市場、その恩恵を受けている日本の株式市場もその動きに対して警戒モードが高まってくるかもしれません。

 ドル相場は3カ月ぶりに1ドル=150円を超えてきましたが、日本当局の円安けん制が強まるとともに為替介入への警戒感が高まることが予想されます。日本政府の為替政策の実務を取り仕切る神田真人財務官が14日朝、記者団の取材に最近の円安の動きがかなり急速だとの認識を示した上で「必要があれば最も適切な対応を取る」と述べました。

 また、米金利高止まりの長期化から、これまでの150円超の世界とは違う動きになるかもしれません。一段の円安が進むのか、介入警戒と高金利長期化の影響を警戒し、150円に乗せても足踏みするのかどうか注目したいと思います。

 

(ハッサク)

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