大江英樹さん著「お金の賢い減らし方」から個人投資家が学ぶべきこと
トウシル / 2024年2月28日 11時0分
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大江英樹さん著「お金の賢い減らし方」から個人投資家が学ぶべきこと
大江英樹さん最後のベストセラー「お金の賢い減らし方」と「DIE WITH ZERO」
1月1日(くしくも山崎元さんと同日)にお亡くなりになられた大江英樹さんは、個人投資家向けの執筆や講演が多かったことで知られていますが、最後のベストセラーとなったのが「お金の賢い減らし方 90歳までに使い切る」(光文社)です。今年に入ってからも増刷となったそうです。
お金を増やす方法を語る本はたくさんありますが、お金の減らし方について語る本はあまり多くありません。
同種類のテーマを扱った海外のベストセラー本として「DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール」(ビル・パーキンス著、ダイヤモンド社)があります。「資産ゼロで迎える死」というのはなかなか刺激的なタイトルですが、両書の伝えようとしているメッセージを読み解くことは個人投資家においても意義があることではないかと思います。
今回は大江さんが最後に掲げたテーマ「お金の減らし方」を個人投資家に向けて少しお話してみたいと思います(ブックレビューというよりは私の視点で語りますので、興味が出たら書籍を購入してみてください)。
札束は天国に持っていくことはできない
個人投資家と一口にいっても、「資産形成」をする世代と、「資産活用(取り崩し)」をする世代があり、これは大きく違います。最初にこのイメージを持ってみてほしいと思います。
毎月定額の積み立てを行い、すでに積み上がった資産を含めていき、資産額がより多くなるための運用を考えていくのが「資産形成」世代です。つまり「積み立て+運用」です。取り崩しは限定的であり、基本的には残高が増えていくステージです。
しかし、セカンドライフに入った以降は「運用+引き出し」にお金の流れが変化します。多くの場合、新規の積み立ては行いません。かといって運用を完全にストップする必要もありません。運用をしつつ(リスクはコントロールする)、引き出しをしてもいいわけです。資産残高は徐々に減っていきます。
個人投資家はこれを意識しておかないと、残高だけをいつまでも増やすことになってしまいます。しかし、お金は使うことが「目的」であって、残高を増やすことは一生涯の「目的」ではないはずです。
人生の最期の瞬間に残すことができるのは、記憶や思い出だけです。札束がどんなにたくさんあったところで、天国に持って行くことはできません。
現役時代も禁欲的にひたすら貯めるよりは少々の取り崩しはするべきですし、年金生活に入ったら、むしろ積極的に取り崩しを考えるべきです。
定期的に取り崩す感覚を持てば、お金の取り崩しは怖くない
ところが、「お金がなくなることの恐怖」を私たちは常に感じています。
ここは冷静に考えてみましょう。まず公的年金収入が何万円であるか、自分の受給権がはっきりしたとすれば、それは一生涯約束された定期収入です。あなたが何十年長生きしたとしても、2カ月に一度、2カ月分を入金してくれます。日々の家計の基本的な収支、つまり
(日常生活費)=(公的年金収入)
のバランスが維持できれば、実は老後のほとんどのお金の問題は解決しています。破綻はありえないからです。年金生活に入ってからまず、家計のバランスを整えることが経済的安心の一歩目です。次に考えるのは、日常生活費以外の支出、つまり
(教養・娯楽費、交際費など)=(公的年金で不足する毎月の取り崩し額)
のバランスを取ることです。現実には月4~5万円くらいがこれにかかっています。旅行代、美術館や映画鑑賞費用、それらにかかる交通費や外食費、そして子や孫へ送るお金(誕生日、進学祝い、結婚祝いあるいは孫が遊びに来てくれたときの遊興費など)、および冠婚葬祭費用などを積み重ねていくと月4~5万円ということです。
これを「65歳から75歳までは月5万円くらい」と見込むとすれば合計600万円を取り崩すことができれば問題ないことになります。「75歳から90歳までは月3万円くらい」と仮定すれば、これまた540万円となります。合計して1140万円を取り崩し枠として考えれば、老後は困らないということになるわけです。
もちろん、リタイア時の残高が1140万円あれば、全額取り崩す、というわけにはいきません。病気や介護の費用が増大する可能性、インフレや増税などへのリスクヘッジとして「もしものための予算(葬儀代)」「自費診療や個室代を確保するための予算」「老人ホーム入居費用(家を売って充てることも可)」などを別枠で確保してみます。
年金生活に入ったら、この「日常生活費(年金収入とのバランス)」「定期的な取り崩し額」「老後の安心料としての確保分」のバランスを計算してみてください。使っていいお金が見えてくれば、残りは使って老後の楽しみをたくさん増やしていけばいいのです。残高は減らしていいと気持ちよく割り切ることができます。
遺すのもまた選択、相続するか遺贈するか
全財産を本当に使い切って死ぬ、というのはなかなか難しいことです。好きなだけお金を使っていって、残高ゼロになったら自ら山野に入って死を選ぶ、のようなことは現代社会では困難です。
難しいのは、老後の期間はどれほど長いか分からないことです。毎月の取り崩し額を増やせば、安心料としてのお金の確保が減ります。一方で、75歳くらいでお迎えがくれば、確保したお金は多く残ることになります。
このあたりのバランスはそれぞれの考え方次第ですが、「残ったら、残ったでよし」と考えればいいと思います。それは相続できるお金となりますし、人生の最後に行う寄付、つまり遺贈を家族に頼むこともできます。
「DIE WITH ZERO」とはなかなかいきません。「DIE WITH ○○万円」くらいを自分なりに意識してみるといいでしょう。
個人投資家はせっかく資産運用の力を借りてお金を増やしているわけですから、その努力を自分の楽しみのためにも使わないともったいないと思います。
リタイアが近づいてきたら、あなたなりの「お金の賢い減らし方」を考えてみてください。
(山崎 俊輔)
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