春節の中国は好景気?金利引き下げで不動産市場は回復なるか?
トウシル / 2024年2月22日 7時30分
春節の中国は好景気?金利引き下げで不動産市場は回復なるか?
春節期間中の「好景気」を宣伝する中国メディア
中国の春節休暇(2月10~17日)が終わりました。今年は名実ともにポストコロナ禍という中で迎えた1年で最も重要な長期休暇でした。期待されたのは言うまでもなく遅れている景気回復への起爆剤となることであり、その意味で、この期間、ヒト、モノ、カネの動きを含めた経済活動がどれだけ活性化されたかに注目が集まっていました。
ここ数日、春節期間中に行われた経済活動を巡るデータが続々と出てきています。
・商務省ビッグデータ観測によると、春節期間、全国各地の主な小売、飲食店の売上高は前年比8.5%増で、特に緑色有機食品、金銀財宝の売上高は20%近く伸びたとのこと。
・中国人民銀行が発表したネット決済に関するデータによれば、2月9~17日の間の取引数は一日平均26.3億件、金額は1.25億元(約25億円)で、昨年の春節時と比べて1日平均でそれぞれ18.6%、8.0%増えたとのこと。
・国家文物局による初歩的統計によると、2月10~17日の間、全国各地の博物館が受け入れた参観者数はのべ7,358万人で、前年比で98.6%伸びたとのこと。
・運輸当局のデータによると、2月10~17日の間、社会全体で地域を跨いで移動した人口はのべ22.93億人。全国各地の鉄道利用者数はのべ9,946万人、飛行機の乗客数はのべ1,799万人(1日平均のべ225万人)だったとのこと。
・文化観光省の発表によれば、春節休暇の8日間において、国内観光客数はのべ4.74億人で前年比34.3%増、観光地における総消費額が6,327億元(約12兆円)で前年比47.3%増、コロナ禍前の2019年と比べても7.7%増とのこと。
中国メディアはこれらのデータを記事にして、2024年の中国経済は良好な滑り出しを見せているという論調で宣伝しているのが現状だと思います。私自身、現場に身を置いていないため、肌感覚で理解できないのが惜しいですが、少なくとも、コロナ禍が明ける過程で迎えた昨年の春節時に比べれば、今年の景気は良くなっているのでしょう。
3月に発表される2月の各種経済統計、および4月に発表される1-3月期統計に注目したいと思います。
春節休暇直後に住宅ローン金利引き下げ、その効果は?
春節明けの2月20日、中国人民銀行が、住宅ローン金利の基準となるローンプライムレート(貸出基礎金利、LPR)の5年物を0.25%引き下げ、3.95%としました(1年物は6カ月連続で3.45%に据え置き)。引き下げは昨年6月以来8カ月ぶりで、かつその引き下げ幅は2019年に制度が導入されて以降最大となりました。
この措置が功を奏すか否かは現時点では判断が付きませんが、中国政府としての危機感を反映しているのは間違いありません。
各種報道でなされているように、中国政府の目的は、春節直後というタイミングで国民の住宅購入を促し、出口が見えない不動産不況を少しでも解決しようということでしょう。実態は定かではありませんが、少なくとも昨年に比べれば好調だったという春節期間中の景気の流れを止まらせないために、春節休暇直後に利下げを行うことで、景気熱の流れを継続させたいという立場なのでしょう。
2023年を通じて、不動産開発投資は前年比9.6%減で、不動産販売面積は8.5%減、販売額は6.5%減となり、いずれも2022年から2年連続の減少となりました。私の見方によれば、名実ともにポストコロナ禍で迎え、中国政府もその文脈で景気回復を強調している中、今年も引き続き不動産不況がまん延し、3年連続減少となれば、中国における「不動産神話」は終焉(しゅうえん)を迎えると解釈せざるを得なくなるでしょう。
私も本連載で度々指摘してきたように、中国において、GDP(国内総生産)の約3割、投資の約4割、国民の資産運用の約6割が不動産関連だといわれています。中国経済でこれほどの比重を占める不動産不況が固定化してしまうのであれば、経済成長にも少なくとも黄色信号が点滅と言わざるを得ません。
2024年にとって、不動産市場が回復するか否かは、それだけ重要なメルクマールになるというのが私の見解です。
今後の中国経済に影響を与え得る3つの注目ポイント
中国経済を巡る今後の見通しについて、マクロ的見地から、私が注目する3つの注目ポイントを取り上げておきます。
(1)全人代の「政府活動報告」
3月5日、1年に1回の重要政治会議である全国人民代表大会(全人代)が開幕し、初日、李強(リー・チャン)首相が初めて「政府活動報告」を読み上げます。日本でいうところの首相施政方針演説です。
そこで、今年の成長率目標、インフレターゲットなどをどの程度に設定するか。 また、それらを達成するために、どのようなマクロコントロールを実施していくのかが発表されます。それらの発表や描写から、中国政府としての現状認識や見通しが見えてくることでしょう。
(2)台湾海峡における「中国漁民死亡事件」
春節期間中の2月14日、中国福建省アモイ市の沿岸部に位置し、台湾が実効支配する金門島付近で、台湾当局の取り締まりにあった中国漁船が転覆し、乗っていた4人は海に放り出され、うち2人が死亡する事件が起こりました。
中国政府はこれに反発し、台湾当局に真相究明や責任者の処罰を求めると同時に、「海の警察」である中国海警局が、福建省アモイや金門島付近で、巡視活動を常態化すると発表。その後、早くも金門島付近を運行していた台湾側の遊覧船を臨検しました。
台湾世論でも衝撃を持って受け止められているのが現状で、状況次第では、台湾海峡で一触即発の事態が起これば、国際社会や海外投資家の中国経済・市場に対する見方はますますネガティブになるのではないかと懸念されます。
(3)米中関係
2月16日、ドイツで行われていたミュンヘン安全保障会議に出席した王毅(ワン・イー)政治局委員兼外相とブリンケン国務長官が現地で会談を行いました。米中双方の外交キーマンが対面し、昨年11月、サンフランシスコで行われた首脳会談で得た合意を着実に実行し、米中関係を安定的に管理し、各階級、分野での協議や対話を実行していく旨を確認し合いました。
ウクライナ、イスラエル・パレスチナ、朝鮮半島といった地域問題についても意見交換をしています。中国側は台湾問題で米国側にくぎを刺すなどしましたが、何はともあれ、世界二大国の首脳や閣僚が定期的に会談を行い、関係の安定化に向けて対話を重ねることは極めて重要です。
米中関係の安定は中国経済の成長は表裏一体の関係にあるというのが私の見方です。
(加藤 嘉一)
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